HILLOCK(ヒロック):軍隊ではなく「海賊団」を作れ。民主主義とICTで育む、新時代の“市民”たち

取材先データ:HILLOCK(ヒロック)


運営
HILLOCK(ヒロック)
特徴
自由進度学習、デジタル・シチズンシップ、シェルパ(伴走者)制度
キーワード
民主主義、ONE PIECE型チーム、AI活用
URL
公式サイトへ

「学校に戻る」ことを目指さないどころか、既存の学校システムを「軍事的」と定義し、それに対抗する「海賊的」な学びの場を作る。
世田谷・代々木・吉祥寺エリアで異彩を放つオルタナティブスクール「HILLOCK(ヒロック)」の教育観は、痛快なほどにロジカルで、そして情熱的です。

代表が語るのは、マンガ『ONE PIECE』のような世界観。
均質な駒を育てるのではなく、凸凹な個性が最高のチームを作る「民主主義(シチズンシップ)」の実験場。そこには、ただの居場所にとどまらない、次世代の幸福戦略がありました。


ヒロック氏
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目次

「軍隊」ではなく「海賊団」を作る

ヒロックの教育観を象徴するのが、代表が語る「軍隊と海賊(ONE PIECE)」の対比です。

「これまでの学校教育は、ある種『軍事的』でした。全員が同じ動きをする駒であれば、統率は取りやすい。しかし、それでは個々のウェルビーイングは損なわれますし、変化の激しい時代には脆い」 HILLOCK 代表

一方でヒロックが目指すのは、『ONE PIECE』のルフィ率いる海賊団。
「航海士がいて、コックがいて、医者がいる。それぞれ強みも弱みも違うメンバーが有機的に繋がることで、1人では不可能な航海が可能になる。個性を消すのではなく、『個性を出したほうが繋がりやすくなる』。そんな民主主義の土台を、失敗しながら体験する場所です」

沈みゆく「マジョリティ」からの脱出

代表の視点は、現在の不登校児を「弱者」とは見ていません。むしろ、崩壊しつつある旧来システムからいち早く抜け出した「先行者」として捉えている節があります。

「今までのマジョリティのルートに乗っていることが、実は一番危険でウェルビーイングが低いというエビデンスも出ています。5教科全てが平均点である必要はありません。4教科が赤点でも、1教科が人の10倍できれば重宝される時代です」

ヒロックが提供するのは、避難場所としての「慰め」ではなく、来たるべき時代を軽やかにサバイブするための「個という名の牙」を研ぐ時間なのです。

「ゲーミフィケーション」に安易に頼らない、実践者としての美学

多くのスクールが「子供が喜ぶから」という理由で、ゲーム要素をふんだんに取り入れた学習アプリ(ゲーミフィケーション)を安易に導入する中、ヒロックのスタンスは一線を画しています。

代表は、現在の市場に溢れるデジタル教材を「塩(中毒性のある調味料)」と喝破します。
「塩を使えば、どんな素材でも食いつきは良くなります。しかし、それでは『素材そのものの味(学ぶ喜び)』が分からなくなる。ビジネスのために塩漬けにされたツールを、教育の名の下に与え続けることはしたくない」

経験知を結集させた「シェルパAI」の開発

では、デジタルを否定しているのか? 答えは真逆です。
代表自身が誰よりもデジタルツールの可能性を信じ、試行錯誤を繰り返しているからこそ、「使うべき部分」と「使わないほうが良い部分」の境界線を冷徹に見極めています。

その試みの一つとして現在、開発と実証実験を進めているのが「シェルパAI(仮)」です。
「AIをチート(ズル)の道具にするのではなく、自分を成長させるための壁打ち相手にする」。安易なゲーム化に逃げず、ツールを自らの手なずける「使い手」としての姿勢を、大人が背中で見せている点こそ、他のスクールにはない決定的な「美学」と言えるでしょう。

先駆者だから気づいた「デジタルからこぼれ落ちるもの」

デジタルを極めようとする過程で、代表は逆説的に「デジタルでは絶対に回収できないもの」の存在に気づきます。それが「他者との摩擦」です。

「Zoomは嫌なら退出できるし、チャットなら顔色を窺わずに文句が言える。しかし、それでは『民主主義の土台』であるコミュニケーション能力は育ちません」

画面の中だけでは、喧嘩をした翌日の気まずさも、仲直りした時の体温も感じ取れません。
AIやメタバースがいかに進化しても、生身の人間同士が同じ空間にいることで生じる「負荷(面倒くささ)」こそが、人を育てるための不可欠な栄養素であること。

最先端のICT教育を標榜しながら、誰よりも「リアルな泥臭さ」の価値を説く。この「デジタルとアナログのハイブリッドな弁別能力」こそが、ヒロックが単なるテック系スクールとも、自然派スクールとも違う、唯一無二の立ち位置を築いている理由です。

