連載:不登校の「心」を理解する ―SEL(社会性と情動の学習)入門

「不登校」に関する無責任な”反応(意見でも、まして有用な提案でもない感覚的なもの)”で典型的なのが、「学習が遅れる(ついていけなくなる)」と「社会で通用しない」です。こと前者について、当サイトでは「スクールフリー(むしろ学校”のみ”に準拠しない学習スタイル)」を提唱していますが、では後者についてはどうなのでしょう?

改めて「SEL(社会性と情動の学習)」について専門的に学ぶ、スミレ氏の最新論文を参照しながら、同じく「おうち」や外部(学校以外)で支援できることはないか?をやさしく紐解いていきたいと思います。

スミレ

教育学部卒。卒業論文『社会性と情動の学習 (SEL)の理論と実践を応用した学級の中での関係づくり』を執筆 。現在は大学院にて、子どもたちが自ら居場所を構築するためのSEL理論を研究&実践中

スガヤ

当サイトの編集長。自身の経験や全国「不登校」に関する個別相談(小中高生および保護者)を踏まえつつ、今回は理論と実践の”架け橋”を探るべく、スミレ氏の専門値を「おうち&外部支援での関わり」に翻訳する役割を担う

目次

【第1回】Why:なぜ今、「居場所」ではなく「関係性」なのか? 〜物理的な「部屋」があっても、心が休まらない理由〜

第1回は概念の導入として、論文の核心である「居場所の定義」および「なぜ居場所が必要なのか?」を深掘りします(スガヤ)

「居場所」探しのその先へ

スガヤ: スミレさん、本日はよろしくお願いします。NO-MARKではこれまで、不登校の子どもたちのためにフリースクールなどの「居場所」を一生懸命紹介してきました。でも、スミレさんの論文を拝読して、ふと気付いたんです。僕らは「場所(箱)」ばかりを見ていて、肝心の「中身」……つまり、そこで育まれるべき「関係」への視点が足りなかったのではないかと。

スミレ: 本日はありがとうございます。そう言っていただけると、勇気を持って研究した甲斐があります 。確かに「居場所」というと、建物の設備やアクセスの良さなど、物理的な空間をイメージしがちですよね。ですが、私の論文ではまず「居場所」という言葉そのものを定義し直すことから始めました 。

スガヤ: 具体的には、どう定義されたのでしょうか?

スミレ: 論文では、居場所を「子どもが身体的・心理的に安心して身を置くことができる場所、および『関係』」と定義しました 。 重要なのは「関係」が含まれている点です。物理的な場所が用意されていても、そこに安心できる他者がいなければ、それは本当の居場所とは言えません 。逆に、特定の建物がなくても、信頼できる関係性があれば、そこが子どもにとっての「安らかにいられる場所」になり得るのです 。

「学校」という場所の限界と可能性

スガヤ: 物理的でなく、本質的に「関係」こそが居場所になる……。これは重い言葉ですね。確かに、自分の部屋にいても、親がドア越しに「明日は学校行くの?」とプレッシャーをかけていたら、そこはもう安心できる居場所ではなくなります。

スミレ: その通りです。先行研究でも、学校内に居場所を多く持っている生徒ほど学校適応感が高くなる一方で、適応が難しい生徒は「学校に居場所がない」と感じる傾向が強いことが示されています 。中には学校を「強制収容所」のように感じ、抵抗も逃亡もできない空間だと受け取る子どももいます 。

スガヤ: 強制収容所……。そこまで追い詰められている子に「学校に戻れ」と言うのは、確かに残酷です。では、ボクたち大人は、何から始めればいいのでしょうか。

スミレ: まずは「学校に戻すこと」を一度脇に置き、その子が安心して呼吸できるための「関係づくり」に注力すべきだと考えます 。そこで鍵となるのが、今回のテーマである「SEL(社会性と情動の学習)」です 。

スガヤ: SEL。最近よく聞く言葉ですが、具体的にはどういうものなのでしょうか。改めて整理してみます。

【SELとは?】
定義:自己の捉え方と他者との関わり方を基礎とした、社会性に関するスキルや態度を身につける学習のこと 。

特徴:特定の授業だけで行うのではなく、日常のあらゆる活動や学習に統合して実施されることが重視されます 。

目的:知識や知性だけでなく、他者への思いやり(caring)、責任感(responsibility)、そして心身の健康(health)を兼ね備えた市民を育てること 。

こと「不登校」においては、勉強を教える前に(なにより外野がアレコレ不安を煽り立てること言う前に!)、この「心の土台」を冷静に、どう修復&再構築していくか?が重要になります。


「安全な基地」がないと、挑戦は始まらない

スガヤ: SELは、いわば「心の基盤(インフラ)」のようなものですね。でも、不登校で傷ついている子に、いきなり「対人スキルを磨こう」なんて言っても、ハードルが高くないですか?

スミレ: もちろんです。SELの実践には、非常に重要な前提条件があります。それが「安全な基地(Secure Base)」という概念です 。

スガヤ: 安全な基地。書籍では他にも「ホーム」や「オアシス」、「ベース」などとも言われますね。

スミレ: これは、大人が子どものニーズに確実に応えることで生まれる感覚です 。子どもは、何かあった時に逃げ込める「安全な避難所」があり、そこを拠点として外の世界を探究できる「安全な基地」があると感じて初めて、新しいことに挑戦したり、リスクを冒したりできるようになります 。

スガヤ: なるほど。基地が壊れている状態では、「チャレンジ(登校の試行)」もできないわけですね。親としては、つい「将来のために頑張れ」とはっぱをかけてしまいますが……それは「基地」の安全性を損なう行為だったのかもしれません(反省)。

スミレ: そうとも言えるかもしれません。論文で紹介した実践例でも、子どもが「分からない」「できない」と素直に出せる雰囲気や、失敗しても否定されない環境が、居場所づくりの根幹であると指摘されています 。まずは、ご家庭や関わる大人が、お子さんにとっての「安全な基地」としての関係を再構築すること。それがSEL、ひいては自立への第一歩になるのだと思います。

続き:【第2回】What:目指すべきは「親友」ではなく「シェアする仲間」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次