モチベーションの維持が難しくなった。
ゴルフの宮里藍選手が、引退会見でそう語りました。
仕事、勉強、スポーツにおいて「モチベーションが続かない」ことがよく起こります。
一方で人間は、時間を忘れて物ごとに打ち込めるときがあります。
これを心理学で「フロー」もしくは「ゾーン」と呼びます。
フローにあると、モチベーションは維持され続けます。
仕事や勉強でのフローは、非常に高いパフォーマンスを発揮できます。
この記事では、モチベーションアップのための「フロー(ゾーン)」について解説します。
フローを知れば、モチベーションをずっと続かせる方法が見つかるでしょう。
心理学のフローとは?
フローとは以下のような状態です。
- 圧倒的に集中している状態
- 没頭している状態
心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏が提唱した有名な概念です。
フローは、ゾーンと呼ばれることもあります。
古くは「無我の境地」と言われたり、ポーカーの世界では「Aゲーム」と呼ばれています。
何かに没頭している時間は、充実しています。
誰もが経験していると思います。
フロー状態は、充実感を得ることができます。
人によっては「楽しくて仕方ない」と感じます。
それが仕事や勉強なら、毎日が充実することでしょう。
フロー状態では、モチベーションがずっと続きます。
そんなフロー状態になるには、条件があります。
- 明確な目的(予想と法則が認識できる)
- 専念と集中、注意力の限定された分野への高度な集中。(活動に従事する人が、それに深く集中し探求する機会を持つ)
- 自己に対する意識の感覚の低下、活動と意識の融合。
- 時間感覚のゆがみ – 時間への我々の主体的な経験の変更
- 直接的で即座な反応(活動の過程における成功と失敗が明確で、行動が必要に応じて調節される)
- 能力の水準と難易度とのバランス(活動が易しすぎず、難しすぎない)
- 状況や活動を自分で制御している感覚。
- 活動に本質的な価値がある、だから活動が苦にならない。
フローを経験するためにこれら要素のすべてが必要というわけではない。
出典元:Wikipedia
やや難しいので、分かりやすく説明します。
フロー状態に入る方法
フロー状態に入ると、モチベーションは維持され、充実感を得ることができます。
前述のように、いくつかの条件があります。
この条件を満たせば、モチベーションを続けさせることができます。
トレーニングや勉強方法を工夫すれば、フローが起こります。
ここではフロー状態になる条件を説明します。
直接的で素早いフィードバック
フィードバックとは、結果や感想を伝えることです。
直接的で早いフィードバックの方が、フロー状態に入りやすくなります。
ミスをしたら「何がダメだったか」を素早く知ることができる状態です。
例えば、丸めた新聞紙をゴミ箱に投げるとき、手前に落ちれば「投げる力が足りなかった」と、要因がすぐに分かります。
フィードバックが早くて分かりやすい方が、フロー状態になりやすいのです。
結果が出るのが遅いほど、モチベーションも下がりやすくなります。
それは良い結果だけでなく、悪い結果でも同じです。
スポーツの世界では、トレーニングが長く、すぐに結果が出ません。
モチベーションを維持するためには、トレーニングを工夫する必要があります。
スキルと難易度のバランス
自分のスキルと、挑戦する難易度が合ってなければ、フローは起きません。
「自分に最適な難易度の課題」に、挑戦しているでしょうか。
- 高い難易度は挫折します
- 低い難易度は飽きます
最初から難しいことにチャレンジしてはいけません。
相手にチャレンジさせてもいけません。
以下の図を参考にしてください。
トレーニングや勉強であれば、自分のスキルより「少しだけ上の難度」を目指すと良いでしょう。
ステップアップができるように練習を設計すれば、モチベーションが続きます。
自発的な活動
誰かに言われてではなく、自分から行動する必要があります。
例えばミスをしたとき、誰かに指摘されるのではなく、自分で理解して改善できると、フロー状態に入りやすくなります。
活動に価値があること
「その活動自体に価値がない」と、フローは起こりません。
目的や得られる報酬が必要です。
報酬は金銭とは限りません。
脳機能では「褒められる」「目標を達成する」などで、金銭を受け取るのと同じ脳領域が活動します。[※]
- いわゆる報酬系回路です
この脳領域が活動すると、モチベーションが上がります。
活動そのものに、価値が必要です。
ビデオゲームでフロー体験ができる
もっとも簡単に、誰にでもフローを体験できる方法があります。
それはビデオゲームです。
多くのビデオゲームは、フロー体験が得られるように設計されています。
ゲームでは、ステージが進むにつれて、難易度が高くなります。
プレイヤーのスキルが低いときには、低い難易度が与えられます。
プレイヤーのスキルに合わせて、挑戦できるステージがステップアップするのです。
