不登校ブックガイド:「不登校をひらく(Vol.2)」刊行の背景

前回リリースした「不登校ブックガイド:「不登校をひらく(Vol.1)」刊行の理由」では、そのリリースに至る「理由(編集室の思い)」を、書籍の「まえがき」を持ってご案内しました。

今回は「Vol.2」の「まえがき」を引用するとともに、「なぜ従来のアドバイスでは不登校が解決しないのか?」を元に、当サイト独自の提案とその「ねらい」や「背景」をお伝えします。

目次

まえがき

前編であるVol.1を読み終え、実践を始めてくださったみなさん、まずは本当にお疲れ様でした。ココロの「エネルギー漏れ(漏電)」を止め、家庭の「家庭環境」を再構築する。その「守り」のプロセスを経て、家の中の空気は少しずつ、しかし確実に変わり始めているはずです。

後編となる本書Vol.2のテーマは、徹底した「攻め」です。 家庭を単なる「避難所(セキュアベース/安心感と信頼を与え、リスクを恐れず挑戦する意欲を引き出す存在や場所)」として維持するフェーズは終わりました。ここからは、その場所を自立のための「拠点(ベースキャンプ)」へと作り替えていくステップに入ります。

申し遅れましたが、後編も引き続きボク(スガヤ)とスミレさんがお供致します。

 スガヤ:長年教育業界に身を置き、約10万人、3歳から65歳までの学びに広く伴走。現在は「不登校をひらく(no_mark.jp)」編集長として、フリースクール、および地方での勉強会を中心に百人以上の不登校親子と対話を重ねてきました。このプロジェクトでは、主に「現場の視点」から、不登校という状況をどう前向きに活用するかを提案しています。

 スミレ:アメリカで研究が進む感情教育の枠組み「SEL(社会性と情動の学習)」の専門家です。科学的な知見に基づき、目に見えない「心の整え方」を家庭で使える具体的な技術に翻訳する役割を担っています。

この「現場のリアル」と「教育の理論」という両輪で、みなさんのこれからの歩みをガイドしていきます。

本書のねらい

本書のねらいは、従来の不登校支援とは異なる視点から、親子が「おうちじかん」を通して自律へ向かうための具体的な設計図を提示することにあります。

「ただ待つ」議論からの脱却:昭和から平成にかけて主流であった「登校刺激を避け、本人のエネルギー回復をひたすら待つ」「原因を一切追求しない」といった受動的なアプローチとは一線を画します。私たちは、「子どもの回復力を信じて待つ」という選択が、時として事態を膠着させ、意味のない停滞を長引かせるという冷徹な現実を直視します。

積極的関与による「温め期」の提唱:混乱期から回復期へ向かう過程において、保護者が意図的に介入する「温め期」の重要性を主張します。これこそが本書のメインテーマである「攻め」のフェーズです。単なる「放置」ではなく、保護者の積極的な関わりによって家庭を自律のための「拠点」に作り替えることを提案します。

デジタル環境への警鐘:現在の不登校支援で一般的とされる「ゲームやSNSも重要な避難所」「昼夜逆転は一時的に仕方ない」といった言説に対し、本書は明確に警鐘を鳴らします。最新の心理学を駆使して「没頭」を追求する巨大企業のアルゴリズムに、個人の意志だけで対抗するのは極めて困難です。無策な没頭は、不登校状態を長期化させる「負ける確率が高い賭け」であると言わざるを得ません。

コミュニティ依存と「毛づくろい」への距離:ママコミュニティ(特にオンライン)や保護者の会での交流についても、一定の距離を置くことを提案します。 慰め合う時間や言葉は、確かに孤独な保護者にとって一時的な心の支えにはなります。 しかしこれが現状を追認し合うだけの「毛づくろい(互いの傷を舐め合うだけの行為)」に終始してしまうと、現実を変えるためのエネルギーを奪い、コミュニティ内での慰めのループに留まってしまう危険があります(そうした「停滞」を促進するタイプの場も散見されます)。

「違和感」の言語化と内省の重視:私たちは、過去を掘り下げる不毛な「原因探し」は推奨しません。しかし、学校に行けない現状に対する「違和感」を内省し、言語化していく活動は不可欠であると考えます。自分の心を知り、整える「SEL(社会性と情動の学習)」のプロセスこそが、人生という長期戦を生き抜くための最も重要な知恵となります。

