仕事でミスをして、上司や客からひどく怒られた。
あなたは、自分が悪くない理由を心の奥で探します。
私もです。しかし、それは逆効果かもしれません。
葛藤をすることで、記憶が固定される可能性があります。
私は仕事のミスで怒られた(もしくはミスでもないのに怒られた)とき、忘れることが一番だとアドバイスします。
マネージャーだった当時、そのように言っていました。
「気にしなければいい」「視点を変えればいい」「仕事に集中すればいい」と、アドバイスされるかもしれません。
それができれば、苦労はしません。
そして仕事にも、集中できなくなります。
嫌なことを忘れる良い方法があります。
この記事では、嫌なことを忘れる方法と、忘れた方が良い理由について説明します。
ただし、これは日常生活で起きるようなレベルの話です。
PTSDの可能性がある方は、専門家へ相談してください。
お酒(アルコール)は逆効果を追加・訂正しました。2017/08/17
過去の失敗をノートに書くを追加しました。2018/03/25
悪い記憶を忘れようとする
嫌な記憶を忘れる方法があります。
それは簡単すぎて、意外な方法でした。
嫌な記憶を積極的に忘れようと、意識するだけです。
2007年、コロラド大学ブレンダン博士らの研究報告です。[参考文献※1]
この研究内容は、権威のあるネイチャー、サイエンスにも掲載されました。
被験者は、積極的に忘れようとすることで、記憶に関する感情と、記憶自体を抑制させることができました。(この研究では、fMRIで脳をスキャンしています。)
また、嫌悪感のような感覚も、忘れようとするだけで記憶をブロックできました。
研究者らは、トラウマのような強い記憶では、多くのトレーニングが必要だと言います。
記憶の4ステップ
記憶には4つのステップがあります。
情報の獲得→記憶の固定化→記憶の再生→記憶の再固定化
最後の「記憶の再固定化」とは「思い出す」ことです。
この「思い出す」行為は、「覚え直す」ことです。
違う内容を覚え直せば、記憶を書き換えることができます。
人間は思い出した段階で、何度も記憶を固定させます。
「悪い記憶を忘れようとする」ことは、記憶の再固定化を邪魔する手法です。
自問自答と後悔を打ち消す
誰もが自分は悪くないと、自問自答を繰り返します。
自分が悪くない理由を探します。
さらに「あのとき私はどうして……」と後悔します。
これらは状況を悪化させます。
後悔しても状況は変わりません。嫌な記憶が固定され、憂鬱な気分になるだけです。
仕事のミスならば、何かしらの対応は、強制されるものです。
その対応をするだけで十分です。
ミスをしたら「憂鬱な気分にならないといけない」なんてことはありません。
頭の中で葛藤が始まったら「思い出してはいけない」と、意識することです。
忘れることに集中しましょう。
思い出さないようにする
前述のように、思い出してしまったら「(打ち消すように)忘れようとする」ことが大切です。
その前に思い出さなければ、記憶の固定化を防ぐことになります。
嫌なことがあった日は、テレビを見たり、ゲームでもして「思い出すこと」を邪魔した方が良いです。
難しい場合は視点を変える
悪い記憶を打ち消すのが難しい場合、有効な手段があります。
それは悪い記憶の「景色」を思い出すことです。
あなたが怒られたとき、「怒っている人」や「感情」を思い起こしてはいけません。
怒られているときの周囲や、天気を思い出すようにしてください。
例えば以下のように、気分の悪い感情とは、無関係なものを頭に浮かべます。
- 天気
- 周囲のインテリア
- 周りにいた人の顔
- 着ていた服
これらを思い出すことで、嫌な感情の処理を邪魔することができます。
この方法は、認知神経科学の研究報告によるものです。[参考文献※8]
この方法しかない?
