あいつは、自分を客観的に見ることができない。
よく聞くフレーズです。
こういった思考は、認知バイアスと言います。
認知バイアスとは、人間なら誰にでもある「思考の偏り」です。
人間は、事実と違うことでさえ、思い込みをします。
不思議なことに、「思い込み」や「勘違い」には、同じ傾向があります。
その傾向を「科学的な研究」によって導き出したのが、認知バイアスです。
- 「いやいや、私は客観的に自分を見てるよ」
- 「あいつは自分を客観的に見ないから問題なんだ」
そもそも人間は、自分を客観的に見ることが苦手です。
別の人から見れば、違った評価になるでしょう。
認知バイアスは、人生において「絶対に知っておいた方が良い法則」です。
冷静になって、他人を見ることができます。
そして自分にも「思考の偏り」があると、気づくことができます。
この記事では、数あるバイアスの中から「人生に役立つものだけ」をピックアップしました。
すべて科学的な研究によるものです。
この記事を読めば「バイアスとは何か?」を、理解することができます。
ダニング=クルーガー効果
能力が低い人ほど、自分を過大評価する傾向があります。
特定のジャンルに限らず、スポーツ、学問、仕事や論理的な思考にまで見られる傾向です。
逆に能力が高い人ほど、自分を過小評価しています。
これを「ダニング=クルーガー効果」と言います。
- ※ダニング=クルーガーは研究者の名前
ダニング=クルーガー効果は、心理学において、非常に有名な認知バイアスです。
「自己と他人を評価する」という内容の研究によって、以下のことが判明しました。
- 能力の低い人は、自分を過大評価する
- 能力の高い人は、自分を過小評価する
下図のように、下層にいるグループは、自己の能力を平均以上だと思い込んでいます。
この図は転載可能です。(基本的に当サイトの図は引用できます)
ブログやSNSで引用したり、シェアする際は、引用元として当ページにリンクしてください。
「井の中の蛙」という言葉があります。
能力の低い人は、単に未知なだけです。
自分を過大評価しているから、能力が低いのではありません。
能力が低いから、自己評価ができないだけです。
したがって「能力が高い人ほど謙遜する」という現象が起こります。
自分はできると思い込むのは、モチベーションとして働きます。
これは自分がスキルアップするのに、必要な心理的効果です。
「努力しても評価されない」
という「いら立ち」は、単にダニング=クルーガー効果かもしれません。
そして「スキルの高い人たち」は、初心者の「やる気」を削らないように注意しましょう。
自己奉仕バイアス
(あー、もう、何やってるんだか!)
Aさんがコップを落として、割ってしまいました。
あなたは以前から「Aさんはドジなところがある」と思っています。
後日、あなたはAさんの前で、コップを落としてしまいました。
すぐ頭に浮かんだのが「机の端にコップを置かれたから」です。
これが自己奉仕バイアスです。[※3]
他人のときは「他人に原因がある」と感じ、自分のときは「外的要因がある」と感じることです。
Aさんのことを「以前からドジなところがある」と思っているだけに「Aさんは待ち合わせに遅刻するかもしれない」などと決めつけるようになります。
実際は、そんなことがないにも関わらずです。
自己奉仕バイアスは、非常に厄介です。
「自分のことを棚に上げられる」からです。
他人からも嫌われてしまいます。
せめて自分だけでも、自己奉仕バイアスに囚われないよう意識したいものです。
根本的な帰属の誤り
前項「自己奉仕バイアス」の続きです。
待ち合わせ時間の数分前、まだAさんは来ていません。
このとき「やっぱりAさんは、そういうところがある」と感じてしまいます。
これは「根本的な帰属の誤り」という認知バイアスです。[※4]
他人の行動や振る舞いが「性格に由来する」と信じてしまうのです。
本当に電車が止まっていたとしても、「外的要因よりも先に」性格を疑ってしまうのです。
さて、いつも待ち合わせの15分前にやってくる「Bさん」がいます。
誰もがBさんのことを「几帳面」だと決めつけています。
実際は「時間を守る人」に、「几帳面な傾向」はありません。
「根本的な帰属の誤り」は、非常に厄介な認知バイアスです。
Aさんが時間を守り続けても「どこかで破るかもしれない」と、疑い続けるからです。
そのあいだ、自分のミスには寛容なことに気づいていません。
確証バイアス
「A型の男って細かくて面倒くさい」
もちろん「血液型による性格の傾向」に、科学的な根拠はありません。[※]
- 血液型が違っても、脳の構造は同じです。
典型的な確証バイアスです。[※5]
雨女・雨男を信じてしまうのも、この確証バイアスです。
たまたま自分の仮説に一致しただけです。
