右脳派・左脳派なんてない!その根拠、診断の意味と右脳・左脳の違いを解説

右脳と左脳のイメージ

右脳派・左脳派というものはありません。
しかし多くの人が「右脳派は直感的で芸術性があり、左脳派は論理的で計算力も優れている」と信じています。
これらは右脳・左脳の機能が発見された後に、歪曲・拡大解釈されて世間に広まりました。

右脳・左脳の主な機能と、右脳派・左脳派の俗説が広まった理由を解説します。

そして右脳派・左脳派診断というものがあります。
これらは単に錯覚・利き手・注意力・好みなどで右脳派・左脳派に分類されます。
論理的・感情的・クリエイティブ思考とは関係ありません。

ほとんどの人が右利きということもあって、右脳派・左脳派診断では左脳派にされてしまいます。
自分に芸術的な感性がないと落胆してはマイナスです。
そこで右脳派・左脳派診断の質問内容の矛盾も解説します。

右脳と左脳の役割って何?

人間の脳は自分から見て右側に右脳、左側に左脳があります。

脳から全身に伸びている神経の束は、首のあたりで交差(交叉)しています。[※1]
右脳は左半身、左脳は右半身と神経で繋がっているのです。[※2]

  1. 交叉支配といいます。
  2. 左右の脳は脳梁などで連携されます。

つまり右半身を動かすときは左脳、左半身を動かすときは右脳を使います。

交叉支配のイメージイラスト

これが左右の脳の主な役割です。
右脳が左半身を制御しているのは事実ですが、左利きが右脳派というのは拡大解釈です。

右脳は両側の空間を認知する

右脳が傷つくと、左側の視界を無視する症状が出ることがあります。
半側空間無視という症状です。[※1]

  1. 「はんそくくうかんむし」と読みます。

半側空間無視で重要なのは、患者自身は半側を無視しているということに気付かないということである。そのため、食事の際に半側の料理にまったく手をつけていないにもかかわらず、本人は全部食べたと自覚していることも多い。また、たとえ自覚しうる側のものであっても、それを注視するとやはりそこでも半側空間無視が起こる。たとえば、左側空間無視であれば、患者から見て左側の料理には手をつけず、右側にある料理も右半分しか手が付けられないといった具合である。これはたまねぎ現象とも呼ばれる。
出典元:半側空間無視 – Wikipedia

半側空間無視は左脳が傷ついた場合には起こりにくい症状です。

これはどういうことでしょうか?

つまり右脳には左右の空間を認知する機能があり、左脳には右側だけの空間を認知する機能があるということです。
よって左脳が傷ついても右脳で両側を認知できますが、右脳が傷つくと左脳は左側を認知できないので半側空間無視が起こります。

このように右脳と空間認知能力は密接に関係しています。
それでは空間認知能力とは何でしょうか?

空間認知能力と芸術性

一般的に芸術家は空間認知能力が高いと言われています。

絵を描く人

また男性も空間認知能力が高いことが多いです。(男性だから空間認知能力が高いのか、男性が育つ環境で空間認知能力が高くなるのかは分かりません)
古代から狩猟をするのに男性は空間認知能力が必要だったという説もあります。

空間認知能力は絵や字を書くのにはもちろん、驚くべき事に音楽家も空間認知能力が高いのです。
これは様々な仮説が考えられます。
オーケストラ楽団員たちは空間認知能力が高いことが、リバプール大学のスラミング博士らの報告で分かっています。[※1]

音楽をすれば空間認知能力が高まるのか、それとも空間認知能力が高いから音楽を続けられるのかは不明です。

空間認知能力はいわゆる音痴とも関わります。
音痴の人は空間認知能力が低い傾向にあるのです。[※1]

  1. 脳はなにげに不公平 パテカトルの万脳薬 池谷 裕二  (著)より。

なぜ右脳派・左脳派の俗説が広まったのか?

