- このページは、過去にご好評いただいた「不登校の子どもの心理を解説」を、当サイト主催の勉強会参加者様の貴重な実体験コメントに基づき大幅に更新した【新版】となります。従来の学術的な知見に加え、当事者性の高い具体的なサインと初期対応の原則を凝縮しました。以前の記事をご覧になった方も、改めてこちら新版をご参照ください。
前回は子どもが示す「小さなSOS」を見逃さないチェックポイントを確認し、何よりも「受け容れる」という初期対応の原則を学びました。
しかし不安が落ち着くと、保護者様の心には必ず「なぜ学校に行けなくなったのだろう?」という根源的な問いが浮かびます。実際、当サイトでの勉強会でもこの質問が多く、また探求はとても活発です。
しかし結論から言えば、不登校の「原因」は追い求めない。この「原因」探求は適切に進めれば解決への大きなヒントになりますが、一歩間違えると「犯人探し」という名の不毛な空中戦に陥り、親子関係を返って悪化させてしまいます(そして多くの体験談が示す通り、振り返っても「真因」はわかりません)。大切なのは、単一の「真因」を見つけることではなく、子どものの「心のエネルギー切れ」という状態を理解し、その構造を俯瞰(=メタ認知)することです。
上記をご理解いただいたうえで、この章では不登校の「原因」について「子ども因子」「学校因子」「家庭因子」の3つに複合し、さらに「いじめ」や「発達特性」といった現代的な要因が複雑に絡み合っている構造を解説します。子どもを取り巻く環境との間に、どのような「構造的なミスマッチ」が起きているのか。その全体像を、客観的なデータと過去勉強会に参加いただいた当事者の声からひも解いていきましょう。
1. 不登校原因の構造:3つの複合因子
不登校の原因を整理する際、その要因は大きく「子ども自身」「家庭」「学校」の3つに分類され、これらが複雑に絡み合って、子どもを「動けない状態」に追い込むとされています(藤井義久, 2025)。
① 子ども因子:内なる声とエネルギー切れ
これは、子ども自身が持つ気質、特性、および心理状態に関わる要因です。
- 無気力・不安・自己否定: 不登校のきっかけとして最も多いのが、「無気力・不安」です。「何もしたくない」「どうせ自分はだめだ」という言葉の裏には、過度なプレッシャーや劣等感が隠されています
→ある保護者は「明るい感じで『自分はダメだから、まだまだ頑張らないと』とふとこぼしていた」と、まさに”自己否定をポジティブな言葉で偽装した状態”を振り返りました。 - 発達特性(HSC/ASD/ADHD): 感覚過敏で制服や給食の食感が苦手なこと、集団行動や急な切り替えが難しいことなど、脳の特性が学校の画一的なシステムとミスマッチを起こし、毎日を生きづらくさせています。
→実際例として「給食のあるおかずの”食感”がどうしても苦手」「教室がうるさすぎる」などという訴えがありました。これはワガママではなく、感覚過敏としてのSOSです。 - 学習性無力感: 授業についていけないなどの繰り返し、また慢性的な状態が、「努力しても報われない」と感じ、学校を「失敗を突きつけられる場所」に変えてしまうことがあります。
→不登校の主要因として挙げられる「無気力」とは、こうした”結果”として自発的な行動を起こさなくなる状態だと思われます。
② 学校因子:環境と人間関係のプレッシャー
学校という集団環境、指導体制、人間関係に関わる要因です。
- 友人関係と「島宇宙化」: いじめに至らないまでも、特定グループ内での「島宇宙化」(閉鎖的な仲間集団)やスクールカーストに疲弊し、居場所を失う子どもが増えています
- 教師とのミスマッチ: 特定の先生の指導スタイルや叱責が、繊細な子ども(HSC)にとって過度なプレッシャーや恐怖となることがあります
- システム疲弊: 教員不足や多忙化により、教師が子ども一人ひとりの小さな変化に気づき、寄り添う時間が減少していることも、不登校増加の構造的な要因となっています。
