学び舎トーカ:「君はどうしたい?」その問いから始まる、自律と探究の旅

取材先データ:学び舎トーカ

運営
株式会社学び舎トーカ
設立
2020年(活動開始)
エリア
東京都世田谷区
特徴
探究学習、地域連携、野外活動、保護者支援
URL
公式サイトへ

「学校に行かない」という選択をした子どもたち。社会からは「不登校」というラベルを貼られがちな彼らが、ここでは瞳を輝かせ、自ら学び、地域と繋がり、世界へ飛び出そうとしている。

世田谷区にあるフリースクール『学び舎トーカ』。
元小学校教員と元学習塾講師という、教育の最前線を知る二人が立ち上げたこの場所は、単なる「学校の代わり」ではない。子どもたちが本来持っている「ワクワクセンサー」を取り戻し、人生の主人公として生きるための実践の場だ。

代表のサマー氏とさっちゃん氏に、そのユニークな教育哲学と、大人が徹底して「黒子」に徹する支援の流儀について話を伺った。

1. 先生が幸せでなければ、子供も幸せになれない

「小学校の先生を10年以上やってきましたが、ずっと違和感がありました。『君はどうしたいの?』という問いが、あまりにも少ないんです」

そう語るのは、共同代表のさっちゃん氏だ。
学校というシステムの中では、先生の指示に従い、一斉に行動することが良しとされる。その中で、子どもたちは次第に自分の意見を言わなくなり、「親が言うから」「先生が言うから」と、他人の判断軸で生きるようになっていく。

「いざ進路や夢を聞いた時に、『わからない』と答える子がすごく多いんです。優秀と言われる子ほど、自分の『好き』や『やりたい』が見えなくなっている。北欧の視察で『君はどうしたい?』と常に問われる子どもたちを見た時、その差に愕然としました」

また、さっちゃん氏は教員時代の経験から「大人のあり方」にも課題を感じていた。
「先生自身が疲弊していては、子供たちが輝けるはずがありません。大人が自分の『好き』を追求し、楽しく働いている姿を見せること。それが結果として、子供たちの『私もこう生きていいんだ』という安心感に繋がると確信し、トーカを立ち上げました」

2. 遊びは「本気の探究」の入り口

トーカの活動の中心にあるのは「遊び」だ。しかし、それは単なる暇つぶしではない。子どもたちの内発的な動機に基づいた活動すべてを、ここでは「学び」と捉えている。

大人は「テーマ」を決めない

象徴的なエピソードがある。ある時、やりたいことが見つからない小学生たちが、「走るのが好き」という理由だけで公園で走り始めた。
ここで大人が「じゃあ運動会に向けて練習しよう」と言えば、それは「教育」になってしまう。トーカのスタッフ(クルー)はそうしなかった。ただ、「タイムを計ってみようか」とさりげなく提案したのだ。

すると、子どもたちの目の色が変わった。「もっと速くなるにはどうしたらいい?」「筋トレが必要だ」「走り方のフォームを研究しよう」。
ただの「かけっこ」が、いつしか解剖学やトレーニング理論を学ぶ「探究学習」へと進化したのだ。

子供からの手痛い「ダメ出し」

もちろん、最初からうまくいくわけではない。大人が良かれと思って先回りし、「じゃあ次はフォームの研究をしようか」とテーマを与えようとしたこともあった。

「その瞬間、子供たちに言われたんです。『え、それじゃつまんない』って」(さっちゃん氏)

自分たちの内側から湧き出た興味だからこそ面白いのであって、大人にお膳立てされたレールに乗せられた瞬間、それは「遊び」ではなく「課題」になってしまう。子供たちの直感は鋭い。

見えない「裏方」のファインプレー

だからこそ、クルーたちは徹底的に「裏方」に徹する。
「私たちは『裏側』で必死に作戦会議をしています。『あの子は今これに興味があるから、次はこんな道具を置いてみようか』『この本をさりげなく置いておいたらどうだろう』と。あくまで主導権は子供に持たせつつ、学びへ発展する環境をどう整えるか。そこが大人の腕の見せ所なんです」

子供たちが自由に遊んでいるように見えるその裏には、彼らの興味を拾い上げ、学びへと接続しようとする大人たちの、緻密で愛情深い「仕掛け」があるのだ。

3. なぜオンラインではなく「リアル」なのか

トーカのもう一つの特徴は、「地域とのつながり」を徹底的に重視している点だ。
オンラインで世界中と繋がれる時代に、なぜあえて地元の商店街や、リアルな「人」との関わりにこだわるのか。サマー氏はこう語る。

「不登校の子に必要なのは、『自分を知ってくれている人が街にいる』という安心感なんです」

ネット上の「いいね」も嬉しいが、それはあくまでバーチャルな承認だ。一方、街を歩いていて「あ、〇〇くん! この間のイベント楽しかったね」と八百屋のおじさんに声をかけられる。それは「自分がこの社会に存在していいんだ」という、身体的な実感(肯定感)に直結する。

はるばる鹿児島へ! リアルを求めた大遠征

そのリアルの追求は、時に教室や地域すらも飛び越える。
ある中学生の「まだ人類が見ていない、日本のローカルな素晴らしい風景を届けたい」という一言から、なんと鹿児島県さつま町への遠征プロジェクトが立ち上がったのだ。