それなのに重要視してしまいます。
人間の脳は、理由を求めます。
知りたいという欲求と、知ることで得られる快感が欲しいからです。
困ったことに、この確証バイアスは強力な上に、誰にでも見られる傾向です。
誰だって「見たいものを、見つけようとする」からです。
冒頭の「A型の男」については、どんな証拠を持ち出しても、信じてもらえない場合があります。
それほど強力に作用するからです。
確証バイアスは、えん罪をも引き起こします。
- 「人は誰でも『欠陥のある刑事』になる可能性があり、バイアスのない証拠を集めるのは容易ではない」[※]
- (世界トップレベルの)法心理学者ピーター・ファン・コッペンの名言
人間の脳は、情報が見つからなければ、その隙間を埋めようとします。
もっともらしい物語ができれば、信じられないほどの自信を抱きます。
後知恵バイアス(後見バイアス)
予測するのが不可能だったことに対して「ああすれば良かった」と後悔することがあります。
後知恵バイアスと言います。[※6]
もともと選択肢に入っていなかったり、あたかも「自分が判断できた」と感じてしまいます。
後出しジャンケンのような思考です。
- 私が言った通りになった
- そうなるって思ったよ
上記のようなことを言う人は、このバイアスに気づいていません。
もし言ってしまったら、ひと言だけ加えましょう。
「まあ後だから言えるんだけどね」
そう言うだけで、随分と印象が変わります。
信念バイアス
信念バイアスは「結論が妥当であれば、その議論や過程までも正しい」と誤認する思考のクセです。[※2]
つまり「議論や過程」を評価することができません。
私たちの社会は「過程」の評価も大切です。
このバイアスが怖いのは「結果が良くなければ、過程も否定される」ことにあります。
「負けたのは日頃の練習不足だからだ」といった具合にです。(負けた本人が言うのは構いませんが……)
相手は「あんまり練習してなかったけど、ラッキーで勝ってしまった」と思っている場合もあるのです。
(もちろんスポーツの世界は、練習が大事だという前提として)
それどころか、結論が間違っているだけで、その人の人格さえも否定してしまいます。
ハロー効果
人は見た目に左右されます。
ハロー効果と言う認知バイアスです。[※7]
さわやかなイケメンは、性格もさわやかに思えてしまいます。
そもそも第一印象では、情報量が少なすぎます。
人間の脳は、情報量が少ないなら、その隙間を埋めようとします。
「さわやかなイケメン男性」に騙された経験でもなければ、自分が好むように脳を修正します。
逆ハロー効果
ハロー効果が、逆に作用することもあります。
美しい女性が窃盗を犯しました。
警察官は「何か事情があったのだろう」と脳を勝手に補完して、罪が軽くなってしまいました。
(これは通常のハロー効果です)
一方で「逆ハロー効果」は、罪が重くなるパターンです。
美しい女性が、詐欺を犯しました。
この場合は「自分の外見を武器にして人を騙すなんて」と、罪が重くなってしまいました。
外見に関わる犯罪や、外見を利用してモラルのない行為をすれば、人に与える印象が悪くなってしまうのです。
評価のハロー効果
ハロー効果は、第一印象だけではありません。
普段から熱心に仕事をしていると、上司はプラスの評価をします。
その人が、他者よりも低い能力だったとしてもです。
外部誘因バイアス
自分の動機は不純ではなく、他人の動機は不純だと判断してしまう。
これは外部誘因バイアスです。[※8]
- 自分が行動する動機は、スキルアップや人のため。
- 他人が行動する動機は、金銭や名声のため。
他人の動機を評価するとき、こういった間違いが起こります。
内部モチベーション
給料や評価は、外部によるモチベーションです。
一方で内部モチベーションは「単に好きだからやっている」という行動です。
私たちは、目標や未来の成功イメージを持った方が、仕事(作業)に取り組めると信じています。
しかし実際は、「単に好きだからやっている」という人が、長く続けられるのです。
また成功や出世も、しやすい傾向にあります。
不思議なことに「あなたの仕事はどうですか?」と聞かれたときは、「やりがい」を語ったり「人のためになる」と言います。
本当の心は、そこにないのかもしれません。
絵を描くのが好き、プログラミングが好き、人と話すのが好き、楽器を弾くのが好き。
これらは行動(運動)です。
なぜ好きなのかを言語にするのが難しいので、好きな理由を創作します。
これらは、ニューヨークにある軍事大学の調査でも判明しています。[※9]
意識が高く、偉大な目標を持つ学生よりも、好きだからやっている学生の方が、将来に出世する確率が高いのです。
親のため、国のため、愛する人のため、そうは言っても「好き」が一番強いモチベーションを生みます。