雑談する人々

前項の右脳と空間認知能力、芸術との関連性をまとめてみます。

  • 右脳は左右の空間を認知する機能がある
  • 空間認知能力は芸術性に関与する

私は右脳派・左脳派の俗説が広まった理由のひとつに「右脳は左右の空間認知機能があるから、右脳を使う人は芸術性が高い」と解釈されて広まったと推測します。
実際は数学やスポーツなど、もっと広い分野で空間認知能力は使われるものです。

左脳には言語野がある

左脳が傷つくと言語障害の症状が出ることがあります。
これは左脳に言語野という部位があるからです。

前言語野は、運動性言語野ともいい、ことばを話す機能をつかさどっています。
後言語野は、感覚性言語野ともいい、話しや文字の理解、書字の機能をつかさどっています。
上言語野は、前言語野の機能を補助するはたらきをしていると考えられています。
この3つの言語野は、神経でつながっていて、互いに協調しながらことばの機能を保っています。
また、この3つの言語野は、右ききの人は左の大脳半球(だいのうはんきゅう)に、左ききの人は右の大脳半球に存在するのが原則です。
出典元:言語野(ゲンゴヤ)とは – コトバンク

言語野の位置は利き手によって偏りがあり、およそ9割の人が左脳に言語野を持ちます。

言語は論理的でヒトだけが持つ能力です。
論理的思考は、感情的・情緒的な思考と真逆です。

言語野がある側の脳を「優位半球」と呼ぶことがあります。
しかし優劣があるわけではありません。

言語野が左脳にあるのも、右脳派・左脳派という俗説が広まった理由と考えられます。
※右脳でも言葉を理解していることが近年の研究で分かっています。

ロジャー・スペリーと分離脳とノーベル賞

アメリカ合衆国の神経心理学者、ロジャー・スペリーは分離脳の研究で1981年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
右脳と左脳に別々の機能があると発見したのです。

この研究により右脳派・左脳派という科学的根拠のない俗説が広まったと一般的には解釈されています。
ちょうどWikipediaにも掲載されています。

この研究は、左右の大脳半球の機能分化の理解に大きく寄与した。しかし、スペリーが明らかにした事実は、歪曲されたり拡大解釈されたりして世間に流布し、日本においては通俗的な右脳・左脳論ブームを生み出した。
出典元:ロジャー・スペリー – Wikipedia

1981年というのは脳科学が急速に発展した前の年代です。
しかも分離脳の研究は1940年代からです。
脳内の活動をリアルタイムで視覚化するfMRIという装置が使われるようになって、脳科学が劇的に進化したのは1990年代以降です。[※1]

  1. 脳の10年と呼ばれる年代
fMRIのイメージイラスト

右脳派・左脳派がない根拠

右脳派・左脳派、さらには利き脳というのはありません。

一番分かりやすく書かれているのは「大人のための図鑑 脳と心のしくみ 池谷裕二 (監修)」です。
海馬の研究で有名な東大の脳科学者・池谷裕二先生の著書です。

前項にある右脳・左脳の違いはあくまで解剖学です。
その解剖学での所見を強引に人の特質にまで決めつけたのが右脳派・左脳派という俗説です。

解剖分野では左脳に言語野があり、右脳は左右の空間認知をしています。
ただそれだけの理由ですから、右脳派・左脳派には科学的な根拠がありません。

「大人のための図鑑 脳と心のしくみ」から引用します。

右脳派は感性を重視しクリエイティブ、左脳派は論理を重視し理性的などというが、言語野が左にある以外に根拠はないのである。しかも最近の知見では両側をほぼ均等に使っているということもわかってきている。もちろん利き脳もない。

脳科学に詳しい人は右脳派・左脳派というのがないと分かっていますが、今後の研究でくつがえることはあるのでしょうか?
それもおそらくないでしょう。
むしろ最近の研究では脳を可視化するfMRIによって、両方の脳が使われていることが分かってきています。

クリエイティブな思考は右脳だけで行っているのではなく、両方の脳を使っているのです。

右脳派・左脳派診断は意味がない

診断に疑問の女性

右脳派・左脳派診断には科学的な根拠がありません。

例えば利き手に関する質問があります。
質問内容は様々なパターンがありますが、右利きの人は左脳派に分けられ、左利きの人は右脳派に分けられてしまいます。
実際にツイッターのタイムラインを見ると、左脳派の比率が多いと分かります。

文章や言語といった論理的思考によるものは左脳派に分けられます。
絵や音楽を好むと右脳派に分けられます。
衝動性に関する質問では右脳派に分けられます。[※1]

