- このページは、過去にご好評いただいた「不登校からフリースクールへ」を、当サイト主催の勉強会参加者様の貴重な実体験コメントに基づき大幅に更新した【新版】となります。従来の学術的な知見に加え、当事者性の高い具体的なサインと初期対応の原則を凝縮しました。以前の記事をご覧になった方も、改めてこちら新版をご参照ください。
前の章で、不登校からの回復が「心の螺旋階段」を上るプロセスであり、お子様の心が「混乱」から「受容」へと進む段階にあることを理解しました。
この「受容」の姿勢が見え始めたとき、保護者に求められる支援体制は、単に「待つ」ことだけではなくなります。回復を確実なものとし、将来の不安(特に学習の遅れと進路)を解消するための、具体的な行動戦略が必要です。
この章では、フリースクールやICT学習といった学校外の多様な居場所の活用方法から、通信制高校や総合型選抜といった進路を諦めないための戦略まで、保護者が不登校状態の今日から、「実行」に移せる具体的なプランを解説します。
特に子どもの「主体性」を尊重しつつ、どのように支援の選択肢を提示し、不登校経験を「新たな学び」へと変えていくか、そのロードマップを見ていきましょう。
1. 居場所の確保:フリースクールと出席認定の活用
回復期の初期に重要なのは、①学校へのプレッシャーがなく、②社会との繋がりを再構築できるような「第二(複数)の居場所」を見つけることです。実際に通わなくてもよいです(近くに施設が無かったり、費用の問題など現実的なハードルは高いことがあります)。ただ「学校への再登校だけが唯一の選択肢”ではない”」と提示すること自体が、まずはとても大切です。
勉強会参加の保護者も「”学校ではない学校”があると知っただけで、親子とも気が楽になった」「”訪問する”など具体的な行動が選択肢に入ってきたあたりから、不登校に”終わり”が見え始めた」と振り返る方が多いです。
その選択肢として、まずオススメしたいのが、「フリースクール」です。
「フリースクール」の役割と機能
フリースクールは、学校教育法上の学校ではありませんが、不登校の子どもたちに「安心できる居場所」と「学びの機会」などを提供する、多様にして多機能な施設です(菊池ほの香ほか, 2024)。
- シェルター機能: 学校や家庭のストレスから解放され、「強制されない安心感」の中で自己肯定感を回復させます。
- 学習サポート: 少人数制や個別指導により、子どものペースに合わせた学習支援を行います。近年は、学習に力を入れる「学習サポート志向」の施設も増えています。
- 出席認定制度: 文部科学省が定める一定の要件を満たし、在籍校の校長が判断すれば、フリースクールでの活動が在籍校での「出席扱い」や成績評価の対象になり得ます(宮口誠矢, 2020)。これは、進路を考える上で大きな意味を持ちます。
なかには「学校と違う」という点を強調すべく、「フリー”スペース”」と称する施設もあります。検索サイトなどで探してみる際は、念の為複数のキーワードで検索してみることをオススメします
・不登校 居場所 地域名
・フリースペース 不登校 〇〇市
・不登校 支援 カフェ など
オンライン支援と専門家連携
外出、またオフラインでの対面に強い抵抗がある子には、オンラインフリースクールや、オンラインでの学習コーチングという選択肢もあります(櫻井裕子, 2022)。自宅から社会との接点を持つことができ、特に対人不安や発達特性を持つ子どもにとって、無理のない「つながり」を築く有効な手段となります。
2. 学習の遅れへの戦略:ICT活用と個別最適化
「居場所」を確保することでまず安心できたところで、次に学習面でのフォローを探ります。不登校の生徒が最も抱える不安の一つが、「学習の遅れ」です(中学生の74%が不安と回答)。仮に再登校となっても、結局この弱点が克服できなければ逆戻りというケースもあります。
一方で「自分にあった学び方」さえ探し出せれば、むしろ「今までより成績が上がった」という体験談もありました。不登校という期間を利用して、子どもに合った学習方法を様々試してみましょう。(ちなみにその子は、「45分間じっと座っている」ことが苦手で、「25分ごと」に区切り直すことで集中力が回復できたそうです)
