マルチタスクとは?【脳への影響】人間にデメリットとなる本当の理由

マルチタスクを理解すれば生活習慣を変えられる

マルチタスクについて解説します。

なぜマルチタスクは、脳に悪いと言われているのでしょうか?
マルチタスクを理解すると、普段の生活が良くなります。

この記事では、マルチタスクによる脳への影響、やめるべきことなどを紹介します。
多くの研究報告から、人間のマルチタスクについて説明します。

マルチタスクとは

マルチタスクとは?

マルチタスクとは、同時作業のことです。
メールを打ちながら電話をしたり、歩きながらスマホを見るような行為です。

私は電話をしながら、パソコンの入力をすることがあります。
会議中でメモを取るのも、マルチタスクです。
現代社会では、マルチタスクを避けることは困難でしょう。

複数の作業を短時間(1時間程度)でこなすのも、マルチタスクに含まれます。

一方で、複数の仕事を受け持つのは、マルチタスクではありません。
優先順位を決め、ひとつずつ作業をこなすからです。
マルチタスクは、同時作業のことです。

マルチタスクは集中力を邪魔する

マルチタスクは、作業の集中力を邪魔します。
どちらかの作業に、100%集中することはできません。

「ポズナーのマルチタスク曲線」というグラフがあります。
これは、片方の集中度合いによって、もう片方の作業が「どれだけパフォーマンスを得られるか」というグラフです。

ポズナーのマルチタスク曲線

この図は、マルチタスクで高いパフォーマンスを得ているように見えます。
私たちの実感としても、合っているように思えます。

しかし、現在の科学者は、このグラフを支持していません。

実際は、パフォーマンスが落ちるからです。
AとBを同時に作業しても「その合計は100%を超えるパフォーマンスにならない」というのが、近年の見解です。

いずれにしても、マルチタスクは集中力を邪魔します。
その結果、パフォーマンスは悪くなります。

実際は同時作業ではない

脳は同時作業ができると、多くの人が思い込んでいます。

実際には、瞬時に意識を切り替えているだけです。
脳は、同時作業をしていません。

「マルチタスク」で使う脳の領域

「作業」「目標」「切替スイッチ」の3つを使う

上図のように、作業Aと作業Bは、別々の脳領域を使っています。
作業するには、「作業の目標」を意識する必要があります。
したがって、目標にも脳の領域を使います。

実際に「マルチタスク」しているときの脳活動

マルチタスクをしているとき、「作業A」と「Aの目標」の脳領域を使います。
そして作業Bの目標を、保持しています。

私たちは、作業Aと作業Bを同時にこなしていると感じます。
実際は、作業Aをしながら、作業Bの目標を保持しています。
Aの作業中には、Bの作業ができません。Bは目標だけを保持します。

そして作業Bに切り替えるためには、切り替え専用の脳領域が使われます。

このことから「脳は3つの同時作業ができない」ことが判明しています。

マルチタスクができない人は?

マルチタスクができない人は、どんな要因があるのでしょうか?

マルチタスクが得意な人は、脳の切り替えが速い人です。
下図のように「作業A」と「作業B」を、素早く切り替えられます。

マルチタスクが得意な人の脳

実は、アクションゲームをプレイすることで、マルチタスク能力が鍛えられることが判明しています。
そのことから考えると、何かしらの認知能力は、マルチタスク能力を向上させるのかもしれません。

さて、「ゲーマーは頭が良い」と言う人がいます。
それは、ゲームによって脳の切り替えスピードが早くなり(マルチタスク能力)、「頭が良いと感じる」のではないでしょうか?