テクノロジーという「悪性」と「善性」を使い分ける

ここで、「デジタル社会と不登校」の関わりについて言及しておきます。 現在の主流なアドバイスの多くは、「ゲームやSNSも必要な避難先である」「昼夜逆転は一時的に仕方ない」と説きます。 確かに、そうした経験を経て回復し、プロゲーマーや配信者として成功を収めた例もあるでしょう。

ただし、この点に関しては「あまりにリスクが大きく、負ける確率が高い賭けである」と言わざるを得ません。 なぜなら、不登校を支援する教育関係者の何百倍もの人員と予算を投入し、最新の心理学まで取り入れて「いかに没頭(没入)させるか」を日々追求しているのが、いわゆる「ビックテック」と呼ばれる巨大企業だからです。 個人の意志や家庭の工夫だけでこれに対抗するのは、あまりに分が悪い戦いです。

しかし、絶望する必要はありません。テクノロジーには「善性」の側面も飛躍的に進化しています。 適切に調べ、選び、活用することができれば、不登校の期間は学校では決して学べないことを習得するための、非常に貴重な時間に変わり得るのです。

その見極めの”コツ”については、具体のパターンとしてお伝えしていきます。

というわけで本書では、前編で紹介した疲田さんや沼中さんとはまた異なる課題に直面している、二人のママのストーリーを軸に進めていきます。

とあるママたちのストーリー

本書ではここから、具体的な「ココロの実践」を学んでいくにあたり、前編の続きとして4人のママうち2名に登場してもらいます(彼女たちは、ボクが勉強会で出会った多くの方々をモデルにしています)

一人は、中学三年生の息子との間に「埋まらない溝」を抱え、平穏という名の沼の底で立ち往生している沼中さん。 もう一人は、娘の個性を応援したい自分と、「ふつう」という強力な物差しの間で引き裂かれている重井さんです。

3.沼中さん:張り詰めた糸の上で

フルリモートで働く沼中さんの自宅は、今や「音」に対して極めて敏感な場所になっています。中学一年生の娘が自室から出てこなくなって以来、家の中の空気はピンと張り詰めた糸のようです。沼中さんは仕事中、娘を刺激しないよう、忍び足で廊下を歩き、ドアを閉める音一つにも神経を使います。

いつしか沼中さんは、オンライン上の「親の会」に入り浸るようになりました。テキストを通して「辛いですよね」「うちも同じです」と慰め合う時間は、唯一の心の支えです。しかしスマホを閉じれば、そこには娘と、そして「甘やかすからだ」と突き放す夫との、冷え切った関係が待っています。コミュニティでの共感を糧に、家庭内の「空気」を維持する緩衝材を演じ続ける毎日。現実は三ヶ月前と何も変わっていません。誰の感情も動かしてはならないという緊張感と、変化のない慰めのループの中で、慢性的な疲労に覆われています。

4.重井さん:物差しの重圧

フリーランスとして働く重井さんは、不登校になった小学三年生の娘の「個性を伸ばそう」と、当初は意気込んでいました。しかし、周囲の子たちが習い事で成果を上げている様子を耳にするたび、自分の中に潜む「ふつう」という強力な物差しが、娘を激しく批判し始めます。

娘がタブレットで動画制作に没頭している姿を見て、口では「すごいね」と言いながらも、頭の片隅では算数のドリルの進捗や、社会から脱落していく恐怖を計算しています。娘の興味を応援したい自分と、「標準に戻さなければ」と焦る自分が、重井さんの中で常に綱引きをしています。娘は、重井さんの視線に宿る「微かな期待と焦り」を敏感に読み取っています。よかれと思ってかける言葉が、かえって子どもの意欲を削ぎ、心を閉ざさせていく。重井さんは、自分の価値観が娘の意欲を奪っているというジレンマに直面し、自問自答を繰り返しています。

スガヤ:彼女たちが、単なる「放置」ではない積極的な関わりを通して、どのように親子関係を再定義し、社会との新しい繋がりを見出していくのか。

ステップ3(攻め × 他者・環境): 親子関係の再構築と、学校以外の新たな居場所の模索。

ステップ4(攻め × 自分): 不登校を経た「新しい日常」の中で、親子それぞれの人生を取り戻す。

この2つのステップに沿って、残りの30パターンを提示していきます。 守りを固めた今のあなたなら、子どもを無理に動かす「力」ではなく、子どもが自ら動き出したくなる「誘い」の技術を、きっと軽やかに使いこなせるはずです。

それでは、Vol.2「再構築の広場」の扉を開きましょう。

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