・書籍タイトル: 思春期に心が折れた時 親がすべきこと コロナ禍でも「できる」解決のヒント
・著者: 関谷 秀子
・出版社: 中央公論新社(中公新書ラクレ)
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「病名」を探すよりも、家庭の「空気」を変えてみる
「うちの子は発達障害ではないか」「うつ病になってしまったのではないか」。 我が子が突然学校に行けなくなったり、部屋に引きこもったり、あるいは家庭内暴力を振るうようになった時、親は不安のあまり「病名」を探してしまいがちです。しかし、精神科医である著者は、そうした症状の多くは脳の病気そのものというよりも、思春期特有の「発達課題」につまずいているサインだと指摘します。 本書は、不登校、強迫性障害、摂食障害など、一見バラバラに見える子どもの不調の背景に、実は「親子関係のねじれ」や「夫婦関係の問題」が隠れていることを、14の具体的な臨床事例を通じて解き明かしていきます。薬を飲ませるよりも、親が関わり方を変えることで、子どもが劇的に回復していくプロセスは、悩める保護者に「解決の鍵は、実は自分たちの手の中にある」という希望を与えてくれます。
※子どもの様子がおかしいと感じた時、慌てて病院を探す前に、まずは家庭内の環境を見直すことで状況が好転するケースも少なくありません。著者が推奨する「家庭でできるケア」の要点を整理しました。
■「親が気をつけるべき具体的なポイント」(第4部より)
・プライバシーと「個」の尊重(過干渉の停止):つい気になって部屋を覗いたり、スマホをチェックしたりしていませんか? 著者は「子どもの自立」を促すために、以下のような具体的なルールを提案しています。
・子ども部屋に入る時は必ずノックをする。
・無断で日記や携帯電話を見ない。
・朝起こすことや学校の準備など、自分のことは自分でさせる。
これらは「あなたを一人の人間として信頼し、尊重している」という親からの強力なメッセージになります。・夫婦関係の「境界線」を引く: 子どもを夫婦喧嘩の仲裁役にしたり、パートナーの愚痴を聞かせたりしていませんか? 子どもは親が思う以上に、両親の関係性に敏感です。
・子どもを夫婦間のメッセンジャーにしない。
・子どもの前でパートナーの悪口を言わない。
夫婦の問題は大人の間で解決し、子どもを巻き込まないこと。これが子どもの安心感の土台となります。・身体的・性的な距離感の再設定:思春期は身体が大人へと変化するデリケートな時期です。親にとっては「いつまでも可愛い我が子」でも、物理的な距離感は「大人同士」のものへとシフトする必要があります。
・特に異性の親は、過度なスキンシップを控える。
・親の下着姿や裸を見せないなど、「恥じらい」を持つ。
適切な距離感は、子どもの健全な性的成熟と親離れを助けます。価値観の「押し付け」から「提示」へ: 子どもが親の価値観に反発するのは、順調な成長の証です。
・親の夢や理想を押し付けず、子どもの夢を尊重する。
・批判されたとしても、感情的に言い返さず冷静に受け止める。
親が「自分とは違う人生を歩む一人の人間」として子どもを認め(子離れし)、親自身も自分の人生を楽しむ姿を見せることが、結果として子どもの自立へのエネルギーとなります。
ポイント: 子どもの「自立」を阻む、良かれと思った親の愛
本書の核心は、子どもの問題行動や身体症状を「親へのメッセージ」として読み解く点にあります。
・症状は「SOS」であり「防衛反応」: 不登校や引きこもり、摂食障害といった症状は、子どもが過干渉な親から自分を守るため、あるいは夫婦仲の悪い両親の緩衝材となるために、無意識に身につけた「鎧」である場合があります。
・親ガイダンスの重要性: 子ども本人を診察室に連れてくることよりも、親が専門家のアドバイス(親ガイダンス)を受け、家庭内での対応を変えることが、結果として子どもの回復への近道となります。 ・夫婦関係の影響: 子どもは親が思っている以上に、両親の不仲や、どちらか一方の親への従属関係に敏感です。夫婦が「親」として協力し合う体制を作ることが、子どもの安心感と自立への土台となります。
この本について
・独自の視点
多くの育児書が「子どもの接し方」に終始する中で、本書は「親自身の生き方」や「夫婦のあり方」にまで踏み込んでいます。「子どもの問題は、親の人生の未解決の課題が投影されたもの」という視点は厳しくもありますが、同時に「親が変われば、子どもは必ず変わる」という強い信頼に基づいています。
・相対評価
・評価軸の傾向 理論(抽象) ⇔ 方法(具体): 方法(具体)に特化。14人の詳細なケーススタディを通じて、どのような言葉かけや態度が子どもの変化を促したかが具体的に描かれています。
・ドライ(客観) ⇔ ウェット(感情): ウェット(感情)。家族の情動的な結びつきや、親の葛藤に深く寄り添う内容です。
・今すぐ(短期) ⇔ じっくり(長期): じっくり(長期)。即効性のあるテクニックというよりは、時間をかけて関係性を再構築するアプローチです。
・当事者目線 ⇔ 支援者目線: 支援者(親)目線。親がどう振る舞うべきかに焦点が当てられています。 ポジティブ(肯定的) ⇔ ニュートラル(客観的): ニュートラル。現実は厳しいことを認めつつ、適切な介入で必ず好転するという現実的な希望を示しています。
・発達特性との関連度: 3。「発達障害」と疑われるケースでも、実は環境要因が大きい場合があるという視点を提供しており、安易な診断に警鐘を鳴らしています。
まとめ: 親が変わる勇気が、子どもの「生きる力」を呼び覚ます
著者は「家庭内に子どもの発達を阻害するような要因があるのに、それに手を付けないまま、子どもの発達が再び前進するような魔法は存在しない」と断言します。これは耳の痛い言葉かもしれません。しかし裏を返せば、親が覚悟を決めて、夫婦関係を見直し、子どもを一人の人間として尊重し(子離れし)始めたとき、子どもは驚くほどの回復力(発達力)を見せるということです。 本書は、子どもの不調を「家族がより良い形に生まれ変わるためのチャンス」と捉え直すための、確かな地図となってくれる一冊です。
スガヤのふせん ~個人的ブックマーク
精神科医である著者の言葉には、現場で親子に向き合い続けてきたからこその重みと、温かい厳しさがあります。 特に印象的だったのは、「思春期の子どもは、しつけによってではなく、親の生き方を取り入れて成長する(同一化)」という指摘です。
ボクたちはつい、子どもが学校に行かなくなると「どうやって行かせるか」「どうやって勉強させるか」というコントロール(しつけ)の方向に意識が向きがちです。でも、この本が教えてくれるのは、親であるボクたち自身が、自分の人生を大切にし、パートナーと向き合い、自立した大人として生きている背中を見せることこそが、最大の子育てだということです。 不登校の子どもが求めているのは、管理でも心配でもなく、「信頼」と「適度な距離」です。 「親離れ、そして子離れは、親にも一層の成熟を求められる、難しい課題である」。
子どもが苦しんでいるとき、親もまた試されています。でも、それは決して孤独な戦いではありません。子どもは親が自分を信じて手放してくれるのを待っていますし、その先に、新しい親子関係が待っています。 「魔法」はないけれど、ボクたち親が変わることで起こせる「奇跡」はある。そう信じさせてくれる一冊です。

