取材日:2025.12.19
語り手:TCS理事長 堀江 由香里 氏
取材先データ:東京コミュニティスクール (TCS)
- 運営
- NPO法人東京コミュニティスクール
- 設立
- 2004年(20年以上の実績)
- 特徴
- 探究学習、マイクロスクール、全日制
- キーワード
- 半歩先を行く、一次情報、学びを選ぶ
- URL
- 公式サイトへ
エネルギーを持て余している子にとって、ここは「最高のステージ」になる
創立20年以上を誇る、探究学習のパイオニア「東京コミュニティスクール(TCS)」。
ここは単なる学校の代わり(避難場所)ではありません。既存の学校では飽き足らない子供たちが、自らの好奇心を爆発させるための「攻めの学び場」です。
理事長を務めるのは、人材・就労支援の現場を経て、教育の世界へ飛び込んだ堀江由香里氏。
彼女は単なる「子供想いの情熱家」ではありません。「子供に任せてただ待つ」のではなく、確固たる方法論(ロジック)に基づき、適切な介入を行うプロフェッショナルです。
「大人のOSは変えられない。だからこそ、子供たちの未来に確かな選択肢を」
その冷静かつ熱い視点から、本当に合う学び場の見つけ方を紐解きます。
不登校や学校外の学び場というと、どうしても「休息」「癒やし」というイメージが先行しがちです。しかし、TCSのスタンスは明確に異なります。
堀江理事長は、TCSに通う子供たちを「もっと知りたい、学びたいというエネルギーを持て余している子」と定義します。
「既存の学校システムという枠には収まりきらないほどの好奇心や、自分の意見を言いたくてたまらない衝動」。そんなエネルギーを持つ子供たちにとって、TCSの『探究学習』は最高の起爆剤となります。
ここでは常に「あなたはどう思う?」と問われ、答えのない課題に対し、チームで議論し、最適解を導き出すことが求められます。この知的興奮こそが、子供たちの瞳を輝かせるのです。
なぜTCSの卒業生は「自分で人生を決められる」のか?
TCSの卒業生たちに共通する特徴、それは「自分の人生の舵を自分で取っている(Self-Determination)」ことです。
堀江氏はなぜ、この「自分で決める力」を何よりも重視するのでしょうか。その答えは、彼女自身のこれまでのキャリアの中にあるのかもしれません。
人材ベンチャー、病児保育、そして女性の就労支援。様々な現場で「大人のキャリア」に向き合ってきた彼女が直面したのは、「社会には選択肢があるのに、それを『選べない』大人たちの姿」でした。
「制度や法律が整い、選択肢が増えたとしても、それを選ぶためのマインドセット(OS)が整っていなければ、人は自由になれない」
だからこそ、OSが形成される初等教育の段階で、徹底して「自分で考え、自分で決める」経験が必要なのです。
- 正解のない問い:
「先生が教える正解」を覚えるのではなく、自ら仮説を立てる訓練を繰り返す。 - 「半歩先」を行く大人の背中:
スタッフは「教える人(ティーチャー)」でも、後ろから支えるだけ(サポーター)でもなく、「半歩先を歩き、背中で誘うガイド」として伴走する。 - メタ認知(振り返り):
活動して終わりではなく、「なぜそう考えたのか?」「次はどうするか?」を言語化し続ける。
この6年間の積み重ねがあるからこそ、彼らは偏差値や世間体といった「他人の物差し」ではなく、「自分の価値観」で自らが進む道を選び取ることができるのです。
個では届かない声を、ネットワークで繋ぐ
TCSは、「東京都フリースクール等ネットワーク(TFN)」の役員をはじめ運営委員として、フリースクール間の連携強化にも尽力しています。
なぜ、1つのスクールを拡大するのではなく「ネットワーク」なのか。そこには、個々のスクールだけでは解決できない、保護者が直面する「構造的な壁」を突破しようとする狙いがあります。
1. 「多様な学び」の社会的認知
多くの保護者は「学校に行けない=人生の終わり」と思い詰め、民間スクールという選択肢があること自体に気づいていません。ネットワークとして発信することで、個々の声では届かない層へ「学びの選択肢」を届けようとしています。
2. 情報の「質」と「信頼」の担保
ネット上の情報は玉石混交です。TFNでは加盟スクール同士が連携・研鑽し合うことで、孤立しがちな民間スクール間の交流を促し、保護者が安心して選べる土壌を作っています。
3. 子供を中心にした「マッチング」
TCSが素晴らしいスクールだとしても、全ての子に合うわけではありません。「静かに過ごしたい子」もいれば、「自然の中で走りたい子」もいます。
だからこそ、TCSが全てを抱え込むのではなく、TFNというネットワークを通じて「うちでは合わないけれど、あそこのスクールなら合うかもしれない」と、子供の特性に合わせてバトンを繋ぐ。
