後悔をやめる方法はありますか?
「後悔はした方が良い」と言う人がいます。
私は「失敗の経験は必要だけど、後悔はしない方が良い」と考えています。
「後悔しても結果は変わらないから、受け入れるべき」とアドバイスする人もいます。
心理学の本でも、よく見かけるフレーズです。
それはちょっと難しい話です。
そこで「自己啓発本には書かれていない脳の仕組み」を紹介します。
哲学ではなく、脳科学の話です。
「後悔をやめる」には、良い方法があります。
私たちに後悔がある理由
後悔とは何でしょうか?
ひとつは「知ること」への欲求です。
ものごとの原因を探すのは、社会全体の仕組みや、自分をコントロールするのに役立ちます。
そのため「もし〜だったら」という想像を、頭の中で作り出します。
このときに「もし〜だったら」が、今より良いことであれば、後悔が生まれます。
逆に今より悪ければ、「自分の行動が正しかった」と振り返り、気分が良くなります。
未来を作るのに必要なシステム
後悔は、より良い未来を作るのに必要です。
後悔により、次回の行動が修正されるからです。
人間の生活で、後悔は必要な機能です。
ただし、気分(機嫌)が悪くなるのと、引き替えにです。
たとえ、二度と起こらない出来事だとしても、「子孫や社会に引き継ぐ」というシステムが後悔です。
年齢と共に後悔の回数が減る
何かの目標を達成するには、若いほど有利です。
そのため年齢と共に、実現可能な目標は減っていきます。
実現可能な目標が少なければ、後悔の回数も減ります。
これによって「年齢を重ねると、後悔の回数が減る」という現象が起こります。
後知恵バイアスを知る
後知恵バイアスは「あのとき、こうすればよかった」という、後悔の認知バイアスです。
日常的な思考のため、これがバイアスと気づく人はいません。
トラブルを回避する判断が、実際は不可能だった場合でも、後知恵バイアスが起こります。
結果を知っていたからこそ、後で別の判断ができたと誤認識します。
自分を過信して、振り返る行為です。
この後知恵バイアスは、取り除くのが困難なバイアスです。
だからこそ、自分の中で向き合い、取り除こうとする努力が必要です。
後知恵バイアスを取り除き、「本当は回避できなかったかも」と思うことで、後悔をやわらげることができます。
他の認知バイアスについては、以下の記事にまとめています。
ところで、後悔を回避する「別の判断」はできるのでしょうか?
もしかしたら「別の判断ができたはず」と、思い込んでいるだけかもしれません。
奇妙な話ではありますが、事項で説明します。
人間は自由な意志で動いていない
![旅行をする女の子のイメージ](https://no-mark.jp/wp-content/uploads/2017/08/regret3.jpg)
人間は自由な意志で行動していますか?
近年の脳科学では「私たちに自由意志はない」と言われています。[1]
- 哲学の自由意志論ではなく、脳科学(神経学)の自由意志です
はじめて聞いた人は、無茶苦茶な話に思えるかもしれません。
これが「後悔をやめる方法」に必要な要素です。
自由意志とは
そもそも自由意志とは何でしょうか?
「どちらか片方の手を挙げてください」と言われて、右手を挙げようと自分で決めます。
そして思い通り筋肉を使って、右手が挙がれば、自由な意志で手を挙げたことになります。
右手を挙げようとしたのに、左手が挙がってしまえば、それは自由ではありません。
![自由意志だと錯覚しているイラスト](https://no-mark.jp/wp-content/uploads/2017/08/regret1.jpg)
この順番が正しいと、誰もが思っています
しかし、実際は自由意志を感じているだけです。
なぜなら、感覚の順番が違うからです。
人間の意志は、原動力ではなく、知覚だったのです。
意識の前に脳は活動する
1983年、カリフォルニア大学のリベット教授らは「人間に自由意志はない」とも言える研究を報告しました。[参考文献※1]
神経学で「最も有名な実験」とも呼ばれています。
この実験は、被験者に好きなタイミングで手を動かしてもらい、脳の活動を測定しています。
このとき分かったのが、信じられないことです。
「動かそう」という意識の前に、動作に関係する脳が活動していたのです。[1]
- 活動していたのは補足運動野という脳部位
![自由意志のイラスト](https://no-mark.jp/wp-content/uploads/2017/08/regret2.jpg)
そこに自由な意志は存在しているでしょうか?
