私は右利きですが(字を書く以外は)トレーニングして、左利きに矯正しています。
経緯やトレーニング期間、両利きのメリット・デメリット、どのようにして左手が使えるようになったのかを紹介します。
興味のある人が多い「脳への影響」や、根拠のない説なども解説します。
最近ネットで「欝を治す方法」として、左手を使うというのが話題になりました。
そのことについても答えます。
脳への影響を先に知りたい方は、以下の見出しに進んでくださいませ。
左利きにしようとした経緯
右利きから左利きに矯正する人は、少ないと思います。
実生活に支障がないので、矯正する必要がないからです。
私は若い頃、頸椎症[1]という病気になり、右手の使用時に激痛が走るようになりました。
- 首の神経が圧迫されて、手や足にしびれ、痛みが走る病気です。
それでも仕事がしたかったので、左手でパソコンの操作をする訓練をしました。
訓練をしたことで、字を書く以外は、左手で生活できるようになっています。
当時はDTPのオペレーターをしていました。
DTPとはパソコンで印刷データを作成する仕事です。(デザインはしません)
この仕事はスピードを求められるので、激しく右手を使います。
頸椎症は油断すると右手が痛いので、今でもパソコンのマウス操作は左手を使っています。
左利きの訓練を開始
頸椎症をわずらった私は、左手のみで仕事をしようと考えました。
マウスを左手に持ち替え、キーボードもなるべく左手で打つように変えたのです。
次第に頸椎症は悪化したため、日常生活も徐々に左手を使うようになり、字を書くのと食事以外は両利きとなりました。
今では周囲の人から左利きと思われています。
両隣の同僚が左利きなので、顧客が見学に来た際に、3人とも左利きだと驚かれるようになりました。
利き手を逆にする訓練期間
両利きの訓練期間は、もちろん個人差があると思います。
私の場合、利き手を逆にする訓練は仕事をしながら身につけました。
病気もあって、かなり積極的にトレーニングをして、1年程度で利き手を逆にしました。
今もマウスは左手で操作します。
もちろんタブレットやトラックパッドも、左手で扱えます。
それまでの経緯、その後の状況、もとの利き手はどうなったかを話します。
1年掛かるまでの経緯
最初の1週間は、仕事にならないほど左手が動きません。
1ヶ月程度で「いけるかもしれない」と思えるようになります。
半年程度で何とか扱えるレベルとなり、残りの半年で左手に完全移行できました。
ただし1年程度のトレーニングでは、細かい作業[1]などは、精神的にもまだまだ疲れます。
- Photoshopでのゴミ取りなど
4年続けたら完全に違和感が消えた
1年掛けて左でマウスを問題なく扱えるようになりましたが、その後しばらくは右手の方が楽に操作できます。
違和感というか、軽いストレスがずっと続きます。
この違和感が解消されるのに、4年程度費やしました。
4〜5年経てば以前のように素早いマウス動作が、ストレスなく左手で操作できるようになります。
つまり大人になって利き手を変えるには、1年〜5年ほどの長い時間が掛かると言えます。
左利きにした後に右手の感覚はどうなるのか?
左利きにしても、右手は以前と同じように動きます。
右手の感覚や動作が衰えることはありません。
人間の脳は、身体の動作に関する記憶を強く残します。[1]
- 体で覚えると言いますが、実際は脳で覚えています。
例え20年間自転車に乗ってなくても、自転車の乗り方を忘れてはいません。
利き手を反対にする練習方法
前項のように、利き手を反対にするのは、非常に強い精神的ストレスになります。
それでも構わないという人は、少しずつ日常生活からチェンジしていくと良いでしょう。
例えば瓶のフタや、水道の蛇口を左手で使ってみると、頭を使うことに気づきます。
ずっと続けると次第に頭で考えなくても、手が正しい方向に動きます。[1]
- 小脳が補正して、次第に慣れていきます。
日常生活の単純な動作から、利き手の反対を試すと、頭もその都度使います。
普段は使わない脳の領域が活動します。
簡単な動作で負荷なく行うのがオススメですが、手の覚え方には注意点もあります。
具体的な方法についても参考ください。
ひとつひとつの動作しか手は覚えない
1点だけ注意点があります。
ペンで書くという動作を、右手から左手へ変えることに成功したとします。
しかし他の動作に関しては、また初めから左手に覚えさせないといけません。
あくまで身体が覚えるのは、ひとつひとつの動作です。
ピアノが両手で弾ければ、そのまま両利きになるというわけではありません。
ただしある程度は、相乗効果を実感できます。
今まで左手を使ってこなかった分、左手が器用になったと感じるでしょう。
パソコンのマウス操作を左手で行う
パソコンのマウス操作を左手にするのは、訓練すれば可能です。
すでに右利きに慣れてしまうと、相当なストレスが掛かります。
私の場合は、短縮キー(ショートカットキー)をアプリごとに全部覚えて、キーボードでも操作できるようにしました。
例えばAdobe Illustratorというアプリなら、ツールでマウスを選ばなくても、キーボードで選ぶことができます。
マウス操作とキーボード操作を混ぜることで、左手の負担を減らすことができ、何とか仕事が続けられました。
左利きのマウスボタンは逆にするべきか?