継続的かつ合理的、そして全体を俯瞰して案内できる「水先案内人(プラットフォーム)」の存在こそが、これからの教育には不可欠なのです。
【東京都フリースクール等ネットワーク(TFN)のサイト】
TFNが運営する、東京都内のフリースクールや多様な学び場の情報を集約したポータルサイトです。「どこに相談すればいいかわからない」「近所にどんなスクールがあるか知りたい」という方は、まずこちらをご覧ください。
当サイト基準軸からみる「TCS」
1. 学校復帰について
復帰を目的としない
今の社会背景を踏まえれば、あえて学校という枠組みに戻ることを目的化する必要はないと考えています。場所がどこであれ、社会で生きる力を育むことを最優先します。
2. 学習意欲への着火
大人が「仕掛け」て働きかける
ただ待つだけではありません。子供の興味関心を観察しつつ、大人がプロとして環境を整え、適切なタイミングで刺激を与えます。
3. デジタル vs リアル
「一次情報(リアル)」重視
ネットで調べた情報ではなく、実際に人に会い、物に触れ、現地で感じる「リアルな体験」を何より大切にしています。
4. スタッフの役割
「半歩先」を行くガイド
教える先生でも、後ろから支える黒子でもない。「こっちは面白いぞ」と自らが探究を楽しみ、子供たちを未知の世界へ誘う存在です。
5. カリキュラム
大人が責任を持って設計
子供の気まぐれなリクエストで変更することは基本ありません。プロとして「今、この子たちに必要な学びは何か」を考え抜き、練り上げられたカリキュラムを提供します。
6. 家庭との関わり
保護者との「パートナーシップ」を重視
保護者とは、子供の成長を支えるパートナーと考えています。
だからこそ、保護者自身がTCSの理念に共感し、「この学びを我が子に授けたい」とコミットできるか。保護者とTCSは、共に子供を育てる対等なパートナーであると考えます。
【編集部ピックアップ】 代表のおすすめ本
『学びを選ぶ時代』
(著者:東京都フリースクール等ネットワーク)
TCS創立者の久保氏も執筆に参加した一冊。TCSだけでなく、多様な「学びの場」の実践事例が網羅されています。「学校以外の選択肢なんてあるの?」と迷っている保護者にとって、我が子に合う環境を見つけるための羅針盤となる書籍です。
編集長スガヤの取材後記
「大人のOS」が変わらないのなら
私自身、ここ数年「大人のリスキリング(学び直し)」の事業に携わってきました。そこで痛感するのは、一度凝り固まってしまった大人のOS(思考習慣)をアップデートすることの困難さです。「正解を教えてほしい」「失敗したくない」というマインドセットは、そう簡単には変わりません。
だからこそ、まだOSが柔軟な子供のうちに、どんな経験をするかが致命的に重要になります。
探究は「フォーマット」ではなく「スタンス」
昨今、教育現場でも「探究学習」がブームですが、その多くは「SDGs」などの扱いやすいテーマを与え、用意されたワークシートを埋めていくような、いわば「調整された探究(フォーマット)」になりがちです。
しかし、TCSにあるのは「真水の探究」です。
代表が「探究はフォーマット(型)ではなく、スタンス(姿勢)である」と語るように、ここでは忖度も予定調和もありません。ややもすれば「元気すぎてレールをはみ出してしまう衝動」すらも、学びのエンジンとして許容する。AIが「もっともらしい答え」を瞬時に出すこれからの時代、人間に求められるのは「型通りの答え」ではなく、「正解のない道を面白がるOS(スタンス)」そのものです。
「終わりなき探究の旅」へ
代表はインタビュー中、不登校の子どもの受け入れに対して「心に傷を負い、エネルギーが枯渇してしまっている段階のお子さんにとっては、この環境は『刺激が強すぎる』可能性があります」と言っていました。
確かにさもありなん。ここですでに十二分に意欲も才能も爆発させている子どもたちは、刺激の強すぎる太陽なのかもしれません。
しかし、それで「合わない」と切り捨てるのは勿体なさすぎます。
TCSには、「東京都フリースクール等ネットワーク(TFN)」という強力なネットワークがあります。
もしTCSの環境が今は合わなくても、そこで終わりではありません。TFN(または頑張って追随する当サイト!)を通じて、お子さんの「今の状態」に合った、別の学び場へのバトンが必ず繋がります。
まずは「学びの選択肢」があることを知ってください。その一歩が、「選択可能性のなさ(閉塞感)」を打破し、お子さんの人生を「終わりなき探究の旅」へと変える始まりになるはずです。
no-mark.jp 編集長:スガヤ タツオ