こと不登校の”要因”として挙げられる「ゲーム・SNS」ですが、実は人間関係のトラブルを内面に押し込め、異なる世界へ”逃避”するようになった結果であることが多いようです。
③ 家庭因子:子どもの「安全基地」と親子の関係性
家庭環境、親の期待、および親子のコミュニケーションに関わる要因です。
- 親の過度な期待・干渉: 保護者からの「学校に行くべき」「良い成績を取るべき」という無言のプレッシャーが、子どもの罪悪感を増大させ、自己肯定感を低下させます。
- 家庭内の不和・環境変化: 親子の不和、両親の離婚、転居、身近な人の死など、子どもにとって安心感が揺らぐ環境の変化も、学校へのエネルギーを奪います。
- 親子のコミュニケーション: 登校刺激や「なぜ行かないの?」という問い詰めが、子どもをさらに孤立させ、家庭が「安全基地」として機能しなくなることが、不登校を長期化させる最大の要因となります。
2. 現代特有の要因:複合ミスマッチの深刻化
特に現代において、不登校の背景には従来の要因に加えて「社会構造」の変化が複合的に影響しています。
- 昼夜逆転: 不登校の子どもの多くが、夜遅くまでゲームやSNSに没頭し、昼夜逆転を引き起こしています。これは単なる怠惰ではなく(上記に述べたように現実のストレスからの逃避が多い)、しかし”結果”として生活リズム、そして自律神経の乱れを招き「朝起きられない」という身体的な問題へと深刻化させ、重症化していきます。
- 孤立感の増幅: コロナ禍の影響は、「対面」での人間関係構築スキルを低下させたと言われます。デジタル空間は一時的な居場所を提供する一方で、現実世界との距離を広げ、本質的な孤立感を増幅させるリスクをはらんでいます。
→とある保護者は「マスク越しで表情が読み取れなくなってしまったことで、子どもが対人恐怖を感じるようになってしまった」とも指摘します。 - いじり~いじめ問題の複雑化: 従来の身体的暴力だけでなく、SNSでの誹謗中傷、LINEのグループ外しといったネットいじめや、言葉の暴力(いじり)が子どもたちを24時間ストレスに晒しています。
※詳しくは「不登校といじめの関係を調査。「いじり」やネットいじめの実態と対応方法」で解説しています。
3. 次のステップ:「犯人探し」を避けるために
輪をかけてややこしいのが、これら諸因子は複合的であり、かつその因果がはっきりしません。また挙げた以外にも「将来に対する漠然とした不安」などもあり、もはや”子どもの数だけ原因がある”と言っても良い。
なかで保護者は(おそらくちょっとした正義感や好奇心も手伝って)「私が悪かったのか」「学校が悪いのか」と”なぜ”を問い詰めがちです。しかしこれが、さらに悪いことに、「”なぜ”と問い詰める罠」を重ねます(※次章で詳しく解説します)
踏まて、単一の原因に固執する「不登校の”犯人”探し」はいますぐやめたほうがよいというのが、当サイトに通底する考え方です。それより大切なのは、まず子どもが心のエネルギーを徐々に回復させるのを、ゆっくり待つこと。そして子ども自身が内面に持つ「登校促進要因(希望、興味、好きなこと)」が沸き起こるのを静かに見守り、伸ばすことではないでしょうか?
というわけで次章では、子どもの内面構造(「混乱と受容」という心理学的な視点)から、心が現在どの段階にあるのか?どうすれば「促進要因(好因子)」を引き出せるのか?について考察し、回復への道のりを具体的に解説していきます。
- 参考文献
本記事の作成にあたり、以下の知見を参照しています。
- 藤井 義久 (2025):登校回避要因と登校促進要因に関する質的研究―KJ法による自由記述の分析を通して―
- 文部科学省 (2020):児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(令和元年度以降)
- いじめ防止対策推進法
- 国立成育医療研究センター:不登校の理解と支援(公的機関の見解)
- 三島 浩司ほか:登校回避行動の予防的介入研究
- 日本小児保健協会:中学生の生活リズムと健康(睡眠不足と生活の乱れに関する知見)