ただし、くれぐれも「焦らず」で。「本人に学ぶ意欲があり、健康なら、だいたい1年くらいで取り戻せるもの」とする専門家もいます(石井しこう、2025)。大事なのはまず健康、つぎに学ぶ意欲ですから、ここで親の焦りを無理やり反映させようとせず、あくまで子が”望んだタイミングから”検討していきましょう。
ICT学習の「出席扱い」制度
文部科学省は、自宅での「ICT(Information and Communication Technologyで”情報通信技術”)」を活用した学習活動を、学校との連携を前提に「出席扱い」と認める制度を設けています。この制度を利用するには、保護者と学校の綿密な連携や、訪問等による対面指導といった要件を満たす必要があります。
- 推奨教材の活用: 無学年方式で出席扱い実績が多数ある「すらら」や、映像授業が豊富な「スタディサプリ」などは、不登校の生徒と相性が良いとされます。このほかにも様々なICT教材やサービスが提供されている昨今ですから、積極的に情報を収集し、検討してみましょう。
ただし昨今では”デジタルのみ”で学ぶ効果に、懐疑的な意見も聞かれるようになりました。またこと「Youtube」などは多様な学びのコンテンツが提供されている一方、”エンタメ”とも隣接していて誘惑も多く、あくまで「デジタルも一つの方法」として検討していきましょう。
個別指導と学習コーチングの重要性
不登校の生徒にとって、「一斉授業」への復帰は大きな壁となります(そもそも集団学習とは”効率的”な手段ではありますが、必ずしも”効果的”ではないのです)。ここで「個別性」を活かした学び方を紹介します。
- 個別指導のメリット: 家庭教師や個別指導塾は、子どもの理解度やペースに合わせてさかのぼり学習から柔軟に対応できます(今井さやかほか, 2020)。これは、生徒一人ひとりの「分からない」に寄り添い、失った学習への自信を取り戻す上で非常に有効です。
- 学習管理/コーチング: 自宅学習を継続し、モチベーションを維持するためには、専門の支援コーチによる学習管理が重要です。コーチは志望校から逆算した計画を管理し、精神的なサポートも担うため、保護者の負担を軽減できます。
このほかにも「少人数(2-3人単位)」や「コーチングのみ」などサービスもあります。子の特性に合わせて、体験学習に参加してみましょう。また学びの様式により料金も違ってきますから、持続可能性という観点でも検討が必要です。
3. 進路を諦めない:不登校経験を未来の強みに変える
不登校期間は、決して「空白」や「遅れ」ではありません。この時間を「自分を見つめ直し、新たな”強み”を獲得する」ための貴重なチャンスに変えることができます。
通信制高校を「自立への道」と捉える
不登校を経験した子どもにとって、通信制高校は有効な選択肢です。
- 最大のメリット: 通学が強制されず、自宅で学習可能なため、体調に合わせて無理なく進められます。通信制高校卒業生の高等教育機関への進学率は45.7%に上っており、進学への道は閉ざされていません。
- 多様な制度の活用: 不登校特例校(学びの多様化学校)や非通学型教育の制度的論点に関する研究が進められており、多様な進路のあり方が社会的に認められつつあります(松下丈宏, 2019; 前原健二ほか, 2019)。
親世代にとって「通信制」と聞くと抵抗を感じる方も多いようです(ある保護者は「パパが最後まで納得しなかった」と述懐しました)が、今では決して「特殊(例外)」ではなく、多様な選択肢のひとつです。親が先入観で、貴重な選択肢をなくしてしまわないように注意しましょう。
総合型選抜(AO入試)でのリフレーミング戦略
不登校を経験した子どもが大学進学を目指す際、学力重視の一般入試だけでなく総合型選抜(AO入試)も有効です。
- 公的な支援: スクールソーシャルワーカー(SSW)の配置が進められており、進路選択や環境調整のサポートを受けられます(小川幸裕, 2003)。親は、子どもを学校に戻すことだけに固執せず、子どもが本当に好きなこと、興味のある分野に深く没頭できる時間を提供することが、その後の大きな成長につながる鍵となります。