ゲームでミスをすれば、プレイヤーは「ライフが減る」などの直接的なフィードバックを得ます。
そして自発的に「ミスした要因」を改善できます。
私たちがゲームに熱中するのは、フロー状態が起こるように設計されているからです。
フローの見つけ方
フロー状態になると、仕事で充実感を得ることができます。
充実した日を過ごすには、フローを見つける必要があります。
好きなことによるフロー
フロー状態に入るには、前述の条件以外に好みもあります。
「好きなことをする」とも言えます。
フローとは、夢中になれる活動です。
例えば、絵を描くのが好きな人は、絵を描くことでフロー状態に入ります。
描くことで、夢中になれるのです。
私はホームページを作ることで、フローを体感します。
さらに認知特性によって、ひとそれぞれのフローがあります。
認知特性とは、視覚や聴覚などの情報を理解する能力です。
以下の記事にて、詳しく説明しています。
複数人だと起こりやすい
単独よりも、複数人で支えあった方が、フローを得やすくなります。
支えあうというよりは、活動について「会話できる仲間」がいれば良いだけです。[※]
- セント・ボナベンチャー大学の研究者らによる報告
注意をそらすものを排除する
注意をそらす物を排除すると、フロー状態(ゾーン)に入りやすくなります。
スマートフォンは、手の届かない場所に置くべきです。
勉強や仕事でフローを活用する方法
コーチや社員教育の担当者は、フローを活用することで、良い結果を生みやすくなります。
そのためには、フローが活用できるように、練習や仕事を再設計する必要があります。
実際には難しい点もあります。
どのようにフローを活用して、スキルアップできるかを説明します。
高い目標を設定しない
目標は細かく設定します。
いきなり難易度の高いことに、挑戦しないでください。
フローが起きるには、自分のスキルレベルと、挑戦する難易度に差があってはいけません。
目標を細かく設定すれば、達成の喜びも多くなります。
そして物事に集中できます。
細かすぎる指導をしない
コーチや教育者は、細かい指導をする傾向があります。
フローが起きるには、教えるよりも、自発的な行動が大切です。
細かい部分を指導するほど、相手は「萎縮(いしゅく)」します。
ていねいに教えられたのに「できない」という状況が、怖いからです。
細かい指導よりも、自分で間違いに気づき、自発的に修正することが重要です。
チャンスを制限しない
筋肉は、思い通りに動くまでに時間が掛かります。
何度も挑戦して、脳を補正させる必要があります。
挑戦できる回数が多いほど、フロー状態に入りやすくなります。
例えばビデオゲームの場合です。
1回のミスで、最初のステージに戻されるようなゲームでは、フローは起こりにくくなります。
これは、挑戦する回数(チャンス)が少ないからです。
ミス(失敗)の罪を軽くする
過度なプレッシャーをかけないことが大切です。
ミス(失敗)は、単なるフィードバックです。
ゲームでミスをしても、あなたを責める人はいません。
すぐに立ち直ることができます。
内的動機
内的動機とは「何となく好きなこと」です。
一方で外的動機とは「大きな収入を得たい」とか「有名になりたい」などの動機です。
例えば「絵を描くこと」については、2種類の動機があります。
「描くだけでも好き」が内的動機で、「上手くなりたい」が外的動機です。
外的動機のみの場合、フロー状態に入るのが非常に難しくなります。
「やっていて苦痛にならないこと」「何となく好きなこと」を見つけるのが、フロー状態に入る近道です。
まとめ
モチベーションをアップさせる方法として、心理学のフロー(ゾーン)を紹介しました。
やる気をアップさせる方法としては、脳をだます方法[※]もあります。
- 脳の報酬回路やドーパミンを利用する
しかし最も効果が高いのは、フロー状態を作ることです。
フローが起きているとき、脳レベルでは、前頭前野の活動が低下します。
(前頭前野は時間を認知する機能があります)
フロー状態で時間を忘れて夢中になるのは、前頭前野の活動が低下するからです。
またフロー状態は、ドーパミンと関連しているという仮説もあります。
フロー現象を知っておくだけでも、自分の能力を伸ばすのに役立ちます。
また他人の能力を伸ばすのにも、フローを考慮する必要があります。
あなたが「時間を忘れるように、フロー状態になる」のは、どんなことでしょうか?
フローを見つけることができれば、自分の才能にたどり着けるかもしれません。
まずは自分の活動中に「フローが起こっているかどうか」を見つけるのが良いでしょう。
フロー状態は、人生を充実させます。
参考文献
この記事は以下の文献を参考にして、フローについて独自の解釈でまとめています。
- 【PDF】The Concept of Flow
- フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR) M.チクセントミハイ(著)