「ゲームをやりすぎると、どうなるのか?」という疑問について、具体的にどんな影響があるか解説します。
本当に科学的な根拠はあるのでしょうか?
海外の動向や研究結果をもとに、ゲームをやりすぎると「人はどうなるのか」を説明します。
ゲームの依存症や、具体的な脳の変化についても説明します。
その中には、ほとんど知られていないこともあります。
オンラインゲームと脳の関係や、ゲームの適切なプレイ時間なども紹介します。
「ゲームは時間の無駄か?」についても書いています。
ゲームのやり過ぎで起こる10の症状について
ネットでは「ゲームのやり過ぎで起こる10の症状」という記事が出てきます。
元記事となったサイトは、海外のODDEEというサイトです。
ここでは、あまりに極端な例が書かれています。
ODDEEのコメント欄にもあるように、信頼性が低い記事と言えます。
ここには指や関節の痛みなど、当たり前のようなことが書かれています。
これらは、ゲームに限った話ではありません。
そして私たちが本当に知りたいことではないでしょう。
具体的に信頼できない項目
「ゲームのやり過ぎで起こる10の症状」について、いくらか信頼できない部分をピックアップしました。
- 強い攻撃性と心の問題
- ゲームによって、攻撃的な人格に変わることはありません。
ジュネーブ大学、ロチェスター大学の研究者らは否定しています。
彼らは暴力的なアニメ・ゲームが一番多い日本で、なぜ暴力事件が少ないのかという疑問を投げかけています。
オンラインゲームで他人と協力すれば、むしろコミュニケーション能力は育ちます。
「ゲームと暴力の関係」を客観的に調べる研究方法を確立するのは難しいでしょう。 - 視力への影響
- 前項のジュネーブ大学、ロチェスター大学の研究者らによって、ゲームが視力を向上させると判明しています。
日本でも研究されていますが、ゲームによる視力低下は否定されています。
近視を引き起こすこともありません。
ただしブルーライトの影響は、注意しないといけません。 - ゲーム依存症
- 確かにゲーム依存症は、最も大きなリスクと考えられます。
しかしゲームを辞めてアルコールに快楽を求めれば、より深刻な事態になります。
睡眠障害など、具体的な症状についても疑問が残ります。
また、ゲーム依存症があるかについては、後述します。 - 光過敏性発作
- 光過敏性発作の要因となる強烈なフラッシュ演出は、古いゲームでも対策がされています。
もちろん、ゲームだけが要因ではありません。
最近では記者会見のフラッシュも、加工されるようになりました。
テレビは、なるべく明るい部屋で、画面から離れて見てください。
また最近では、スマホを含むカメラのフラッシュで引き起こされる可能性も出ています。 - テトリス効果
- 近年では、テトリス効果のことをGTPと呼びます。
クルマの運転中にテトリスのブロックが落ちてきて、重大な事故を起こした事例をあげています。
これらの現象は、浅い睡眠時に起きやすいものです。
テトリスをプレイしていたから引き起こされたとは、考えられていません。
ゲーム依存症と、テトリス効果は関係がありません。 - 死亡
-
中国や韓国、アメリカなどで、ゲームによる死亡例が報告されています。
これもゲームに限った話ではありません。
長時間同じ姿勢を取ることで発症するエコノミークラス症候群や、心不全によるものです。
カフェ内の空気が悪く、病気を誘発した可能性も示唆されています。
現在、事故が起きたカフェでは、対策がされています。
日をまたぐような長時間のプレイは、監視システムによって禁止されています。
これらは、「ゲームに限った話ではない」と分かります。
海外では、積極的にゲームを利用した認知機能の改善や、ゲームによる教育の研究が行われています。
ゲームを目の敵(かたき)にすると、そういった発想が生まれません。
日本でゲームの死亡例がないのはなぜか?
(まだまだ)ゲーム先進国と言われる日本では、ゲームの死亡例がありません。
オランダ、中国、韓国、カナダ、米国などには、ゲーム中毒者に対応する治療用の施設があります。
アメリカの施設では、農業などに従事し、ゲームやインターネットと隔離されます。(中国では軍隊のような施設です)
海外ではゲームの世界大会は、スポーツのように扱われています。
日本の場合だと、いまだにゲームは悪いイメージがあります。
ゲームに対する印象の違いで、日本では自制心がブレーキとなって利いているのかもしれません。
ゲームのやりすぎは脳にどんな影響があるのか?
ゲームをやりすぎると、どんな悪い影響があるのでしょうか?
