脳トレは本当に効果があるのでしょうか?
実は多くの研究者たちが、脳トレについて疑問を投げかけています。
脳トレの誇大なマーケティングに対し、批判は少なくありません。
科学者たちは、脳トレについてどのような見解を持つのでしょうか?
この記事では、脳トレの効果について解説します。
さらに、脳トレより効果のあるゲームも紹介します。
前提として、脳は年齢に関係なく、トレーニングによって変化させることができます。
はたしてそれが「脳トレによって可能なのか」を様々な研究から解説します。
脳トレに効果はない?
多くの研究者たちは、脳トレについて疑いの目で見ています。
そして脳トレの誇大広告について、批判をしています。
例えば日経サイエンス2016年10月号の記事です。
ジュネーブ大学のバヴェリア教授らは、以下のような見解を示しています。
- 大々的に脳トレをうたっているゲームのうち、実際に効果があるものは、あったとしてもわずか。
「脳トレは特定の課題、つまり脳トレゲームだけが上手くなるだけでは?」
このような疑問を持つ人は多いと思います。
どうやらその通りのようです。
脳トレで「汎用性のある効果は得られない」と、バヴェリア教授らは言います。
特定の課題が上手くなっても、日常生活に役立つことはありません。
脳トレは、汎化[1]できないということです。
- 対象を広げて一般化すること
脳トレをすることで、掃除の効率がよくなったり、サッカーが上手くなったりはしないでしょう。
スポーツであれば、イメージトレーニングの方が科学的にも有効です。
掃除であれば、他のことに注意を向けないようにするべきです。
皮肉なことに、脳トレではないアクションゲームによって、注意力を向上させることができます。
多くの脳トレは、古い心理テストに映像や音を加えて、体裁を整えたものに過ぎません。
以下のような心理的課題をクリアしても、同じ課題に対して早く答えられるようになるだけです。
確かにストループ課題は、短期記憶[1]を使います。
- 数字であれば7桁前後を覚えられる一時的な記憶
あくまで注意力や短期記憶のテストであって、この課題によって脳が変化するわけではありません。
プラセボ効果はある
最近(2016年6月)になって、脳トレにはプラセボ効果があると分かりました。
サイエンス[1]に掲載されています。
- 世界でも特に権威のある学術雑誌
あらかじめ「脳のトレーニングと認知力強化」を知らされて参加したグループと、そうでないグループで実験をしています。
両方のグループで、同じ脳トレゲームをプレイしてもらいます。
知らされて参加したグループのみ、IQが5〜10も上昇するという結果になりました。
脳トレはプラセボ効果(プラシーボ効果)、すなわち「本人の思い込みによる効果」があるという意外な結果です。
Portal2は脳トレよりも高い効果が得られる
Portal2(ポータル2)は、脳トレよりも効果があるということでサイエンスにも掲載されています。
アクション性の高いパズルゲームです。
レビューを見ても、ゲームとして高い評価を得られています。
ほとんどの購入者は、Portal2が脳トレより優れていることを知らず、おもしろいゲームとして絶賛しています。
レビューによると、Portal1とPortal2をセットでプレイするのがオススメのようです。
Portal2とは
Portal2は、アクション要素の高いパズルゲームです。
前作のPortalは、世界で30以上の賞を与えられています。
脳トレの目的で作られているゲームではありません。
このゲームの原型は、学生が卒業制作で作ったものです。
Portal2では、銃を使ってブルーとオレンジのワープホールを撃つことができます。
ブルーのワープホールに入ると、オレンジのワープホールから出ることができます。
逆にオレンジのワープホールに入ると、ブルーのワープホールから出ます。
この特性を利用して、ステージをクリアしていきます。
まるで四次元の世界です。
Portal2をクリアするには、ひらめきと直感力が必要です。
さらに謎が多いストーリー展開が、プレイヤーを飽きさせません。
この「飽きさせない」というのが、重要なポイントです。
どうしても脳トレゲームは、単調で飽きやすくなってしまいます。
Portal2のように、アクション性の高い操作は、気持ちが良いだけではありません。
ほどよい緊張感をプレイヤーに与えます。
脳トレにはないアクション性の高さ、魅力的なストーリーが飽きさせない秘訣です。
すぐに飽きて辞めるようでは、脳は何も変化しません。
Portal2と脳トレを競わせた研究結果
Portal2は、問題解決能力や空間認知能力、粘り強さにおいて脳トレ(ルモシティ)よりも優れた効果を得られています。
サイエンスでも以下に紹介されています。
脳トレとしてではなく、娯楽のために作られたゲームの方が、認知力改善に効果があることを示唆しています。
以下は脳トレ(ルモシティ)とPortal2を、77人の学生にプレイしてもらった結果です。
- 8時間のプレイ後、Portal2のプレイヤーたちは問題解決能力や空間認知力が向上した
- ルモシティのプレイヤーたちは、何のメリットも受けられなかった
Portal2は、だいたい8時間程度でクリア可能なようです。
つまりPortal2をクリアすると、問題解決能力や、空間認知力の向上が見込めることになります。
脳トレに効果あり?