上記以外の方法で、信頼のおける研究データは見つかりません。
PTSDのような、強いトラウマに関しては、今も研究が進められています。[※]
- プロプラノロールの投与で、記憶の辛さが軽減されるといった報告などがあります。
近い将来、何かしらの薬や、治療方法が実現できそうです。
本記事で取り上げるような「日常生活の嫌な記憶を忘れる方法」からは、除外しています。
同僚はすでに実践していた
この「嫌なことを忘れる方法」は、すでに私の同僚が実践していました。
その同僚は「忘却術」と呼んでいました。
今思えば、科学的な根拠があったので驚きです。
その日の睡眠前に忘れようとする
睡眠は、記憶を固定させます。[参考文献※2]
これは数多くの研究報告があり、睡眠で記憶が固定されるのは確実です。
そして悪い記憶までも、睡眠によって固定化します。
フライブルク大学(ドイツ)、ニッセン教授らの研究報告です。[参考文献※3]
嫌なことを積極的に忘れようとすることが、睡眠前でより効果があると判明しました。
逆に言えば「睡眠後は、嫌な記憶を忘れにくくなる」ということです。
その日のうちに、忘れようとすることが重要です。
睡眠不足は記憶を邪魔する
睡眠不足は、記憶の固定化を邪魔します。
嫌なことがあった日の夜は、睡眠時間を削ると、忘れやすくなります。
しかし、睡眠不足は体に悪影響があるため、おすすめはできません。
寝る前に忘れよう!
寝る前に嫌なことを思い出すのは、悪いことしかありません。
睡眠前の学習は、効果が高いのと同じです。
ここまでの「嫌なことを忘れる方法」をまとめると、以下のようになります。
- 嫌な記憶を積極的に忘れようと意識する
- 嫌なことは、その日のうちに忘れる
- 特に就寝前は、嫌な記憶を思い出さないようにする
昼寝にも、高い学習効果があります。
朝に嫌なことがあれば、その日の昼寝は避けた方が良いでしょう。
私のオススメは、寝る前にバラエティー番組を見て、気分を変えることです。
好きなドラマでも、映画でも構いません。
そしてゲームでも、同じく作用します。
交通事故で被害にあった人に、事故後から6時間以内にテトリスをプレイすることで、事故の記憶が和らぐという研究報告があります。[参考文献※5]
テトリスをプレイすることで、事故の視覚的な記憶がぼやけるようです。
思い出の引き金を排除する
これは実行するのが難しいかもしれません。
記憶は五感によって、思い出すことができます。
視覚、音、ニオイ、味、感覚などは、記憶を想起させるものです。
場所も含まれます。
嫌な思い出のある場所に行くと、やはり記憶がよみがえります。
被害者が事件現場に行って、状況を思い出すのと同じです。
できれば、記憶を想起させるものから、離れましょう。
しかし実際は難しいかもしれません。
慣れてしまうことについて
人間は、ストレスや痛みに慣れるようにできています。
いきなり会社の重役になれば、プレッシャーで潰されてしまいます。
まずは先輩となり、チームのリーダーとなってから出世することで、プレッシャーに慣れていきます。
そして悪い記憶も「慣れ」によって、和らげることができます。
これはオススメできません。
ストレスに慣れること自体が、ストレスになるからです。
悪い環境なのに慣れてしまって、判断ができないこともあります。
例えば痛みに慣れると、病気の発見においてリスクになります。
痛みやストレスに慣れると、正常な判断を邪魔します。
自分に報酬を与える
脳は「悪い記憶」から「良い記憶」に、書き換えることができます。
報酬を使う方法です。
ATR、カリフォルニア州立大学、ケンブリッジ大学の研究者らは、恐怖記憶を消す技術を開発しました。[参考文献※4]
本人に気づかないよう、恐怖記憶の引き金に合わせて、報酬を与えることで、恐怖記憶を打ち消すという研究報告です。
マウスの実験でも、類似の研究報告が多くあります。
やはり報酬は、怖い記憶を消すようです。
脳にとって、報酬とは何でしょうか?