仕事の効率は悪くなる

同時作業中のイメージ

マルチタスクは効率を悪くします

私は若い頃、同時作業こそ「仕事ができる人」だと信じていました。
しかし、科学はそれを否定します。

例えば、電話をしながらメールを打つ行為です。

聴覚で相手の言葉を理解しながら、視覚と手の感覚でメールを打ちます。
この2つの作業は、脳が瞬時に切り替えをしながら行われます。

この切り替えのせいで、生産性が40%下がることもあります。
これはアメリカ心理学会の報告です。[※1]

マルチタスクは表面上、効率的に見えます。
しかし実際は、非効率です。

電話中はメモ程度にする

前述の通り、マルチタスクは、切り替えに負荷が掛かります。
電話や会議中は、メモ程度にまとめるのが良いでしょう。
(電話の内容を忘れては台無しです)

マルチタスクは勉強にも悪影響

ラジオを聴きながら勉強する人は、多いのではないでしょうか?

ラジオを聴きながらの勉強は、退屈をやわらげます。
しかし学習効果には、悪い影響があります。

テレビやスマホも、マルチタスクの「切り替え処理」に負担が掛かります。

音楽のマルチタスク

音楽は、脳の別領域を使います。
音楽を聴きながら勉強をするのは、それほど悪い影響にはなりません。[1]

  1. 歌詞のある音楽、魅力的な音楽は、集中力を邪魔する可能性があります。個人の特性にも影響します。

マルチタスカーは学業に悪い影響が出る

勉強している写真

学業に悪い影響があります

普段からマルチタスクをしている学生は、成績に悪い影響が出るという研究報告があります。[※2,※3]

マルチタスクは、単に勉強を邪魔するだけはありません。
普段からマルチタスクをしている人は、集中力に悪い影が出ます。

普段のマルチタスクが、認知のコントロールを乱しているようです。
気が散るのを防ぐことができない状態になります。[※]

  • この研究報告では「もともと集中力のない人が、マルチタスクをしてしまうかどうか」には触れられていません。

マルチタスカーはマルチタスクが上手くできない

普段からマルチタスクをしている人は、マルチタスクが上手くできないようです。
これはユタ州立大学の研究報告[※]です。[参考文献※5]

  • 信頼性が高い研究とは言えませんが、前項の報告と類似性もあり、裏付けのひとつになります。

前項の研究報告と同じように、ひとつの作業に集中できない分だけ、マルチタスクのパフォーマンスが落ちるのでしょう。

この報告によると、マルチタスクが得意と思っている人ほど、マルチタスクが上手くできない傾向にあるようです。
研究者らは「マルチタスカーは、マルチタスクが非効率なことに気づかない傾向がある」と言います。

女性はマルチタスクが得意か?

一部の研究者らは、エストロゲンがマルチタスクに有利と主張します。
エストロゲンは、女性ホルモンです。

このことから、女性はマルチタスクが得意と言われています。
ロンドン大学の研究でも、女性の方が有利でした。[※6]
しかし、現在の科学では、この証拠は弱いとされています。

最も新しい研究(2018年9月)では、マルチタスクに男女差はないと結論を出しています。[※11]

男女脳については、常に議論があります。
しかし多くの研究では、男女の差異は「あっても小さい」ということです。

環境によって脳は変化します。
マルチタスクの男女差について、あまり気にするべきではありません。

マルチタスクは運動を助ける

エクササイズする女性

マルチタスクは運動を助けるかもしれません

フロリダ大学の研究者らは、マルチタスクが運動を助けるかもしれないと言います。[※8]
これは、高齢者を対象にした研究です。
「サイクリング中に認知課題をする」というマルチタスクをしてもらいました。