人間は、外部のモチベーションによって、人をコントロールしようとします。
私たちは、それが上手く行かないことに、気づき始めています。
モチベーションを維持する方法については、以下の記事でも紹介しています。
情報バイアス(心理学の)
情報バイアスは、あきらかに不要な情報も(必要だと思い込んで)集めてしまうことです。[※10]
情報過多となってしまい、「効率の良い判断ができない」というデメリットがあります。
意志決定には、材料(情報)が必要です。
しかし材料が多すぎると、正しい決断ができなくなります。
情報バイアスは、不要な材料でも集めてしまうのです。
(まるでバーベキューの食べきれない材料のように)
これは意志決定が不安だからです。
そして自分は「取捨選択ができる」と信じてしまいます。
実際は、効率が悪かったり、最適な決定ができていません。
可用性ヒューリスティック
可用性ヒューリスティックは、意志決定を怠ける傾向です。[※11]
意志決定を怠けるとは?
例えば「直近のニュース」から、自分の判断を決めてしまうような思考の偏りです。
情報操作にも使われます。
- 最近Aさんが遅刻をしましたが、A部署(Aさんのいる)をどう思いますか?
- 最近Aさんが顧客から表彰されましたが、A部署(Aさんのいる)をどう思いますか?
上記の例は、両方とも事実とします。
Aさんという「直近の情報」が、回答を左右します。
前者だと「たるんでいる」とか、後者だと「見習いたい」などに、偏ります。
また、ボーナスの査定前にミスをすると、このバイアスが働いてしまいます。
新しい情報は、人間の直観を操作します。
情報を流す順番によって、思考を偏らせます。
意志決定は疲れるものです。誰もが直観で怠けたいのです。
正常性バイアス(正常バイアス)
会社に非常ベルが鳴り響きます。
ほとんどの人は、機器の検査だと思います。
学校であれば、イタズラを疑います。
これらには、正常性バイアスが働いています。[※12]
Youtubeなどで、実際の災害や事件を見ると分かります。
警報が鳴る初期段階では、人々が歩きながら移動しつつも、本当かどうか疑っているようです。
実際の災害よりも、訓練やイタズラ、誤報などを経験しているからです。
また、捕食の危機に迫った動物が「下手に動かないことで、難を逃れるから」という説もあります。
いずれにしても、重要な認知バイアスです。
タイタニック号の沈没、第二次世界大戦のポーランド侵攻。
このような生死に関わることでさえ、実際はないだろうと軽視してしまいます。
バイアス死角
最後に盲点とも言える「バイアス死角」を紹介します。
バイアス死角とは、他人のバイアスを認識しているのに、自分のバイアスには気づけないことです。[※13]
バイアスは悪いもの。誰もがそう思います。
それだけに、自分のバイアスに気づく方法がありません。
(気づけないからこそ)他人に怒りを向けるとき、我に返ることが大切です。
まとめ
あなたは、これらのバイアスに心当たりがありましたか?
あなたの周囲の人が、これらのバイアスに左右されすぎていませんか?
認知バイアスは、誰にでもある脳のクセです。
人間は、思考の偏りを防ぐことができません。
もちろん、私もそのような認知バイアスを持って生きています。
バイアスを知ることは「不要な批判」や「衝突」を防ぐというメリットがあります。
他人に寛容な心を持つことができます。
さらには、自分にも寛容な気持ちになれます。
自分を嫌いにならないためにも、ときどき立ち止まって、認知バイアスを思い浮かべてみましょう!
参考文献
この記事は以下の文献を参考にして、独自の解釈でまとめています。
- Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one’s own incompetence lead to inflated self-assessments.
- Belief bias
- Self-serving biases in the attribution of causality: Fact or fiction?
- Fundamental attribution error
- Confirmation bias
- Hindsight bias
- Halo effect
- Extrinsic incentives bias
- One type of motivation may be key to success
- Information bias (psychology)
- Availability heuristic
- Normalcy bias
- The Bias Blind Spot: Perceptions of Bias in Self Versus Others