ネットで画像を検索して終わり、ではない。自分たちでアポを取り、旅程を組み、実際に現地へ足を運ぶ。そこで嗅ぐ空気の匂い、地元の人との予期せぬ出会い、そして自分の足で歩いた距離感。

「行きたい場所」だから、自分を変えられた

この旅を通じて、ある中学生に劇的な変化が起きた。
「実は彼、それまでは遅刻をしてしまうことも多かったんです。でも、旅の計画が進むにつれて、ピタリと遅刻しなくなりました」(サマー氏)

誰かに怒られたからではない。自分たちで計画し、仲間と協力して成し遂げるという「本気の遊び」の中で、彼は「遅れたくない」「もっと長くここにいたい」と自ら感じるようになったのだ。
「自分で決めたことなら、子供は変わります。帰ってきた彼らの顔つきは、行く前とは別人のように自信に満ちていました」(さっちゃん氏)

4. 不登校は「ワクワク充電」の期間。そして新たなスタートラインへ

インタビューの終盤、二人に「不登校」についての考えを聞いてみた。

「今の不登校は、いじめ等の深刻なケースだけでなく、『学校のシステムが合わない』『一斉授業よりも自分のペースで学びたい』という、ある種ポジティブな選択(ライトな不登校)が増えています」(サマー氏)

学校に行けなくなるのは、決してその子が弱いからではない。自分のやりたいことに対する「ワクワクセンサー」が、学校という枠組みの中で一時的にオフになってしまっただけなのだ。
だからこそ、トーカでは無理に学校に戻すことよりも、まずはそのセンサーを回復させることを優先する。

「『ワクワクセンサー』を持っていない子はいません。どんなに塞ぎ込んでいても、自信を取り戻し、大人が自分の人生を楽しんでいる姿を見れば、必ずセンサーは復活します。ここでは、不登校は停滞ではなく、エネルギーを蓄え、次の自分らしい人生へ走り出すための『充電期間』であり、新しいスタートラインなんです」(さっちゃん氏)

5. これからの「学び舎トーカ」

最後に、お二人の今後の野望を伺った。
さっちゃん氏は「子供たちと一緒に、全国、そして世界を視野に活動していきたい」と目を輝かせる。

一方、サマー氏は足元の地域を固めつつ、さらなる展開を見据えている。
「『うちの近くでもやってほしい』という声をたくさん頂いています。通える場所を増やしたい、という思いはありますね。また、私たちのやっている探究学習の知見を、保護者や学校の先生方にも広めていきたいんです。大人が変われば、子供を取り巻く環境も変わりますから」

現在、そのための新しい研修プログラムも準備中だという。トーカの「ワクワク」は、子供たちだけでなく、大人たち、そして地域全体へ伝播しようとしている。

【News】探究学習プログラムのお知らせ

(※サマー氏による「探究学習研修・資格プログラム」の詳細情報が入り次第、ここに追記されます)


当サイト基準軸からみる「学び舎トーカ」

1. 学校復帰について

どっちでもいい。
戻りたければ戻ればいいし、戻らなくてもいい。既存の学校に戻ることだけがゴールではないというスタンス。

2. 嫌なことへの対応

あきらめない。
基本的には無理強いしないが、人間関係のトラブルなど、今後の人生に必要なことに関しては「諦めてほしくない」という思いから、解決に向けて働きかける。

3. 学習への介入

本人次第。
「やらなくていい」。本人がやりたいと言えば手伝うが、大人から「勉強しよう」と働きかけることは基本的にない。

4. 孤独への対応

ほっとく。
「一人でいたい」ならそのままでいい。無理に集団に入れたりはしないが、楽しそうな雰囲気が伝わり、自然と混ざってくるのを待つ。

5. デジタル vs リアル

リアル重視。
オンラインも活用するが、五感を使った体験や、地域の人との偶発的な出会い(リアルな認知)を何より大切にしている。

6. スタッフの役割

「ワクワク」の伝道師。
指示する人ではなく、自らが人生を楽しんでいる「面白い大人」。そして、黒子として環境を整えるプロフェッショナル。

(代表のおすすめ書籍)

『冒険の書』(孫泰蔵 著)
※「学校はなんのためにあるのか?」を根本から問い直す一冊。「アンラーニング(学習棄却)」をテーマにしており、「学校に行かないこと」に罪悪感を抱いている保護者にこそ読んでほしい。既存の枠組みから自由になり、子供と共に「冒険」に出る勇気をくれるバイブルだ。(スガヤ)

【編集後記】

「ワクワクしない子などいない」。さっちゃん先生のこの言葉に、ガツンとやられました。
同時に反省したのは、いかに彼らの持つワクワクの種火を、私たち大人のヘタな働きかけ(先回りや課題化)で”消火”してしまっているかもしれない、ということです。

そもそも、私たち大人は今、ワクワクできているでしょうか?
疲れた顔で正解ばかりを求める大人を見て、子供たちが未来に希望を持てるはずがありません。

もしかすると、もはや子供たちからワクワクを分けてもらう時代になりつつあるのかもしれません。
トーカの中で子供たちが火をつけ、その熱が大人へ、家庭へ、そして地域へと広がり、社会を変えていく。そんな逆転現象に、大いに期待したくなりました。

「冒険の書」をバイブルに掲げる二人の冒険は、まだ始まったばかり。世田谷から世界へ、そのワクワクの波紋は広がり続けています。

no-mark.jp 編集長:スガヤ タツオ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次