不登校ブックガイド|フリースクールが「教育」を変える:「学校」という単一のモノサシから自由になる

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mediashure.com*東京シューレ出版 主に子どもや教育の問題を中心として、不登校やフリースクールなどの情報、社会問題についてなど、当事者の立場から発信していく本を出版しています。

・書籍タイトル: フリースクールが「教育」を変える
・著者: 奥地圭子
・出版社: 岩波書店(岩波ブックレット)
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目次

学校以外の「学びの場」が、社会を変え始めている

「いざとなれば、学校以外にも育つ場所はある」

「学校に行かないと、まともな大人になれないのでは?」。そんな不安を抱える保護者に対し、本書は「学校だけが学びの場ではない」という事実を、豊富な実例と歴史的経緯をもって提示します。 著者は、長年フリースクール運動に携わり、NPO法人東京シューレの理事なども務めた奥地圭子氏です。本書は、不登校の子どもたちの受け皿としてだけでなく、新しい教育のモデルとして注目される「フリースクール」の歴史と全貌を、コンパクトかつ体系的に解説しています。 「学校に行かない」という選択が、決して「逃げ」や「ドロップアウト」ではなく、多様な学びのあり方の一つとして社会的に認められつつある現状(教育機会確保法の成立など)を知ることは、保護者にとって大きな希望となるはずです。

ポイント: フリースクールの多様性と「教育機会確保法」の意義

本書の核心は、フリースクールが単なる「学校の代用品」ではなく、子ども中心の「新しい学びの文化」を創造している現場であるという点にあります。

・フリースクールとは何か: フリースクールに明確な定義や法的基準はありませんが、一般的に「子ども中心」「個の尊重」「自己決定」を重視する民間の学びの場を指します 。市民立の学校として、不登校の子どもたちの居場所となるだけでなく、デモクラティックスクールやオルタナティブスクールなど、多様な教育実践が行われています 。

・「教育機会確保法」のインパクト: 2016年に成立した「教育機会確保法」は、学校外での学びの重要性を初めて法的に認めた画期的な出来事でした 。これにより、不登校は「学校に戻すべき問題行動」から、「休養の必要性」や「学校以外の場の重要性」が認められる対象へと、公的な認識が大きく転換しました 。

・公教育との連携と課題: フリースクールと学校との連携が進み、出席扱いになるケースも増えています 。しかし、公的資金の助成が乏しいことや、依然として「学校復帰」を前提とした運用が残っていることなど、解決すべき課題も明確に指摘されています 。

この本について

・独自の視点

書籍の強みは、フリースクールを単なる「不登校対策」の枠組みで語るのではなく、硬直化した日本の公教育システムそのものを変革する「触媒」として位置づけている点です。現場の実践知と、法制度や歴史というマクロな視点を往復しながら論じられています。

・相対評価

・評価軸の傾向(ポイント形式) 理論(抽象) ⇔ 方法(具体): 両立。フリースクールの理念や歴史的背景(理論)と、実際の活動内容や運営形態(具体)をバランスよく解説しています。
・ドライ(客観) ⇔ ウェット(感情): ニュートラル。不登校の子どもたちの苦しみに寄り添いつつも、制度や社会構造を冷静に分析しています。
・今すぐ(短期) ⇔ じっくり(長期): 長期。学校制度の変革や、多様な学びが保障される社会の実現という、長期的な視座を持っています。
・当事者目線 ⇔ 支援者目線: 支援者・運営者目線。フリースクールの運営者や研究者としての視点から、教育のあり方を問い直します。
・ポジティブ(肯定的) ⇔ ニュートラル(客観的): ポジティブ。フリースクールの可能性を信じ、学校外の学びを肯定的に評価しています。
・発達特性との関連度: 2。個別の発達特性への言及よりも、多様な個性を受け入れる「場」としての機能や制度論に焦点を当てています。

まとめ: 「学校」という単一のモノサシから自由になる

本書は、保護者が無意識に持っている「学校=教育の唯一の正解」という固定観念を解きほぐしてくれます。 「フリースクール」という選択肢を知ることは、実際にそこへ通うかどうかに関わらず、親子の心を軽くします。「いざとなれば、学校以外にも育つ場所はある」という安心感が、学校というシステムと適切な距離を保ち、子どもを追い詰めないための余裕を生むからです。 多様な学びの場が存在すること自体が、社会の豊かさであり、子どもの権利を守ることにつながる。この本は、そうした広い視野を保護者に提供してくれます。

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スガヤのふせん ~個人的ブックマーク

「不登校」の解決とは「再登校」することではなく、「子どもが元気に育つこと」である。何度も確認しているこの原則ですが、「ではどうすれば”より”元気になるのか?」という実験であり実践を、自ら率先して行っているのが奥地氏であり「東京シューレ」です。本著は東京シューレ「30周年」を記念し出版されたとのことですが、なかで”学校より元気になり、また学校ではできない学びを実践した子どもたちの姿が、生き生きと描かれています。読んでいくほど「こっちのほうが”正解”なのでは?」なんて思うことがしばしば

フリースクールは学校の「敵」でも「逃げ場」でもなく、教育全体をより良くするための「パートナー」であり「実験場」です。 「学校に行かない」という子どもの選択は、今の学校システムが抱える限界を鋭く指摘する「炭鉱のカナリア」のようなものであって、その声を無視して無理やりカゴ(学校)に戻すのではなく、カゴの外にも広がる豊かな森(多様な学びの場)があることを、大人がまず知っておくべきだと強く感じました。

1985年6月、学校外の子どもの居場所・学びと交流の場として「東京シューレ」を開設しました。やがてこれが、日本のフリースクールの草分けと言われるようになります。当時の私の意識としては、子どもたちが管理と競争の教育にひどく傷つき、登校拒否となって苦しんでいるため、学校教育とは違う、子どもを原点としたのびのびとした場をつくりたい、というものでした。(P.56より)

ただ、それとは別に奥地氏自身の不登校だった御子息の話、並びに「東京シューレ」設立に向けた様々な葛藤と困難の話は、読み手としても胃がキリキリしてしまうところがあり、本当に畏敬の念に堪えません。

一方で、フリースクールの利用生徒は、全体の約3.7%とまだまだ低い(※2021年度 文科省調査)。改めて筆者が必至の思いで「一歩前に進めた」この運動を、引き継いでさらに前に進めていかねばと、教育者として思いを新たにしました。

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