国内メディアも海外メディアも、ゲームは悪者にされる傾向にあります。
ゲームによる暴力行為の関連性は、(大騒ぎするわりに)科学的な根拠が得られていません。
「ゲームをやりすぎること」の影響は、信頼できる科学メディアではあまり取り上げられていません。
「本当にゲームが要因なのか」という根拠を示すのが難しい、という背景もあります。
現状で判明している最も懸念すべきリスクは、ゲームによる依存症(中毒症状)です。
ゲーム依存症に注意
近年の研究や、海外の文献を読むと、ゲーム依存症は「ある」と認める方向に動いています。
もちろん不健全であり、警戒すべきなのは間違いありません。
国内の科学者も、ゲームのプレイ時間については、意見が分かれています。
感情的にゲームを否定する科学者もいます。
ある科学者は、1日2時間以上ゲームをすると、前頭葉が萎縮すると主張します。
前頭葉が萎縮するのは、依存症患者の症状です。
脳の前頭葉には、行動を抑制する機能があるため、この部位が萎縮すると、快楽のある行動を自分の意志で止めるのが難しくなります。
つまりゲーム依存症になれば、前頭葉が萎縮「している」可能性があります。
しかしゲームを1日2時間以上プレイすれば、前頭葉が萎縮するという科学的根拠はありません。
最も危険な依存症は、アルコールや薬物などの物質依存です。
ゲームをやめても、酒やギャンブルに走るなら本末転倒です。
これらのリスクは、生活する上で知っておくと良いでしょう。
ゲームをやりすぎることの最大のリスクは、この中毒性にあります。
ゲームに限らず、アルコール[※]、ギャンブル、買い物でも、快楽の脳回路を刺激します。
この刺激を続けることによって、依存症になってしまいます。
- アルコールは血液に入るだけで、快楽の脳回路が反応します。
近年のゲームには「課金」というギャンブルに近い要素もあります。
この場合、ゲームによる依存症なのか、ギャンブルの依存症かが分からなくなります。
身を削ってまで、ゲームをプレイするのであれば、明らかに問題です。
9時間を超えると中毒の反応も
ベルギーのゲント大学の研究者らは、普段から9時間以上のゲームをする青少年を集めて、脳をスキャンしました。
9時間以上のゲームをするグループは、中毒症状と関係する脳の部位が、変化していました。[※]
つまり依存症の疑いです。
- 腹側線条体の受容体が肥大化しました。
他の要因で「脳が変化していた」という可能性も捨てられません。
この可能性が捨てられない限り、ゲームと中毒の因果関係もはっきりしません。
とりあえず今の段階では、普段から9時間もゲームをするべきではないと言えます。
キャンディークラッシュで親指の腱が切れた
科学メディアのライブサイエンスに、興味深い事例があります。
2015年にカリフォルニアの男性が、キャンディークラッシュというスマートフォンのゲームをし続けたため、親指の腱が切れたというものです。
キャンディークラッシュは、中毒性の高いパズルゲームです。
彼は2ヶ月続けて、1日中キャンディークラッシュにハマっていました。
それだけ指を動かせば、怪我は容易に想像できると思いますが、ひとつ気になる点があります。
彼はゲームをプレイしている間に、痛みを感じなかったのです。
どういうことでしょうか?
医師はランナーズハイ[※]の状態に彼が陥っていたと言います。
- マラソン中にランナーが無意識のうちに気分が高揚し、不快感や痛みが減ること
ゲームによって快感の回路が刺激され、痛みを感じなかったのです。
これは、たったひとつの報告事例です。
ゲームに限らず、このようなことが起きるのを知っておきましょう。
補足
このキャンディークラッシュの事例は、信頼するのに十分なデータがありません。
事例は一件だけです。
ランナーズハイになる他の要因も考えられます。
以降の類似報告もありません。
ゲームのやり過ぎで、腱が切れるとは言えません。
WHOがゲーム障害を公式に認める
2017年12月、「WHOがゲーム障害を公式に認める」というニュースが流れました。
2018年に、国際疾病分類として「ゲーム障害」が加わるとのことです。
(国際疾病分類は、診断基準や統計で使用されます)
ゲームにおいて、依存症が認められる可能性が高くなりました。
「(ギャンブル依存症のように)身を削ってまで、ゲームを優先させるているか」「1年以上、その傾向が見られるか」というのが、判断基準です。
(ほとんどの人は「辞めようと思えば辞められる」と思います)
ゲームをするだけで、「精神的な障害につながる」ではないことに注意が必要です。
「ゲームをやりすぎる」ということに対して、注意が必要です。
ゲームは1日1〜2時間が正しい
ゲームの適切なプレイ時間について、アメリカでも日本でも、明確なガイドラインはありません。
アメリカの小児学会と、国立メディア&ファミリー研究所では、1日1〜2時間までを推奨しています。
前項の事例のように、9時間以上もゲームをプレイするべきではありません。
昔、ファミコン名人としてメディアに出ていた高橋名人という人物がいます。
彼は「ゲームは1日1時間」という標語を作りました。
この標語には、ゲームより先にいろいろな経験をして「基礎体力を付けるのが良い」というメッセージが含まれています。
これは後の研究によって、裏付けされています。
今の科学においても、全く正しいことです。
スマホやタブレットも同じ
1日1〜2時間までというのは、ゲームに限った話ではありません。
電子デバイスであれば、タブレットもスマホも2時間以内が推奨されています。
1時間でも認知能力は向上する
ゲームは、脳に良い影響を与えることが判明しています。
ジュネーブ大学、ロチェスター大学などで研究が続けられています。
これらの研究では、アクションゲームをプレイすることで、認知能力の向上が確認されています。
1日1時間程度のゲームプレイでも、認知能力が向上すると判明しています。
この記事では、ゲーム脳という嘘や、視力への影響についても詳しく解説しています。
ゲームは時間の無駄か?