当サイト基準軸からみる「HILLOCK」

自分に自信を持って選択できる状態。

社会に出る際、誰かの指示ではなく、自分の意志で進路を選び取れる「選択肢を持った状態」を卒業の定義としています。

環境による働きかけ(仕掛け)。

ただ待つのではなく、子供が興味を持ちやすい環境やコンテンツを散財的に配置し、主体性が生まれるのを戦略的にサポートします。

圧倒的に「リアル」優先。

AI活用には積極的ですが、コミュニケーション能力や民主主義の土台は「生身の人間同士の摩擦(喧嘩や仲直り)」でしか育たないと考えています。

主体性重視・個別最適化。

「好きこそものの上手なれ」。集団行動よりも、個々の興味関心を掘り下げることを優先します。

変化を楽しめる「コゥ・ラーナー」。

教える技術以上に、大人自身が学び続け、変わっていく姿を見せられる人材を採用・育成しています。

保護者の「教育観」の一致は必須。

「大人の権力で子供を従わせたい」「絶対に偏差値の高い学校へ」といった価値観を持つご家庭には、ミスマッチであるとはっきり伝えています。

【編集部ピックアップ】代表のおすすめ本

『学校に合わない子どもと親が元気になる本』
(著者:古山 明男)
「ビジネスライクなふわっとした『行かなくていいよ』ではなく、長年の実践と教育哲学に基づいた、地に足のついた一冊。迷える親子のための羅針盤です」(代表談)
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編集長スガヤの取材後記

“才能あるはぐれ者”を救うキャプテンとして

「避難場所」だと思って門を叩くと、良い意味で裏切られるかもしれません。
HILLOCKは、傷ついた羽を休める場所であると同時に、来るべき新時代(大海賊時代)を生き抜くための「武器」と「仲間」を見つけるための「海賊船」だからです。

特に印象的だったのは、デジタルの扱い方における「目利きの鋭さ」です。
「子供受けの良いゲーム教材(塩)」をあえて遠ざけ、自らの手で「教育的なAI」を実装しようとする姿勢。これらは、代表やシェルパたち自身が「能力の実」をすでに手に入れ、デジタルを使い倒している実力者だからこそできる「高等技術」なのだと痛感しました。

代表が抱く「社会を変えていく」という野望は、おそらく彼自身が政治的に何かをするというよりも、この船から巣立った「若き海賊たち」が、数年後の社会で次々と革命(イノベーション)を起こす――そんな形で実現されていくのでしょう。その未来が今から楽しみでなりません。

▼ このスクールが合うご家庭
親御さん自身が、これまでの「偏差値」や「学歴」という物差しを捨て、お子さんの「冒険」を見守る覚悟を持てるかどうか。
もしあなたが「わが子には、自分の人生の舵を自分で取ってほしい」と願うなら、ここは最高の出航の地になるでしょう。

no-mark.jp 編集長:スガヤ タツオ

☠️ 【追記】ヒロックが「ワンピース」である本当の理由

※注釈
以下は、代表へのインタビューを通じて思わず感極まった編集長スガヤが、勝手な妄想と熱量で書きなぐった考察であり、代表の公式発言ではありません。
また、『ONE PIECE』未読の方はネタバレを含む可能性があるためスルーするか、全巻読破してから戻ってきてください。

インタビュー中、代表に「ヒロックのどこがワンピース的なのか?」と尋ねた際、返ってきた答えは「仲間入りのシーン」でした。
これを紐解くと、ヒロックが子供たちに提供しているものの正体が、驚くほど鮮明に浮かび上がります。

1. 「勧誘」ではなく「呪縛からの解放」

ルフィが仲間に手を差し伸べるのは、相手が最も絶望している時です。
ナミがアーロンの支配に泣き、ロビンが生きることを諦めようとした時、ルフィは敵を倒すだけでなく、彼女たちの心を縛る「呪縛」を破壊しました。

ヒロックの門を叩く子供たちも同じです。「学校に行けない自分はダメだ」という巨大な「世間の常識(呪い)」に縛られています。
だからこそ、ここは単なる転校先ではなく、心の自由を取り戻し「生きたい!(学びたい)」と叫ぶための、人生の「再出発(リボーン)」の場なのです。

2. 「俺は助けてもらわねェと生きていけねェ」

ルフィは「剣術も使えねェ」と公言し、だからこそ仲間が必要だと叫びます。
ヒロックのスタンスも同様です。「全て平均点である必要はない。凸凹でいい」。
これは慰めではなく、「自分にできないことができる奴」を探しているのです。互いの欠落を埋め合い、パズルがガッチリとハマった時、クラスは「教室」ではなく「最強の海賊団」へと変わります。

3. 「船長」の夢と、「お前」の夢

麦わらの一味は、ルフィの家来ではありません。ゾロには「世界一の大剣豪」、サンジには「オールブルー」という、船長の夢に匹敵する「個人の野望」があります。
ヒロックもまた、子供たちを「生徒」として扱いません。

「海賊王になる男の船員なら、それくらいなってもらわなきゃ困る」
そんな気概で、子供たち一人ひとりが抱く「自分だけの巨大な夢」を、この船に乗せているのです。


……そう考えると、代表はルフィというよりは、「赤髪のシャンクス」に近いのかもしれません。

傷ついた子供たちを守り抜き、その瞳の奥にある可能性を信じて、「新しい時代に懸けてきた」と笑う男。
そして、麦わら帽子(勇気と自己肯定感)を子供たちに託し、「いつか立派な海賊になって返しに来い」と背中を押す存在。

ここは、未来の海賊王たちが、最初の産声を上げる「風車村」なのです。

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