金銭を受け取る、美味しい食べ物、褒められる、笑顔などは、脳に報酬を与えます。[1]
- いわゆる脳の報酬系回路です。
「嬉しい」という感情は、脳に報酬を与えます。
また、自分へのご褒美は、やる気を継続する方法のひとつです。
嫌なことがあった日こそ、美味しいものを食べるなど、脳に報酬を与えてください。
お酒(アルコール)は逆効果
アルコールを摂取すると、脳の報酬回路が反応します。
しかしアルコールは、非常に高い健康リスクのひとつです。
(健康診断でも、お酒とタバコは真っ先に聞かれますよね)
以前はアルコールを摂取すると、恐怖の記憶を和らげる[1]と言う説がありました。
- アルコールによって、扁桃体や帯状皮質の反応が鈍化するため。
近年の研究では逆です。[参考文献※6]
アルコールは、嫌な記憶を強めてしまいます。
「参考文献※6」は米国の研究報告ですが、東大でも同じ研究がされています。
やはり、恐怖や嫌な記憶は、アルコールによって強まるようです。
アルコールと記憶について
アルコールは、記憶を邪魔します。
これは、忘れたいことがあるとき、問題が起こると考えられます。
飲酒中と飲酒後は、記憶が邪魔されます。
そのため、飲む前の記憶が、逆に強化されます。
つまり、お酒を飲むと、記憶する総量が減ることになります。(飲酒中の記憶が弱くなるため)
その分だけ、飲酒前の記憶が、強く固定されるということです。
お酒はメリット、デメリットがあるため、無理に実行してはいけません。
健康リスクも、非常に高い部類です。
それでも人間がお酒をやめられないのは、脳にとっての快楽だからです。
過去の失敗をノートに書く
嫌な記憶を忘れるために、「ノートに書き出す」というテクニックがあります。
この方法は、たしか「自分の怒りを抑える心理学」だったと記憶しています。
嫌なことを忘れる方法とは、少し異なったものです。
裏付ける研究も見当たりません。
しかし過去の失敗を書くことで、ストレスを軽減することができます。
これは面接や重大な会議、緊張する人に会うなど、様々なストレスを軽減します。
過去の失敗は、何でも構いません。
例えば面接前に、面接とは関係のない失敗を書いても、ストレス軽減の効果があります。
最新の研究によると、実際にストレスホルモンを低下させることが判明しました。[参考文献※7]
また課題のパフォーマンス(成績)も向上します。
面接やスピーチの前には、過去の失敗を書いておくと良いでしょう。
まとめ&ストレスについて
動物は、危険な場所に近寄らないように、恐怖の記憶を優先して残します。
人間も同じで、悪い記憶ほど強く、そして正確に残ります。
生命に関わることでなければ、嫌なことは忘れるべきです。
できるだけ、その日に忘れようとしてください。
こういうことを会社で言えば、ミスが再発するとか、反省させろ、などと言う人もいます。
そういうストレス環境こそが、悪いストレス耐性を生み、次第にエスカレートさせるのです。
そういった環境では、良いアイデアが生まれません。
さらに悪いことがあります。
相手が感情的になっているとき、相手の情報だけが、正確な記憶として残ります。
これはミスを起こしたときの状況が、あいまいな記憶になることを意味します。
そう考えると、怒る側に問題があるとも言えます。
感情的になっている相手からは、逃れたい気持ちになります。
逃れるため、相手に集中し、相手の情報だけが、記憶に残ってしまうのです。
最も自分を脅かすものを優先して、記憶するのでしょう。
嫌な記憶は、あなたのワーキングメモリを邪魔します。
仕事にも集中できなくなり、作業効率を悪くしてしまいます。
嫌なことは「早く忘れる」に限ります。
参考文献
この記事は以下の文献を参考にして、独自の解釈でまとめています。
- Bad memories can be supressed
- Labile or stable: opposing consequences for memory when reactivated during waking and sleep
- Sleep deprivation facilitates extinction of implicit fear generalization and physiological response to fear.
- つらい経験を思いだすことなく、無意識のうちに恐怖記憶を消去できるニューロフィードバック技術を開発
- Can playing Tetris help prevent PTSD?
- Hippocampal encoding of interoceptive context during fear conditioning
- Writing About Past Failures Attenuates Cortisol Responses and Sustained Attention Deficits Following Psychosocial Stress
- Neural correlates of ‘distracting’ from emotion during autobiographical recollection.