手を動かそうとしている「脳の活動」が先です。
このときは、まだ意識することができません。
そのあとから、手を動かそうという「意志」が発生していたのです。
7秒以上前に行動が予測できる
リベット教授らの実験は、論争を起こしました。
現在では「やはり自由意志はないだろう」という見解が強まっています。
2008年に裏付けとなる研究報告がされています。
ドイツのシャリテ医学大学ヘインズ博士らの報告です。[参考文献※2]
こちらの研究では、7秒以上前から「意識の前に脳が活動している」と報告されています。
「あの人は右手でボタンを押す」という未来が、およそ7秒前に分かってしまうのです。
自由意思は知覚
前項の2つの実験からは、自由意思が原動力ではないと分かります。
原動力となるのは、補足運動野という脳の部位です。
補足運動野が活動してから、手を動かそうと意識できるのです。
私たちが自由意思だと思っているのは「知覚」です。
「自分の意思で行動している」という錯覚だとも言えます。
過去の経験によって行動している
意思が「後付け」だとすると、私たちの行動は、何で決まるのでしょうか?
ひとつは記憶(過去の経験)です。
私たちは過去の経験により、行動しています。
良い経験が、良い行動を生む。そう考えることができれば、少し気が晴れると思います。
サブリミナル効果は意識できない
行動を誘導する手法に、サブリミナル効果があります。
映像に「人間が意識できない」コマを挿入する手法で、現在は禁止されています。
コーラの写真を挿入すると、コーラを飲みたくなってしまうのです。
これは「コーラの写真を見た」と、意識することができません。
「なぜコーラを飲みたいか」を聞くと「炭酸が飲みたくなった」とか「ちょっと刺激が欲しい」といった理由が出てきます。
「自分で意志決定した」と、錯覚しているのです。
やはり自由意志は幻想なのでしょう。
ここでは分かりやすい説明をするため、コーラを例にしています。
「映画館でコーラの広告をサブリミナルで挿入すると、売り上げが伸びた」という有名な実験結果は、ねつ造であったと判明しています。
そのため「購入するほどの影響はない」と言われていますが、無意識の中には刻まれています。
電気信号のノイズに左右される
![分岐している道](https://no-mark.jp/wp-content/uploads/2017/08/regret5.jpg)
どちらでもいい選択は、ノイズで選ばれるかもしれません
意思決定は、過去の経験や記憶だけではありません。
脳には、電気信号が流れています。
その電気信号には、ノイズがあります。
強くなったり、弱くなったりと、常に揺らいでいます。
このノイズは、行動に関わります。
何となく起きてしまう
まったく予定のない日曜日の朝、いつ起きるか迷う経験はありませんか?
突然「よし、起きよう」と立ち上がることがあります。
「これ以上寝ると時間の無駄だ」などと、理由を後付けします。
自由意思で起きたと錯覚しているのです。
脳の活動は、電気信号のノイズによって揺らいでいます。
この揺らぎは、行動を引き起こします。
人間よりも単純な脳を持つ動物で、揺らぎのパターンと行動が一致すると判明しています。
単純に電気信号の揺らぎが、体を起こしたと考えることができます。
電気信号ノイズによる行動については、「朝に起きる方法」という記事で説明しています。
突然ひらめくアイデアも、ノイズの揺らぎだったりします。
なぜ自由意思があると思えるのか?
人間が自由意志を錯覚する理由は、まだ分かっていません。
おそらく人間の社会にとって、都合が良いからだと言われています。
意志が錯覚だと知れば、自分の行動に責任を感じなくなります。
しかし意志はなくても、モラル違反や反社会的な行動を、自分で止めることは可能です。
人間には、このブレーキ機能があるので、社会の崩壊を防ぐことができています。
後悔をやめるには?
![歩く外国人男性](https://no-mark.jp/wp-content/uploads/2017/08/regret4.jpg)
前に進む秘訣があります
後悔を辞める方法のひとつは、前項の「自由意思がない」を知ることです。
後悔したときの判断は、過去の経験や記憶から「自動的」に行動されたものです。
別の判断をすることは、「そのときの自分にはできない」と分かれば、後悔のしようがありません。
後悔は、自己の過信(後知恵バイアス)です。
あくまで未来を良くするための失敗であって、それ以上に落ち込んだり、自問自答をする必要はありません。
欲を出して失敗する
後悔するパターンのひとつに「欲を出して失敗する」があります。
スポーツ、仕事、遊びでも、よくあるパターンです。
そうなった時「辞めればよかったのに」と自問自答をしてしまいます。
自由意思がないと知れば、どうでしょうか?