脳トレに効果があるという研究結果も多く存在します。
しかしサイエンス・ネイチャーといった権威のある学術雑誌に掲載されているのは、ストックホルムのケリングバーグ氏の論文ぐらいです。
サイエンス・ネイチャーに掲載されていることは、信頼性において重要な意味を持っています。
サイエンスに掲載されているケリングバーグ氏の論文は以下ですが、会員でないと読めません。
ケリングバーグ氏は、ワーキングメモリの研究で有名です。
この研究では、ワーキングメモリの向上が確認されました。
つまり汎用性があるという意味で、本当の「脳トレ」だったのです。[1]
- ドーパミン受容体D1の変化が確認されています。
脳トレの効果があるというのは、このように脳の変化が確認されないといけません。
実はこの実験ですが、いわゆる脳トレゲーム(ビデオゲーム)を使ったものではありません。
ランダムで選ばれる7桁の数字を、短期的に覚えるという訓練です。
1日35分、週5回、5週間継続のトレーニングによって、結果がでたようです。
私は効果が出るまでに、苦痛で続かないと思います。
脳トレは時間が必要
前述のケリングバーグ氏は「脳トレに効果がない」というネイチャーの掲載文に対して、反論しています。(こちらはサイエンスより)
市販されている多くの脳トレに対して価値がなくても、全部ではないという主張です。
ネイチャーに掲載された「脳トレに効果がない」という論文は以下です。
ネイチャーの他の記事でも、被験者やトレーニング時間に対する指摘が掲載されています。
6週間で4時間は、少なすぎるというものです。
どちらにしても、一日10分程度の脳トレでは、効果が見込めません。
トレーニングによって脳を変化させるには、トレーニングにかける時間が必要です。
脳トレのように単調なゲームは、何ヶ月も続けられるか疑問に思います。
脳トレに効果があるという事例を紹介
信頼性についてはさておき、脳トレについて効果があるという研究を紹介します。
- ブレインHQ
-
wsj.com
-
ポジット・サイエンス社が提供する脳エクササイズプログラムです。
脳の処理速度や、記憶力を高める効果があるとのことです。
日本では意外なことに、ネスレが提供しています。
Attention Required! | Cloudflare
上記はウォール・ストリート・ジャーナルに掲載されている記事です。
これは経済誌です。
ネイチャーやサイエンスといった「信頼性の高い学術雑誌ではない」ことを気にする必要があると思います。
多くの研究者はこれらの研究結果、特に商業的な脳トレゲームに疑問を抱いています。
科学者たちの統一的な見解はありません。
結局はユーザーの判断に任されます。
治療用のゲームは効果を確認
注意欠陥障害の子どもや、認知力が低下した高齢者向けに開発されたゲームが存在します。
ニューロレーサーといいます。
研究用のゲームですから、私たちはこのゲームをプレイすることはできません。
ネイチャーの記事によれば、認知力や注意力の改善に効果が認められました。
脳の活動が変化したというものです。
私もYoutubeで見てみましたが、何ともスピード感のない妙な3Dドライビングゲームです。
こういったゲームが実際に認証されるのは、まだまだ先のことになるでしょう。
認知力や注意力アップには娯楽用のゲーム
前述のニューロレーサーは、あくまで注意欠陥障害の子どもや、認知力が低下した高齢者向けに開発されたゲームです。
認知力や注意力をアップさせたいのであれば、一般販売されている娯楽用のアクションゲームに効果が認められています。
ゲームが脳に与える影響や、どんなゲームが能力をアップさせるかなどは、上記の記事をご参考ください。
ワーキングメモリを使うマインクラフト
マインクラフトをご存じでしょうか?
