掲載情報
書籍タイトル: CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック 若者がやる気になるために家族ができること
著者: 境泉洋、野中俊介
出版社: 金剛出版
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行動システム「CRAFT」の導入
「待つだけでは不安」「何を話しても響かない」という、ひきこもりを抱える家族が直面するコミュニケーションの停滞は、無意識に繰り返されるネガティブなやり取りから生まれています。本書は、感情的なパニックから脱却し、親が自律的に状況をコントロールする力を身につけるための、CRAFT(Community Reinforcement and Family Training コミュニティ強化と家族訓練)という極めて科学的かつ体系的な手法を紹介します。
CRAFTは、親自身の感情的な波を無視し、子どもの行動と親の行動という客観的な事実のみに焦点を当てる訓練です。これにより、親は「私が悪い」という自責の念から離れ、感情に流されない「効果的な行動」を体系的に学ぶことができます。
・ CRAFTは、家族間のネガティブなやり取りをポジティブな行動に置き換えるための具体的な訓練です。 ・ 親の接し方が変わることで、子どもも変化せざるを得ない状況を生み出します。
ポイント:思考の「こだわり」を行動で捨てる
「行動」が「思考(こだわり)」を凌駕する
ひきこもり問題において、親の「こだわり」(早く解決したい、学校に戻さなければ、という思考やイメージ、思い込み)は、しばしばコミュニケーションを停滞させます。本書の核は、この「こだわり」を、結果が出やすい具体的な行動という実践で乗り越える点にあります。
・ 行動が思考を解放する: 「こだわり」が思考やイメージだとするならば、「具体的な行動」は実践であり、結果が出やすい「働きかけ」であり、コミュニケーションです。親が行動しているうちに、余計な思考(こだわり)が自然と抜けていく効果が期待できます。
・ ポジティブな出来事への注目: CRAFTの具体的な技術は、子どもの変化を待つのではなく、まず親が率先して行動を変えることが鍵だと説きます。例えば、「ポジティブな出来事への注目(強化)」を通じて、親が従来の「解決へのこだわり」を手放し、子どもの「やる気」にアプローチします。
「ワークブック」形式が引き出す実践力
この本が単なる解説書ではなく、「ワークブック」という形式をとることは、長期的な問題解決において、親の主体的な参加と継続的な訓練に大きく貢献します。
・ 実践の引き出し: 「読んでやらない」という読書スタイルも多いなか、「ワークブック」形式は、親の行動を自ずと実践へと導きます。
・ 「ワークブック」という概念: これは書籍とは違い、親自身が訓練を通じて「ひきこもりへの効果的な関わり方」という、新しい概念を体得するためのツールです。親は感情的な消耗から脱し、体系的な知識と技術を身につけることで、自らの精神的な自立にも繋がります。
この本について
評価軸の傾向(ポイント形式)
・ 理論(抽象) ⇔ 方法(具体): 極めて方法に特化。CRAFTという具体的かつ体系的な行動訓練が核です。
・ ドライ(客観) ⇔ ウェット(感情): ドライに極めて特化。感情ではなく、行動変容の原則に基づき、親の行動を管理します。
・ 今すぐ(短期) ⇔ じっくり(長期): じっくりに特化。家族がシステムを習得する長期的な訓練プロセスを重視します。
・ 当事者目線 ⇔ 支援者目線: 支援者目線に特化。専門家による親への行動指導です。
・ ポジティブ(肯定的) ⇔ ニュートラル(客観的): ニュートラル。科学的根拠に基づく冷静なアプローチです。
・ 発達特性との関連度: ★☆☆☆☆ 1(個別の特性ではなく、普遍的な「行動変容」の原則が中心です)。
独自の観点:親の「行動の自律」を促す実践書
・ 構造的な強み: 感情論を排し、「子どもの行動」と「親の行動」という客観的な事実のみに焦点を当てる手法は、親の自責の念や感情的な消耗を防ぎます。
・ 哲学的な貢献: 親が自らの行動を体系的に管理・変容させることで、状況に振り回されない「行動の自律」を獲得し、結果として子どもの自立を促すという、極めて建設的な哲学を持っています。
まとめ:行動から始まる、親子の自立
本書は、何をしても状況が変わらないという絶望感に直面しているご家族にとって、感情ではなく「行動」から状況を変える力を与える、極めて実用的なワークブックです。
「こだわり」という思考の重荷を捨て、CRAFTという科学的なシステムを通じて具体的な行動を始めること。親が自律的に行動を変える訓練を続けることで、その変化は必ず子どもに伝わり、若者が自らやる気を出すための新しいコミュニケーションの流れが生まれます。
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スガヤのふせん ~個人的ブックマーク
ひきこもり支援については、等の若者へのアプローチが難しいため、まずは実践可能性の高い家族、特に親への支援が最も重要
ーという課題観から生み出された「CRAFT(Community Reinforcement and Family Training)という治療プログラムを解説しつつ、全8回の「プログラム」を通してひきこもりのメカニズムを正しく理解し、コミュニケーションや問題解決の技法を家族に具体的に教えていく本著。これは書籍であり一種の「研修」のようでもあり、濃密な読書体験を提供してくれました。
こと「ひきこもり」でなくても大変勉強になる技法が多く、親子のコミュニケーションを考え直し、また実践によって定着させるよいきっかけになりました。
家族はなぜ、ひきこもっているおこさんを「叱咤激励」するのでしょうか?…家族の多くは、引きこもったお子さんに対して、「叱咤激励」以外の接し方を学ぶ機会がないからです。そして何よりも、家族自身が、自分自身を「叱咤激励」して生き抜いてきた人たちであるからです。したがって、「叱咤激励」をやり尽くした末に、「あきらめ」の境地に至ってしまうのです。「あきらめ」の境地から「ポジティブなコミュニケーション」に至るには、まず「受容、共感」から始めることが非常に効果的です。(P.21-22)
ボクたちは実は、「子育て」を正式に習わず親になっていきます。なかでその技法は「叱咤激励」以外に知らず、改めて指摘されればその乏しさにしばし呆然となります。子育てとはこのように、「学習と実践」により良化しうるものなのかと大変勉強になり、また家族関係の改善という結果に感謝しきりの良著でした。

