ブックガイド| 不登校を克服する:教育現場の第一線から「再登校」に向け具体的で構造化された対処法

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『不登校を克服する』海野和夫 | 文春新書 不登校問題の解決バイブルの決定版! 地域で差はあるが、小学生は25人に1人、中学生は10人に1人が不登校だ。数多の臨床事例から解き明かす不登校問題解決の決定版。...

・書籍タイトル: 不登校を克服する
・著者: 海野和夫
・出版社: 文藝春秋
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目次

その「つらさ」は、個性ではないか

「本来なら学校に行っているはずのわが子が毎日家にいる(「まえがき」より)」状態は、親や家族にとってつらく悲しいこと 。この問題は、全国あまねく発生比率を高めて増え続けており、社会にとって人材埋没の社会的損失も甚大である重要な課題です 。著者は、長年のカウンセリング(教育相談)経験から、不登校問題の解決のための考え方や具体的な方策、経過、具体的な手法を明らかにしています 。

本著による不登校克服のねらいは、再登校あるいは再就学の実現です 。人生には、何をおいても、高等学校卒業以上の「証書(ライセンス)」が必要であり、なるべく早く学校に行くのが賢明であると著者は強調します 。

ポイント:否定的自己像と肯定的自己像の膨らませ方

本書は、不登校問題の根源は「だめな人間」という思い詰めと、その心理である「否定的自己像」にあると定義します 。この思い詰めた否定的自己像が集団参加を阻み、不登校を生んでいるのです

  • 解決の方向性: 問題解決は、この否定的自己像を消し去る努力をするのではなく、ほんの少しでよい、すでに持つ「肯定的自己像」を膨らませることで解決に向かうと述べます 。
  • 発生のメカニズム: 不登校は、「発生脆弱性(心理的特性)」に「誘因(きっかけ)」が加わることで生じます 。発生脆弱性は、出生以来のストローク(触れ合い)の絶対的不足などにより、肯定的自己像を形成できなかったことに起因します 。
  • 最新の特性: 近年増加している不登校のタイプは、何を目指してどう生きるのかが不明瞭で、いつの間にか生きにくくなり彷徨う「集団撤退型の生き方の病」であり、再登校に導くには最難関のタイプです 。

解決の技術:親密な時間の累積と4つの質問

問題解決のしかたの要諦は、親密な関係を構成するもっともよい手だてとして、親や家族、教師、心理職などが、子どもを認める・ねぎらう・ほめるを繰り返すことです 。数回では効果は薄く、長期化した問題では、少なくとも数百回以上の繰り返しが必要であると、努力の必要性を強調します

  • 認める・ねぎらう・ほめる: 認めるとは存在を尊重して承認すること 。ねぎらうとは労を謝し、安堵をつくり、意志を固めるはたらきをもつこと 。ほめるとは社会的な承認と次への行動意欲を促進することです 。これらを素直に表現し続けた家族の不登校は早期に解決します 。
  • 魔法の質問: 子どもと再登校という目標を共有するために、以下の4つの質問を順序通り、一言一句変えずに聞くことを指導します 。
    • 「君(あなた)が困っていることは何か」
    • 「君(あなた)を学校に行かせないようにしていることはどんなことか(何か)」
    • 「君(あなた)はこれからどうなればよいのか」
    • 「もしそうなったら、君(あなた)はどんな気持ちになるか」
  • 禁句: 「なぜ」という言葉を使ってはなりません。「なぜ」は一種の糾問であり、子どもは答えに窮し、質問に答えなくなるからです 。また、強制や「がんばれ」も禁句です 。

この本について

書籍の強みは、心理職の立場から再登校という明確な目標に向けて、具体的で構造化された対処法を提示している点です。

・相対評価

  • 理論(抽象) ⇔ 方法(具体): 方法(具体)に特化。行動化の動機づけや、具体的な質問技法、再登校への行動計画作成に焦点を当てます 。
  • ドライ(客観) ⇔ ウェット(感情): ドライ(客観)。心理職としての冷静な視点と、科学的・体系的な解決を重視します 。
  • 今すぐ(短期) ⇔ じっくり(長期): じっくり(長期)。再登校には数百回以上の触れ合いの累積や、半年程度の時間がかかるとしています 。
  • 当事者目線 ⇔ 支援者目線: 支援者目線に特化。「心理職」や「教師」が何をすべきか、という役割論に焦点を当てます 。
  • ポジティブ(肯定的) ⇔ ニュートラル(客観的): ポジティブ(肯定的)。肯定的自己像の膨らませや、「努力と献身」によって克服可能であるという強い希望を示します 。
  • 発達特性との関連度: 3(否定的自己像の克服を主眼とするが、起立性調節障害など身体的随伴症状への言及はあります )。

まとめ:再登校というゴールを目指す構造的支援

本書は、不登校という困難は、自己努力と献身的な関わりによって克服可能であるという、強く肯定的なメッセージを提示します。

問題の根源を「否定的自己像」と明確に捉え、これを「認める・ねぎらう・ほめる」という構造的かつ反復的な関わりによって解消し、再登校という明確なゴールへ導くための具体的なロードマップを提供しています 。

「もう一度学校へ行くこと」は、子どもが人生に必要な証書を得て、生き甲斐のある人生を創造するための重要な責務であるという著者の信念は、保護者の不安を打ち消し、献身的な行動を促すための強固な指針となるでしょう 。

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スガヤのふせん ~個人的ブックマーク

本著の帯は書籍の半分ほどを占めるスペースで「本邦初!40年余に及ぶ実践で辿り着いた決定版。不登校を解決した実例を多数紹介」と堂々記されており、実際内容もそのようであり、また「心理職の資格を得て」「教師などの教育相談(カウンセリング)に携わってきた」という情熱ある著者だからこその意欲的な指導例が、こと”学校寄り”で詳細に描かれている点も、本著ならではでしょう(通底しているのは「学校側からみた不登校」という立場です)

当サイトでは「不登校のゴールは”再登校のみ”ではない」と主張していますが、本著は以下のように主張しています

学校は、人が人になるための必修の学びと生活の場であり、就学して、学歴を取得するところである。我が国の学校教育は一律の就学を制度としている。そのおかげで私たち日本人は、等しく教育を受ける機会を得て、生きるために必要な知識や技能を習得する。また、人と時間を共有して、より好ましい人間性を身に付け、その人らしい意味ある人生をまっとうする時と場を得る。学校は個々人が価値ある人生を創造する貴重で大切な学びの場である。
不登校問題は一日も早い解決が必要である。再登校や再就学で実現した時の子どもたちの安堵と嬉しい表情は、実に爽やかで美しい(「まえがき」より)

また親に対しては、以下のように呼びかけています

子育ての直接の責任者は親である。親は子どもを育てる存在である。親には我が子を一人前に育てる義務と責任が課せられている。子どもを不登校に陥らせる子育てはあってはならない(「予後と提言」より)

やや厳しい意見ですが、「学校も当事者である。学校が原因となる不登校を生み出してはならない」と続くので、これは学校教育の第一人者としての責任ある意見であり、譲れない立場なのかと思います。そういう意味では非常にストレートで生徒への愛が凝縮された一冊です。

ただしだいぶ「ド直球・ド正論」という感もあり、主張を異にする他の本と合わせて読み比べてみると良いかと思いました。

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