  1. 衝動性は多くの脳部位(側坐核、前帯状皮質……)に関係します。側坐核や前帯状皮質は中央にあるので右脳とは関係ありません。

これらの能力は鍛えることができますから、左脳派だからといって芸術的な感性がないとあきらめてしまうのは最悪です。

右脳派・左脳派診断に出てくる質問は、錯覚・利き手・注意力・好みなどです。
錯覚や注意力のテストで論理的も芸術的も、ましてや理性的などは関係ありません。

右脳派・左脳派診断でよくある質問を説明していきます。

注意力のテスト

例えばよくあるのが以下のような質問です。

ストループ効果

右上は思わず「ミドリ」と答えそうになりますよね。

これは単に注意力のテストです。
色と文字が違うのですから、文字に思考が引っ張られるという行動抑制のテストです。
文字を答えてしまうのを抑制するのは注意力が必要です。
研究者の名前にちなんでストループ効果と言います。

右脳派・左脳派診断では「色を答えると右脳派」、「言葉を答えると左脳派」に分けられます。[※1]
もちろん注意力に関する実験なので、芸術的な思考も論理的な思考も関係ありません。[※2]

  1. 言語が論理的だから左脳派に分けられると私は推測します。
  2. 注意に関係する脳部位は帯状回前部(脳の中央)と言われていたり、脳全体であると言われていたり、文献によって意見が分かれます。

スピニング・ダンサー(回転するダンサー)の真実

回転しているダンサーが時計回りか反時計回りかを答える質問もあります。

Spinning Dancer

ウェブデザイナーの茅原伸幸さんが作られた錯覚のアニメーションです。
錯覚ですから意図的に回転方向を操作できます。
コツは軸足の下だけを見ながら、逆方向に回転しているように意識を変えることです。
(交互に回転を変えて遊ぶと気分が悪くなるのでご注意ください)

ニューヨークタイムズのブログにもはっきりと書かれています。(海外サイト)

The Truth About the Spinning Dancer
The false claims of a dancing silhouette.

「電子メールで右脳派・左脳派を判断するテストとして出回っているが、錯覚のアニメーションで脳のテストではない」とのことです。
海外でも右脳派・左脳派という俗説が出回っていると分かります。

ネットで検索すると右脳派・左脳派の診断としてスピニング・ダンサーが出てきますが、なぜこれが歪曲されて出回ったのかは不明です。

まとめ

右脳派と左脳派イメージイラスト

右脳と左脳では機能が分かれます。
しかし解剖学としての話です。

論理的思考も創造力も、脳の活動が左右で偏ることはありません。
解剖学としての機能を拡大解釈して、右脳派・左脳派というレッテルを貼る診断が、世間に広まってしまったのです。

私も右脳派・左脳派診断を2つ試してみました。
両診断とも左脳50%・右脳50%の結果でした。
実は首の病気で右手が動かせない時期があり、私は書く以外の動作を左手で生活することができます。
利き手に関する質問が多かったので、そういう結果にも納得です。

右脳・左脳で性格が関与することはありません。
脳のネットワークは、左右どちらかの脳がより多く使用されることはないのです。
人の性格は脳によるものですが、右脳派・左脳派という単純な構造ではありません。

右脳派・左脳派診断で自分は感情的・理性的でないと信じたり、芸術性・計算力がないと落胆するのは良くないでしょう。
こうして社会に広まってしまうのは、血液型で性格を分けるようなことに似ていると思います。
○○な人は独創的で○○な人は理性的という分け方ができるほど、単純ではありません。

クリエイティブな思考も論理的思考もトレーニングによって身につきます。
どちらの人も、どちらにもなれるのです。
私も学生の頃は美術的なセンスがなかったのに、今ではデザイナーをしています。

自分の才能や能力、最適な記憶方法について知りたいのであれば、認知特性診断という診断方法があります。

認知特性診断は「今」の才能を知る手がかりになります。
こちらの方が納得できるものになるかと思います。

さて、クリエイティブ思考に関しては別の機会に詳しく書きます。
もちろんクリエイティブな思考を身につけるのに右脳は関係ありません。

参考文献

この記事は以下の文献を参考にし独自の解釈で記載しています。本の内容とは異なります。

  • 大人のための図鑑 脳と心のしくみ 池谷裕二 (監修)
  • 脳には妙なクセがある (扶桑社新書) 池谷 裕二  (著)
  • 脳はなにげに不公平 パテカトルの万脳薬 池谷 裕二  (著)
  • 脳研究の最前線(上巻) 理化学研究所脳科学総合研究センター (編集)
  • なぜ「つい」やってしまうのか 衝動と自制の科学 デイビッド・ルイス (著), 得重達朗(翻訳)
  • 優位半球・劣位半球 – 脳科学辞典
  • An Evaluation of the Left-Brain vs. Right-Brain Hypothesis with Resting State Functional Connectivity Magnetic Resonance Imaging
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