私は脳トレよりも、効果があると思います。
マインクラフトは、ワーキングメモリを使います。
そして創造力や計画性を育てるようなゲーム設計になっています。
ゲームの中で家を建てるのに、ワーキングメモリを使いながら材料を集めます。
創造力を使い、計画性をもって、家を建てていきます。
家を建てている間も、ワーキングメモリを使います。
自分のイメージをモノに変える能力は、社会でも必要とされることです。
「脳を鍛える大人のDSトレーニング」について
日本で脳トレといえば、川島隆太教授が有名です。
ニンテンドーDSの「脳を鍛える大人のDSトレーニング」が大ヒットしたのも、記憶に新しいかと思います。
海外でも大ヒットしています。
当時の余談ですが、平日に運行する新幹線の車内は、DSを持ったスーツのビジネスパーソンであふれていました。
ブームの影響が大きかったと言えます。
「脳を鍛える大人のDSトレーニング」について、研究結果が書かれた本を見つけました。
「脳のワーキングメモリを鍛える! 情報を選ぶ・つなぐ・活用する トレーシー・アロウェイ (著), ロス・アロウェイ (著), 栗木 さつき (翻訳)」という本です。[1]
- 内容はアメリカのフィリップ・アッカーマン、フランスのアラン・リユリー、日本の野内類の研究によるもの。
いずれの研究も、ゲームの腕は上がるかもしれないが、ワーキングメモリの改善には効果がないとのことです。
前述のワーキングメモリを実際に向上させたターケル・クリングバーグ氏も、このゲームは簡単すぎて訓練効果がないだろうと言います。
ただし野内[1]氏によると、認知機能、実行機能(目標や計画力を含む)は改善が見られたようです。
- 野内氏は川島隆太教授と同じ東北大学加齢医学研究所所属
一大ブームを起こしたDSの脳トレも、やはり否定的な意見が目立っています。
ただしその中には、とにかくゲーム自体を悪いと主張する研究者たちの批判も含まれています。
個人的な意見ですが、脳トレの是非はともかく、川島隆太教授は研究に生涯をかけている科学者という印象があります。
DSの脳トレについての見解
DSの脳トレをあえてやる必要はない、というのが私の見解です。
野内氏の研究報告では、認知機能、実行機能の改善が見られ、他の報告ではワーキングメモリの改善が見られなかったというものです。
認知機能や実行機能の向上であれば、アクションゲームをした方が長く楽しめて良いでしょう。
結論とまとめ
脳トレは商業的なものであるために、成功したという研究結果も多く存在します。
それらは信頼性の低い研究報告が大半です。
そして多くの科学者が、誇大広告に対し批判をしています。
最終的には個人の判断にゆだねられますが、私の見解を以下にまとめます。
- ほとんどの脳トレには期待する効果が得られない
- プラセボ効果(プラシーボ効果)は確認された
- 脳トレよりもPortal2のようなアクションパズルゲームの方が効果は高い
- 効果が出るほど単調な脳トレをプレイし続けるのは苦痛かもしれない
言うまでもないかもしれませんが、テレビで見る脳トレは、全く何の効果も得られません。
脳トレをするべきか?
脳トレをする時間があれば、有酸素運動や瞑想をした方が良いと私は思います。
例えば脳トレを一日40分プレイするぐらいなら、25分を有酸素運動にあてて、残りの15分を瞑想にあてます。
瞑想する時間がないのであれば、有酸素運動を優先させます。
有酸素運動や瞑想であれば、疑問を持つ科学者はいないでしょう。
サイエンスの記事[1]にもありますが、脳トレをする時間と、他の有意義なことに費やす時間を比べるべきです。
- 「脳トレをするよりハイキングに行く方が良いだろう」という書き出しで始まります。
何のために脳トレをするのか?
何のために脳トレをするのか考える必要があります。
将棋が上手くなりたいなら将棋をするべきでしょうし、スポーツが上手くなりたいのならスポーツをするべきでしょう。
みんな何かに対して結果を得たいから、脳トレをするのだと思います。
そうであれば、その対象についてトレーニングをした方が、脳トレよりもはるかに効果的です。
何かが見つからないのであれば、その何かを見つけるのが先決です。
「脳を鍛える」というのは、曖昧な表現です。
どんな課題にも応用できる「万能な脳」に変化することはありません。
脳トレより他のことに時間をあてた方が、結果においては効率が良いでしょう。
参考文献
この記事は以下の文献を参考にして、独自の解釈で脳トレについてまとめています。
- nature
- Science
- 脳のワーキングメモリを鍛える! 情報を選ぶ・つなぐ・活用する トレーシー・アロウェイ (著), ロス・アロウェイ (著), 栗木 さつき (翻訳)
- 脳には妙なクセがある (扶桑社新書) 池谷 裕二 (著)
- 日経サイエンス2016年10月号