多くの人が指摘するように、ゲームはあなたの時間を浪費します。
私も浪費していたと、少し後悔しています。
2010年にクレイグ・スモールウッド氏は、アメリカの裁判所で人気オンラインゲーム「リネージュ2」において、中毒性への警告が不十分だと訴訟を起こしました。
彼は2万時間以上[※]を無駄にしたと訴えます。
- 1日8時間プレイしても7年
7年もあれば、全く別の能力を得ることが、できたはずです。
時間の投資と、消費することのバランスを気にしておくべきです。
私の友人も、1万時間はオンラインゲーム(リネージュやファイナルファンタジー)で生活していました。
今では後悔もしているそうですが、当時は熱中していました。
オンラインゲームで結婚まで
同僚の友人は、オンラインゲームで知り合って結婚しました。
偏見の目で見てはいけません。
これは良いことです。
オンラインゲームは、本人の性格が反映されるという研究報告があります。
これは他の研究者たちによっても、しっかり裏付けされていることです。
実際に会わなくとも、お互いのことをよく理解していたということです。
このような事例を知ると、本当にゲームは時間の無駄なのか考えさせられます。
もうひとつの世界で生活することは、人生において無駄でしょうか?
私は、ゲームが時間の無駄とは言えません。
娯楽は時間で比較する
ゲームが時間の無駄かを議論するには、他の「有意義なことに費やす時間」と、比べる必要があります。
ゲームの代わりにテレビを見れば、もっと時間を無駄にするかもしれません。
テレビで認知能力を向上させることはできません。
しかし今日起こった嫌なことを忘れるために、バラエティー番組を見て笑うのも必要でしょう。
ランチタイムのコミュニケーションのために、ドラマを見るのも時間の無駄ではありません。
ゲームでも嫌なことを忘れることができます。
ただし嫌なことを忘れるのなら、いずれの場合も睡眠前にしてください。
寝るとその日の嫌な記憶が、脳に定着してしまいます。
最後に
近年、世界的なeSportsの盛り上がりもあって、ゲームが与える脳への影響が注目されています。
また、特定ジャンルのゲームでは、上手いプレイヤーほど、IQと相関するという研究もあります。
記事をまとめると「ゲームのやりすぎで悪い影響がこんなにもある」とまでは言えないことが分かります。
最も注意すべきことは、ゲームの依存症でしょう。
とりあえず9時間という異常な量をしてはいけません。
できれば1〜2時間にしましょう。
(ゲームと脳の研究で有名な)ジュネーブ大学のバヴェリア教授は、TEDにて以下のように言います。
ゲームはワインのようなものです。
飲むのが適量なら、良い影響を与えてくれます。
しかし、飲み過ぎると体に悪影響があります。
ゲームも同じで、適度にするならば「脳に良い影響」を与えます。
ただし、やり過ぎないでください。
(近年の研究では、適量のアルコールでも体に悪いという知見が増えていますが、2017年6月の研究によると、少量のアルコールが認知機能を改善するとも報告されています)
実はアメリカでもゲームによる悪い影響として、中毒以外はそれほど懸念されていません。
肥満は重大な病気のリスクですが、最近は体を動かすゲーム[※]が多いのもあって、一概には言えないからです。
しかしマスメディアになると、暴力的、脳を破壊するといった感情的な批判が目立ちます。
- アメリカの住宅事情もあります
もちろん体を動かさないのであれば、重大な健康リスクに繋がります。
適度な運動は、脳にとって良い影響しかありません。
参考文献
この記事は以下の文献を参考にして、独自の解釈でまとめています。
- nature
- Science
- New Scientist
- LIVE SCIENCE
- 依存症 – 脳科学辞典