【第4回】How(複数人~チームで):支援現場へ提案する「失敗の科学」

〜大人の「自己開示」と「真似の推奨」が、集団での自律を支える〜

家庭から「外の世界」へ踏み出すとき

スガヤ: スミレさん、前回は家庭を「安全な基地」にするための「パスの権利」や「小さな自己決定」について伺いました。これによって、少しずつ元気を取り戻した子が、次に向かうのがフリースクールや地域のコミュニティといった「複数の人がいる場」ですよね。 ただ、親としてはここがまた不安なんです。せっかく家で回復したのに、外で失敗してまた傷つくんじゃないか。あるいは、周りの子とうまくやれずに孤立してしまうんじゃないか、と。支援の現場では、子どもたちが安心して「他者」と関わるために、どのような工夫ができるのでしょうか。

スミレ: その不安は、多くの保護者の方が抱える共通の悩みですよね。 私の論では、教育実習での経験をもとに「ストロー飛行機」という教材を使った授業案を提案しました ※低学年向けのプログラムです。この単元構想には、不登校傾向にあるお子さんや対人不安の強いお子さんが、集団の中で無理なく「自分」を出し、他者とつながるための仕掛けを詰め込んでいます。 今回は、フリースクールや親の会のスタッフの方々にも共有できるような、「集団でのSEL(社会性と情動の学習)」をデザインする3つのステップをお話しします。


ステップ1:大人が「失敗」を先に見せ、心理的ハードルを下げる

スガヤ: 具体的なステップ。ぜひ教えてください。

スミレ: まず最も大切なのは、活動の冒頭での「安全性の提示」です。 私の授業案では、教師がわざと「うまく飛ばなかった飛行機」を子どもたちに見せるという導入を考えました 。あえて失敗談を自己開示することで、「この場では失敗しても大丈夫なんだ」「先生も完璧じゃないんだ」という空気を意図的に作るのです 。

スガヤ: 大人が先に「失敗」を見せるわけですね。これ、親がついやってしまう「正しい手本を見せて、その通りにさせようとする」のとは真逆ですね。

スミレ: そうなんです。評価されることへの恐怖が強いお子さんにとって、大人が「正解」を持っている場所は緊張を強いる空間になります 。 しかし、大人が先に失敗をさらけ出し、共に試行錯誤する姿勢を見せれば、そこは「評価の場」から「実験の場」に変わります。大人が子どもと同じ側に立って一緒に模索すること、それが関係づくりの土台になります 。

スガヤ:なるほど、同時に「評価者(タテ)」から「仲間(ヨコ)」に関係性が変わるわけですね。ムスコとゲームやってたときが、まさにこれでした(よくなじられましたけど……)


■ ステップ2:「真似(模倣)」を協働スキルとして肯定する

スガヤ: 実験の場。それなら、失敗しても「データが取れた」と思えそうです。他者との関わりについてはどうでしょうか?

スミレ: そこでは、他者の工夫を自分の作品に取り入れること、つまり「真似」を積極的に推奨します。 学校のテストなどでは「真似=カンニング(悪いこと)」とされがちですが、SELの視点では、他者の良い点に気づき、それを取り入れることは高度な「他者への気づき」であり、「対人関係」スキルの実践です 。

スガヤ: 仕事でも「できる人のやり方を盗む」のは基本ですもんね。「守破離」でも、まずは他者からの「型」の伝承がありきです。

スミレ: その通りです。一人で抱え込まず、他者の力を借りて課題を解決する。この「援助要請」の経験を積むことで、子どもは「他者と関わることには良さがある」と実感し、自ら関係を築こうとする意欲を育みます 。特定の「親友」はいなくても、良い知恵をシェアし合える仲間がいる。これこそが、前回お話しした「シェアのつながり」の構築そのものです 。

スガヤ:そもそもが「自己責任」と喧しい社会です。一方で「早く行くなら独り、遠くに行くならみんな」のことわざのように、中長期的にみれば”他者に上手に頼る”ことがヘタだとどこかで限界がきてしまいます。「上手に他者に頼る(依存先を増やす)」ことを教え、学ぶことは実はとても貴重ですよね。


■ ステップ3:結果ではなく「努力」を5:1の比率で称賛する

スガヤ: 「真似していいよ」と言われるだけで、孤立感はぐっと減りそうです。最後に、見守る大人の声かけについて教えてください。

スミレ: 評価の際は、完成した作品の出来栄え(結果)ではなく、「工夫した過程」や「試行錯誤した努力」そのものに注目してみましょう。 論文で引用した基本資料によると、努力に対して「5対1」の比率(肯定的賞賛5に対し、修正的フィードバック1)で言葉をかけることが、子どものエンゲージメントや意欲を高めるとされています 。

スガヤ: 「5回褒めて、やっと1回アドバイス」ですか。これは意識しないと難しい……。

スミレ: 「友達の考えを参考にしながら、最後まで粘り強く取り組んでいたね」といった具体的なフィードバックが、子どもの「自己のコントロール」や自信を育みます 。たとえ思うような結果が出なくても、その「過程」を大人が価値づけてくれることで、子どもは次の挑戦への勇気を持つことができるのです 。

支援者・スタッフ向け:SELプログラム導入のポイント

スミレさんの単元構想 を、フリースクールの活動等に応用する際のチェックリストです。

  • 目標の包括化:「1位を決める」ような限定的な目標ではなく、多様な個の願いを内包できる目標を設定する(例:遠くに飛ぶ機体ではなく、宇宙人が喜ぶ機体) 。
  • 物理的環境の構成:活動場所が分散しすぎず、他者の工夫に自然と目が向くような距離感を保つ 。
  • 共有手段の複数化:全体の発表だけでなく、小グループや掲示物など、口頭での発信が苦手な子でも「自分の考えが受け入れられている」と感じられる場を用意する 。

自ら「居場所」をつくる力を育むために

スガヤ: 大人が失敗を見せ、真似を推奨し、過程を褒める。この3ステップは、フリースクールに限らず、家で親子でゲームをしたり料理をしたりする時にも使えそうですね(確かにムスコの得意料理は、そもそもボクの苦手でした)。

スミレ: はい。大切なのは、大人が環境(土台)を整えた上で、最終的には子ども自身が他者と関係を築き、自ら居場所を形成していく力を身につけることです 。 教師や親に依存した安心感は、環境が変われば失われてしまうかもしれません。しかし、試行錯誤の中で「自分も他者も大切にする方法」を学んだ子は、社会に出た後も、どんな場所で自ら居場所を築いていくことができます 。

スガヤ: 「与えられる居場所」から「自分でつくる居場所」へ。不登校という期間が、その力を養うための貴重なトレーニング期間に見えてきました。 次回はいよいよ最終回。SELという「一生モノの力」を育むために、僕ら大人が持ち続けたい視点についてまとめます。

スミレ: 関係づくりは、本人のペースでスモールステップに進むものです 。最後まで、その歩みに寄り添っていきましょう。

続き:【第5回】まとめ/SELは「一生モノ」の力。自律への歩みを支えるために

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