過去の経験や記憶が、そう判断させたと納得することができます。
「あのとき」ではなく、もともと「決めていた」と知れば、後悔はなくなります。
やるべきことは、今より経験を積むだけです。
ミスをして後悔する
私は仕事でミスをしたとき、自由意思がないと知ってからは、後悔をしなくなりました。
もともと自分の(未熟な)経験により、ミスが起きただけです。
「もし、あの時」という思考がなくなります。
それが私の実力だったのです。
もっと経験を積むことに、意識を向けるようにしています。
電気信号のノイズでミスをする
脳の電気信号にノイズがあることで、作業ミスをしてしまうことがあります。
集中力がないとき、揺らぎが大きくなるので、ミスを誘います。
コップを床に落とすようなものです。
このタイプのミスは、ほとんど防ぎようがありません。
後悔をコントロールする方法
![1992年夏季オリンピックでの 銅メダリストと銀メダリストの感情的反応の分析](https://no-mark.jp/wp-content/uploads/2017/08/regret_n1.jpg)
オリンピックで銅メダルを獲った選手は、銀メダルの選手より「満足度が高い」という話を聞いたことがあるでしょうか?
「もし〜だったら」というのは、悪い方向も見ることができます。
銀メダルが獲れなかったら、銅メダルです。
銅メダルが獲れなかったら、メダルはなく、地位や名声も下がります。
この悪いパターンを思考することで、後悔をやわらげることができます。
つまり、良いパターン(金メダル)ばかり考えると、後悔が増します。
さらに、悪いパターンが(銅メダルのように)それなりの価値があると、やはり後悔が増します。
悪いパターンが(メダルなしのように)極端に差があると、後悔が減ります。
感謝思考
前述したメダリストの例は、悪いパターンを考えることで、後悔をやわらげる方法です。
もし、自分の不注意で怪我をした場合、「回避できた」という良いパターンを考えると、後悔が大きくなります。
しかし「大怪我だったかもしれない」という悪いパターンを考えると、後悔は少なくなります。
昔から人間社会は、「すべてのことに感謝する」という風習を作ってきました。
「生きていることに感謝する」「食べられることに感謝する」という風習は、悪いパターンを思考することです。
このように「感謝する思考」は、後悔をやわらげることができます。
まとめ
「もし、あの時こうしていれば……」という考えは、高慢なのかもしれません。
私たちは「あの時、別の決断ができた」と思ってしまいます。
実際は、別の決断なんてできないように、脳は作られています。
自由な意思とは別に「脳がすでに決定を下している」と知れば、後悔をすることがなくなります。
そう考えることで、私は後悔の思考がなくなりました。
後悔をやめると、未来に集中できるようになります。
「あのとき、ああしていれば良かった」と、頭によぎるかもしれません。
「でも、自分の中で決まっていたことだから、できないよね」と冷静になれます。
後悔回避について
心理学には、後悔回避というものがあります。
後悔しない方の行動をとることです。
確実に失敗しないけど、成功もしないという行動です。
後悔回避は、個人差があります。[※]
- テストステロン(男性ホルモンの一種)も関わります
楽天的な思考を持つ人は、あまり後悔回避をしません。
後悔回避ばかりをしていると、リスクを取らなくなってしまいます。
人生には、少しだけリスクを取る行動も必要です。
後悔をやめる方法を知れば、リスクを取って未来を得ることもできる、そう私は思います。
哲学の自由意志と決定論
本記事で紹介した自由意志は、脳科学(神経学)です。
哲学の自由意志論や、決定論とは異なります。
決定論を信じると、不正行為が増えたり、社会性や学業の成績が低下するなどの傾向があると、示唆されています。[参考文献※3]
本記事で「自由意志はない」というのは、あくまで「よりよい経験をすることが大切」というのが前提です。
最後に
最後に、日常会話で使えるネタがあります。
「どっちが似合う?」と聞いてくる相手には「すでに決まっているのでしょう?」という返しができます。
参考文献
この記事は以下の文献を参考にして、独自の解釈でまとめています。
- Time of conscious intention to act in relation to onset of cerebral activity (readiness-potential). The unconscious initiation of a freely voluntary act.
- Unconscious determinants of free decisions in the human brain.
- Free Will in Scientific Psychology
- Decision-Making Dysfunctions of Counterfactuals in Depression: Who Might I have Been?