マウスの左右ボタンの設定はそのままにしています。
左手の中指で左(主)ボタンを押し、人差し指で右(副)ボタンを押します。
設定で逆にしたこともありましたが、他のパソコンを触るときに混乱します。
逆にしても使いやすいと感じないので、初期設定のままで良いでしょう。
箸は難しいので右手を見る
利き手と逆の手で箸を使うのは、難度が高くなります。
箸でつかむ精度だけでなく、力加減も必要だからです。
まずはスプーン・フォークから持ち替えるとやりやすいでしょう。
箸の場合、右手で箸を持って手のかたちを記憶します。
左手で再現し、カチカチと音が鳴らせるようになるまで、精度を上げるトレーニングをします。
カチカチと鳴らせるようになったら、強くつかめるように力加減を調整していきます。
あとは何度も実践すれば、次第に左手で箸を使えるようになります。
左手が非常に疲れるので、私は都度あきらめて、右手で食べることも多かったです。
脳への影響はどうなるか?
![右利きと左利きのイメージイラスト](https://no-mark.jp/wp-content/uploads/2017/07/ambidextrous_1.png)
普段使わない手を使うようになると、脳への影響はどうなるのでしょうか?
実は信頼できる研究データは、存在しません。
しかし良い影響となる可能性はあります。
左手を使った方が脳に良いという理論
両方の手を使った方が、脳には良いのでしょうか?
右脳と左脳を接続する部位[1]は、左利きの方が大きくなる傾向にあります。[※1]
- 脳梁という部位です。 左右の脳の情報を受け渡します。
このことから、ある理論が存在します。
両方の手を使うことによって、左右の脳を接続する部位が大きくなるという理論です。
世の中の道具は、右利き用に設計されているものが多いため、左利きは右手もよく使うのです。
これにより、左右の脳の連携が強化され、脳の使い方が変わるという理論です。
この理論は、なかなか説得力が強いです。
芸術的な職業とこの理論は、関係が強いように思えます。
左右の脳には機能差があり、相互に情報を交換するからです。
ただし科学的に裏付けされていないため、あくまで考えられる説のひとつに過ぎません。
両利きにADHDやASDなどのリスクがあるという報告
生まれつきの両利きは、人口のおよそ1%です。
このため、大規模な調査結果はありません。
2010年のフィンランドの研究によると、生まれつきの両利きは、ADHDやASDなどのリスクがあるという報告があります。[※2]
これはありえない話ではないですが、調査の信頼性から言えば、ひとつの研究報告に過ぎません。[1]
- この調査ではfMRIも使用していません。
この研究結果ひとつで「両利きはADHDやASDなどのリスクがある」とは判断できません。
信頼性の高い科学メディアでは、慎重な書き方をしています。
両利きとADHDのリスクを示唆する記事は、このフィンランドの研究報告ばかりを参照しています。
この研究の中でも、大半のADHDの幼児は、両利きではありませんでした。
あくまで関連があるという可能性が示唆されただけで、ここから裏付けが必要です。
しかし7年以上たっても、関連する研究報告は出ていません。
またフィンランドの研究報告は、先天的な両利きでのデータです。
トレーニングで両利きになると、ADHDやASDのリスクが増えるとは考えられていません。
左利きになることに意味はあるか?
両利きになる意味はあるのでしょうか?
前述の通り、脳の部位が変化する可能性もありますが、それを裏付ける科学的な根拠はまったくありません。
研究データが存在しないのです。
左利きの人は、脳梁が大きい傾向にある、というだけです。
それでも両利きのトレーニングをする価値はあるのでしょうか?