- 経験の武器化: 総合型選抜では、単なる学力だけでなく、不登校期間中に培った活動実績や個性、学習への熱意が評価されます。不登校中に独学でプログラミングを極めたり、特定の社会課題について独自の探究活動に没頭したりした経験は、「主体性」や「思考力」をアピールする上で大きな武器となります。
※以降は私(スガヤ)の私見です※
とどのつまり、学習とはその「意欲」と「対象」、および「学び方」次第で効果効率が全然違ってきます。AO入試も昔こそ「一芸入試」など揶揄する声もありましたが(そもそもご存じない保護者も多いです)、現在では”半数以上”の大学がこの方式を導入しています。そこで試されるのは、「いかに自律的に学ぶ力があるか?」です。
なかで学校では一律的な手段しか許されず、また進度も画一的でした。つまり「学ぶことを常に強制されている」状態で、自由自律の感覚を持つことはできません。ですが「不登校」となると、これら強制がなくなり一気に”学びの可能性”が広がるというメリットも出てきます。
一方で「AI」が社会的に普及するなか、「一般的な知識」や「正解」は高速かつ必要十分に答えてくれるようになりました。なかで求められるようになるのが「特別な経験」や「問い(課題の発見)」です。こうなってくると、むしろ「不登校」のほうが有利な面もでてくる…と言ってしまうのは言いすぎでしょうか?(以上「私見」ですので、ご容赦ください)
まとめ:不登校を”有利に”転換する回復行動を
この章を通じて、不登校からの回復を確実なものにするためには、休養から具体的な行動へと視点を切り替える戦略が必要であることを学びました。その核となるのは、子どもが「自分らしくいられる居場所」を複数確保することと、「不登校経験を武器にする」ための学習・進路の選択肢を積極的に提示することです。
私たちは、フリースクール、ICT学習、通信制高校、そして総合型選抜といった多様な選択肢が、子どもの「主体性」と「未来への希望」を支える柱となることを確認しました。不登校期間は決して「空白」ではなく、考え方や行動によっては自分を見つめ直し、学校の画一的なレールから外れた場所で独自の強みを培うための貴重な時間にもなりうるのです。
しかし、これらの戦略を実行に移す過程で、保護者は大きな壁に直面しがちです。それは「母親自身の心理的負担」と「学校や社会との連携ストレス」です(回復段階で、多く寄せられる相談のひとつです)。計画がどれほど優れていても、実行する保護者が燃え尽きてしまっては意味がありません。
次回予告:親の「安心」が子どもの回復を早める
次回(最終回)では、この「孤独な闘い」から保護者を支援するための方法について、今一度焦点を当てます。
- 親のストレス軽減: 慢性的な負担を和らげ、「親の笑顔」を支援の最前線に戻すための具体的なセルフケアの方法と外部リソース(ペアレント・トレーニング、ピアサポートなど)の活用法。
- 学校との連携術: 支援を妨げる「3つの落とし穴」を避け、学校と適切な距離感を保ちながら協力体制を築くための、具体的なコミュニケーション原則。
- 子どもの主体性を尊重する声かけ: 登校刺激にならない「共感と質問」の具体的なフレーズ。
保護者様が安定し、学校や社会と適切に協力する「チーム」を築くこと。それが、お子様の自立に向けた最後の、そして最も重要なステップとなるでしょう。
- 📘 参考文献(IV. 具体的な支援戦略)
本記事の作成にあたり、以下の知見を参照しています。
- 文部科学省:令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果
- 櫻井 裕子 (2022). オンライン居場所支援が不登校の子どもの行動や思考の変容に与える影響.
- 菊池 ほの香ほか (2024). 不登校児童生徒の類型と回復過程に着目したフリースクールスタッフの支援に関する研究.
- 今井 さやか、大川 一郎 (2020). 塾職員が行う学習以外の相談支援の検討.
- 松下 丈宏 (2019). 「非通学型」の公教育の可能性と課題―ホームスクーリングを事例に.
- 前原 健二、滝沢 潤 (2019). 「非通学型」学校の展開と公教育制度の論点.
- 宮口 誠矢 (2020). 学校外で保障されるべき「最低限の義務教育」の構成.
- 小川 幸裕 (2003). 不登校問題におけるスクールソーシャルワークに関する研究.