この研究によると、マルチタスクで「簡単な課題をした場合に限り」サイクリングのスピードが増加しました。

課題を行うことで心身ともに興奮し、運動することで、やる気がアップするという複合的な作用が考えられています。

もしかしたら、ゲームをしながらエクササイズをすると、効果が上がるのでしょうか?
まだ研究段階で、解明まではされていません。

マルチタスクの種類

マルチタスクには、種類があります。
種類によっては、マルチタスクは非常に悪い影響が出てしまいます。

軽いマルチタスク

コーヒーを飲みながら読書する女性

コーヒーを飲むぐらいなら影響はありません

コーヒーを飲みながら仕事をするのは、軽いマルチタスクです。

私たちは、コーヒーの味に集中していません。

お菓子を食べながらの読書も、軽いマルチタスクです。
本の内容に集中しているため、お菓子の味に集中できません。

そもそもコーヒーや、お菓子の味に集中する必要はないでしょう。
片方が重要でないものは、軽いマルチタスクです。

誰でもやっていることで、軽いマルチタスクは何の問題も起こしません。
むしろ気分を良くする効果があります。

重いマルチタスク

「重要な作業」を同時にする場合があります。
重いマルチタスクです。

会議に参加しながら、書記をするような仕事です。
残念ながら、どちらか片方にしか集中できません。

飛行機のパイロットは、普段から重いマルチタスクをしています。
視覚で計器や空の状況を見ながら、管制塔とやりとりをします。

重いマルチタスクは、ストレスにさらされます。
できれば避けたいところです。

危険なマルチタスク

スマホを見ながら歩く女性

歩きスマホは、危険なマルチタスクです

マルチタスクには「どちらかに集中できない」という特性があります。
片方の作業が生命に関わるなら、マルチタスクは危険です。

子どもをクルマに乗せる場合、危険なマルチタスクをしている可能性があります。
そのために、チャイルドシートというものがあります。
チャイルドシートは、子どもへの注意を減らします。

運転中のタバコも危険

運転中のタバコは、なぜ規制されないのでしょうか?
私はちょっと疑問です。

火を扱うことは、多くの注意を必要とします。
運転中のタバコは、携帯よりも危険かもしれません。

運転中の危険なマルチタスク

クルマの運転中に控えるべきマルチタスクは、他にもあります。

それは意外なものです。

  • 相手と口論する
  • 怖い話をする

これらに共通するのは、不用意に注意を引くことです。
アメリカの雑誌「交通心理学と行動」によると、クモが苦手なドライバーに「クモの話をする」ことで、運転能力が大きく低下しました。[※]

  • ドライブシミュレーターでの実験です。

ほとんど知られていませんが、運転中の口げんかは、危険なマルチタスクです。
不用意に注意を引くような行為は、控えるべきです。

普段のマルチタスク

スマホを触りながらテレビを見たり、頻繁にスマホアプリを同時操作することは、脳にとって悪い行為です。
前述の研究報告の通り、普段のマルチタスクは、勉強や仕事に悪い影響があります。

マルチタスクをしている本人が「マルチタスクは効率が良い」と、「思い込んでいる」ことにも注意が必要です。

マルチメディア・タスキングとは?

マルチメディアタスキングをする人

「マルチメディアタスキング」という言葉があります。
これは、複数の電子デバイスを同時に扱うことです。

  • テレビを見ながらスマートフォンを触る
  • Youtubeを見ながらゲームをする

このような行為は、「マルチメディアタスキング」と言います。

「マルチメディアタスキング」をする人は、退屈さを解消し、気晴らしを得ます。
しかし、その代償は大きく、通常のマルチタスクよりも、悪影響を与えます。[※10]

そして意外なことがあります。
普段から「マルチメディアタスキング」をする人は、通常のマルチタスクが上手くできません。
つまり、脳の切り替えスピードが、遅くなることを意味します。

普段やるべきではないマルチタスク

食事を楽しむ老夫婦

食事中はテレビを消しましょう

私たちは「マルチタスクが与える悪影響」に気づきにくいのかもしれません。

テレビを見ながら食事をしていませんか?

テレビを見ながら食事をすると、テレビに集中力を割り当てることになります。

「アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション」に掲載された研究報告です。[※7]
食事中のマルチタスクは、味覚を鈍らせることが報告されています。

それだけではありません。
認知の負荷が、過食(食べすぎ)を誘います。

普段から濃い味を好む方は、食事中にテレビを見るのを控えましょう。
私も実践していますが、ごはんが驚くほど美味しく感じられます。

「料理は目で楽しむ」というのは、間違いではありません。
視覚の情報は、味覚を左右します。

手料理の味に集中しよう

テレビやスマホを見ながら、手料理を食べていませんか?