見返りが少ないかもしれない
両利きになるためには、大きなストレスが掛かります。大人になれば、なおさらです。
箸を使ってこなかった人が、大人になってから、箸のトレーニングをするのに似ています。
ストレスが掛かり、苦労もします。
しかしその見返りは、科学的に裏付けされていないものです。
両利きのメリット・デメリット
![左利きのイケメン高校生](https://no-mark.jp/wp-content/uploads/2017/07/ambidextrous_2.png)
利き手を逆にする両利きのメリット・デメリットを、実体験から話します。
脳との関係や科学的な根拠については、前項をご参考ください。
両利きのメリット
まずは両利きのメリットから紹介します。
特定の職業だけでなく、相乗効果も得られます。
インストラクターとして最適
PC関係の教育・訓練の担当者として、左利きにはメリットがあります。
私はDTPの部署で、4人の新入社員に仕事を教えていました。
左手でマウスを扱えるのは便利です。
席を移動してもらう必要もなく、マウスをそのままの位置でインストラクターが操作を実践できます。
パソコンを2台同時に操作できる
ほとんど使える場面はありませんが、両手でマウスが使えるので、パソコンを2台同時に扱えます。
MacとWindowsを同時に扱ったり、PCとノートパソコンを同時に操作できます。
左手が器用になる
左手が器用になることで、様々な動作や職業で相乗効果が得られます。
両手を使う動作では、実感ができると思います。
両利きのデメリット
右利きから左利きになっても、右手の動作が衰えることはありません。
私が知る限りでは、脳に関するデメリットは見つかりません。
ただし訓練に関してはデメリットがあります。
非常に強いストレスと闘う
ずっと右利きだったのに、左手を右手のように扱うことは並大抵のことではありません。
非常に大きなストレスと闘うことになります。
私も精神的に折れそうになりました。
ネットの「欝を治す方法」について
匿名掲示板で「欝を治す方法」として、左手(利き手の反対)を使うというのが話題になり、ネットで広まりました。
話の内容はデタラメが多く、書いている人は、脳や鬱病について知識を持ってないと分かります。
鬱病のメカニズムや治療方法は、徐々に解明されてきていますが、利き手を逆にして治るという情報はありません。
まったくありえない話です。
おそらく何となく感覚で書いたのが、ネットで広まってしまったのでしょう。
まだ認知症との関連性なら理解できなくもないですが、鬱病が治るというのは理解できません。
幼少期に利き手を矯正するのは?
右利きの人口比率は90%、左利きの人は10%です。[1]
- さらに日本は、左利きの人口比率が4〜5%と少ない。
親が子どもに利き手を矯正することが、最近では少なくなりました。
会社の同僚には、幼少期に矯正した人もいれば、矯正しなかった人もいます。
左利きはクリエイティブ、感性的、芸術家思考などの俗説に親が惑わされる必要はありません。
一方で左利きのままでも、「左利きのあるある」が増えるだけで、特に困ったことはないと聞きます。
世の中の機械は右利き用に作られているとよく言われますが、エレベーターのボタンなどはどっちの手でも押せます。
矯正する必要はないと思います。
スポーツに限っては、サウスポーが有利になる競技もあります。
矯正よりもピアノなどの習い事や、スポーツに時間を費やした方が良いかもしれません。
利き手と利き目について
ほとんどの人は、右利きで利き目も右と言われています。
左右の目と、利き手は大きく関係します。
右利きの人は、左の視野を重視します。
私たちデザイナーや写真家が左向きを意識するのは、左の視野を重視する脳の特性を知っているからです。
多くの人が魚を描くときは左を頭にします。料亭で出される魚も左向きです。
あまり知られていませんが、メイクも向かって左(右の顔)を重視します。
この脳の傾向を知っておくと、様々な分野で何かと便利です。
まとめ
私のように怪我や病気にならなければ、無理に左利きにする必要はありません。
脳が変化する可能性はあっても、科学的な根拠がないままです。
それでも両利きにする価値はあるでしょうか?
確かに左手は器用になって、左手を使う動作に相乗効果は期待できます。
しかしトレーニングが大変なので、その価値に見合うかは考えものです。
芸術性のある職業に有利かというと、全くありえない話とは否定できません。(もちろん科学的な裏付けはありません)
そういった職業で有利になりたいのであれば、左手を使うよりも、その芸術に関するトレーニングをした方が確実です。
「右手が使えなくなっても、何とかなる」ぐらいの感覚がちょうど良いのかもしれません。
参考文献
この記事は自身の経験と、以下の文献を参考にしてまとめられています。