取材先データ:DE-SCHOOL(ディースクール)
取材日:2025.12.18 語り手:DE-SCHOOL 代表 藤井 準人 氏
- 運営
- DE-SCHOOL
- 特徴
- テクノロジー×ものづくり、個別最適化、イエナプランの要素を参照
- キーワード
- 「脱学校の社会」(イヴァン・イリイチ)、イエナプラン、構造的なミスマッチ
- URL
- 公式サイトへ
代表・藤井氏が目指すのは、単なるプログラミングスキルの習得ではありません。既存の学校制度に思考を委託するのではなく、自らの手で試行錯誤しながら学ぶ「主体性」を取り戻すこと。
かつて高校球児として理論と実践に向き合い、教育者の家系にルーツを持つ若き代表が、テクノロジーと哲学を掛け合わせて挑む、新しい学びの現場をレポートします。
「教えられ待ち」が変わる瞬間と、適切な「足場かけ」
藤井氏の教育観に影響を与えた一つの体験は、大学生時代に経験したインターンでの出来事でした。
STEM教育の大手である「LITALICOワンダー(リタリコワンダー)」で、1年間インターンをしていた藤井氏。そこで出会った子どもたちの中には、教えられることということに慣れているからか、最初は「何をすればいいですか?」と受け身の姿勢(教えられ待ち)をとる子も少なくありませんでした。
しかし、適切な「足場かけ」を行い、「脱線してもいいから、自分で好きなように作っていいんだよ」と声をかけると、子どもたちの目の色が明らかに変わりました。
自らの手で試行錯誤し、Scratchなどのプログラミングを通して何かを作り出していくプロセス。そこには、認知的な学力だけでは測れない、「主体的に作り出していく態度」の形成がありました。
「AIで様々なことができるようになった今だからこそ、それを進めていく『人間の意志』の価値が相対的に高まっています。消費する側ではなく『つくる』側へ回る体験こそが、これからの時代に不可欠なのです」
(DE-SCHOOL 代表)
この確信は、彼が「トビタテ!留学JAPAN 新・日本代表プログラム」を利用して世界中の教育現場を視察した経験に裏打ちされています。特にオランダで目の当たりにしたオルタナティブ教育「イエナプラン」などの知見は、現在のDE-SCHOOLが掲げる「つくることで学ぶ」というコンセプトへと昇華されています。
【保護者の方へ:「イエナプラン」とは?】
イエナプラン教育とは、ドイツで発祥しオランダで発展したオルタナティブ教育の一つです。学年別のクラスではなく異年齢のグループで生活し、以下の「4つの基本活動」をリズミカルに循環させることを大きな特徴としています。
- 対話(サークル): 車座になって顔を合わせ、互いの意見や感情を共有する時間。単なるおしゃべりではなく、他者を尊重し、共に考える姿勢を育みます。
- 遊び: 企画されたゲームだけでなく、自由な表現や運動も含みます。心身を解放し、創造性や社会性を養う重要な学習活動と捉えられています。
- 仕事(学習): いわゆる教科・科目の学習です。先生からの一斉授業ではなく、子ども自身が計画を立て、自律的に課題に取り組むスタイルが基本です。
- 催し(お祝い): 週の始めや終わり、季節の行事などを共に祝う時間。学びの成果を発表したり、共同体としての喜びを分かち合ったりすることで、帰属意識を高めます。
不登校は「構造的なミスマッチ」。次のステップへ
「不登校」という状態について、藤井氏は子ども個人の問題ではなく、あくまで「社会構造や制度が追いついていないことによるミスマッチ」であると捉えています。
「30人の子どもを一斉に一人の大人が見るという構造自体、個々の特性を考えればそもそも無理があります。そこで合わない子が出てくるのは、ある種当然のことなのです」
既存の学校というシステムのエラーに対し、子どもが自分を責める必要はありません。そのため、DE-SCHOOLでは学校復帰を「必須」とはしていません。
重要なのは、学校に行くか行かないかではなく、その子が未来に向けて肯定的な方向性に進んでいるかです。
ものづくりを通して「自分にもできる」「やってみたら違った」という成功体験を積み重ね、損なわれてしまった自己効力感(※自分の能力を信頼し、課題を遂行できるという確信を持つこと、またその感覚)を回復させる。それさえできれば、場所がどこであれ、子どもは自ずと次のステップを選び取れるようになります。
「見立て」と「実行」。サポーターが繋ぐ子どもたちの関係性
同校には、「2E(Twice Exceptional)」傾向のある子や、特定の分野に強い知識を持つ一方でコミュニケーションに苦手意識を持つ子も多く通います。一見、孤高を望んでいるように見える彼らですが、藤井氏はその心理を冷静に分析します。