前述の通り、それは悪い行為です。
味わっていないからです。

パートナーとの関係を、悪くする可能性もあります。
日常生活のやめるべきマルチタスクです。

食事中の会話は良い

人間はよくできています。
噛みながらの会話はできません。

古来から、人間は危険なものを食べないよう「味に集中するように」できているのでしょう。
食事を楽しみながら、会話をすることは、自然な行為です。

マルチタスクをやめる具体的な方法

マルチタスクは、効率が良いと信じられているため、やめても効果が感じにくいと思います。
そこで実践するべき具体的な方法を紹介します。

通知を切って時間で管理する

メール、チャット、LINE、SNSなどは、通知が最大の敵です。
頻繁にアクセスすると、ついスマホを見るようになります。
これらは、勉強や作業の邪魔をします。

タイマーを使って、作業時間を管理する方法があります。

15分ごとにタイマーを設定し、タイマーが鳴ってから、スマホをチェックすれば良いのです。
私は仕事中、メールの通知も切って、15分ごとにチェックします。
だいたい15分経てば、集中力も切れそうになるのでオススメです。

モチベーションが維持できるような状態であれば、15分経っても作業や勉強を続けます。
フロー状態を活用するのも良いでしょう。
フロー心理学については、以下の記事をご参考ください。

モチベーションを上げる方法【フロー心理学とゾーン】

モチベーションを上げる方法【フロー心理学とゾーン】

効果が実感できる日常生活の作業

テレビを見ながらドライヤーを使う人は、ぜひ試してください。

テレビを切って、鏡に集中するだけです。
驚くほど早く髪が乾きます。

テレビは視覚情報を奪うので、どこを乾かしているのか、分からなくなります。
なんとなく手探りで、乾いた箇所を判断していませんか?
手の感覚よりも、視覚を頼った方が早いです。

これは、人間の視覚処理能力が、他の動物よりも優れているからです。
(犬は視覚よりも、嗅覚の処理能力が優れています)

まとめ

シングルタスクのイメージ

ひとつの作業に集中しましょう

「マルチタスクは効率が悪い」というのが、最近の知見です。
数年前までは「効率が良いのには違いないが、脳には悪い」と言われていました。
まだまだ解明されていないことが山積みです。

マルチタスクは、ワーキングメモリを圧迫します。
ワーキングメモリを消費することで、創造性も弱くなります。

ワーキングメモリとは【頭の良い人は、どう使っている?】

ワーキングメモリとは?【頭の良い人は、どう使っている?】

2012年の研究報告では、マルチタスクが問題解決能力のパフォーマンスを下げる可能性が報告されました。[参考文献※9]

ここまで研究報告が揃うと「マルチタスクはするべきではない」と結論がでます。

まずは食事中のテレビ、スマホをやめましょう。
美味しいと感じるようになり、過食を防いでくれます。

WEB関係の仕事は、マルチタスクだらけです。
私も何とか工夫して、マルチタスクを避けようとしています。

仕事や勉強をする上でも、マルチタスクのデメリットを知っておいて損はないでしょう。

参考文献

この記事は以下の文献を参考にして、独自の解釈でまとめています。

  1. Multitasking: Switching costs
  2. The relationship between multitasking and academic performance
  3. http://news.stanford.edu/2009/08/24/multitask-research-study-082409/
  4. Interview Clifford Nass
  5. Who multi-tasks and why? Multi-tasking ability, perceived multi-tasking ability, impulsivity, and sensation seeking.
  6. Integrating knowledge of multitasking and interruptions across different perspectives and research methods
  7. Eating attentively: a systematic review and meta-analysis of the effect of food intake memory and awareness on eating
  8. UF study shows benefits of multi-tasking on exercise
  9. Working Memory Capacity, Attentional Focus, and Problem Solving
  10. Cognitive control in media multitaskers
  11. Research: Women and Men Are Equally Bad at Multitasking
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