「『繋がりたいけど、繋がれない』。それが基本だと考えています。本当にずっと一人でいたいと思っている子は、実はほとんどいません」
無理に集団行動を強いることはありませんが、完全に放置もしません。ここで重要になるのが、サポーターの「見立てる力」です。
「この言動の背景には何があるのか?」を推測(見立て)し、その子の認知的な負荷や状況を見極めた上で、「今なら繋がれる」「ここは少し背中を押すべきだ」というタイミングで適切に介入(実行)します。
共通の興味関心(アニメやゲーム、制作物)をきっかけに、サポーターが間に入って橋渡しをすることで、子どもたちは自然と他者への関心を取り戻し、緩やかな協働の輪の中へと入っていくことができるのです。
当サイト基準軸からみる「DE-SCHOOL」
発達支援の専門性:背景を読み解く「見立てる力」
サポーターに求められるのは、単なる指導力以上に「推測する力」です。子どもの言動の背景にある要因を洞察(見立て)し、個別の状況に合わせて適切なアプローチ(実行)を選択できる体制を整えています。
未来スキル・IT:圧倒的な「つくる」重視
テクノロジーが好きな子、Minecraftが好きな子が多く集まります。消費するだけでなく、自ら手を動かして試行錯誤する「制作プロセス」を重視しています。
キャリアの出口:「自己効力感」と「態度形成」
認知的な学力以上に、「主体的に何かを作っていく態度」が人生の価値になると考えています。制作を通じた成功体験が、AI時代を生き抜くための自己効力感へと繋がります。
カリキュラム:子ども主導のプロジェクト学習
大人が用意したメニューをこなすのではなく、子ども自身の興味関心からスタートします。サポーターはヒアリングを通して、その子の好きなこと(アニメやゲームなど)に関連した制作アプローチを提案します。
スタッフ(サポーター):共に歩む「サポーター」
一方的に教える「先生」ではなく、間に入って関係性を繋いだり、制作の伴走をする存在です。子どもたちと同じ目線で、共に作り、共に考える姿勢を大切にしています。
個別最適を理解できるご家庭へ
画一的なカリキュラムや、短期的な成果(学校復帰のみ)を求めるニーズとは異なる場合があります。「その子の可能性を広げるための個別最適」という方針に共感できるご家庭に最適です。
【編集部ピックアップ】代表のおすすめ本
『14歳からの哲学』(著者:池田晶子)
DE-SCHOOLで大切にしている「主体的に考えること」のベースに通じる一冊。
タイトルに「14歳」とありますが、大人こそ推奨で、「自分で考える」とはどういうことかということを根本までトコトン掘り下げる、思考の原点としておすすめの良書です(スガヤ)
【編集長スガヤの取材後記】
「熱血」の血統と、静かなる「分析家」
藤井代表の話を聞いて印象的だったのは、その語り口の冷静さと、教育に対するバックグラウンドの「熱さ」のギャップです(実は藤井氏の祖父は、あの大ヒットドラマ『スクール・ウォーズ』のモデルとなった熱血教師の”恩師”とのこと)
いわば「日本一熱い教育の血」を引いているとも言える藤井氏。しかし、彼がDE-SCHOOLで実践しているのは、精神論で子どもを引っ張る熱血指導ではありません。
今の教育課題を「構造上の無理」「システムエラー」として非常にロジカルに、エンジニアリング的に分解し、環境という変数を調整することで子どもの可能性を最大化しようとする、極めて冷静なアプローチです。
「持つ(Having)」教育から、「ある(Being)」教育へ
インタビューの終盤、おすすめの本を伺った際に藤井氏の口から真っ先に出たのは、エーリッヒ・フロムの『生きるということ(原題:To Have or to Be)』でした。
フロムはこの本の中で、知識や財産を所有し消費する「持つ様式(Having)」と、能動的に関わり生命力を発揮する「ある様式(Being)」を対比させました。
今の学校教育が、カリキュラムという商品を消費し、学歴や知識を「持つ」ことをゴールにしているとしたら、DE-SCHOOLが目指すのは、ものづくりを通して自らの意志を発揮し、世界と関わる「ある(Being)」ことの復権なのかもしれません。
制度や誰かの指示に委ねるのではなく、自分の人生のハンドルを自分で握る。
ここでの「つくる」体験、そして「つくる側に回る」ことは、不確実な未来を生きる子どもたちにとって、何よりの武器になるはずです。
no-mark.jp 編集長:スガヤ タツオ
