不登校からの回復ステップ

この記事では、
①子どもが回復へと進むなかで起こる”変化”
②”回復期”に役立つ外部支援
についてご紹介します。

目次

子どもの回復のプロセスをたどる

子どもの不登校からの回復には、心の中で起こる心理的な変化と、それに伴う行動の変化があります。
その一つひとつを丁寧にとらえることが、適切なサポートにつながります。

2つの心理状態

不登校からの再登校を考えるうえで重要となる心理状態として、”混乱”と”受容”の2つが示されています。

混乱

子どもが不安や落ち込み、後悔といったネガティブな感情に支配されている状態を指します。
典型的な気持ちとして、

  • 将来のことを考えると怖くなる
  • 今の状況を思うと落ち込む
  • あのとき学校に行っていれば・・・と後悔する

といったものがあります。これは、不登校という現実を前に子どもが精神的に不安定になっていることをあらわしています。

受容

子どもが現実を受け止めて、問題に前向きに向き合おうとする姿勢です。
具体的には、

  • 今の自分を受け入れようとしている
  • 目の前の課題に集中しようとしている
  • 不登校の原因を冷静に考えられるようになった

といった行動や心の動きが見られます。これは、次の一歩を踏み出そうとする前向きな変化のあらわれです。

研究によると、子どもの心理状態は”混乱”と”受容”の組み合わせによって次のように整理できます。これらは、支援のタイミングを見極めるうえで大きなヒントになると感じています。

①”混乱”が低く”受容”が高いとき
再登校の可能性が最も高い
②”混乱”が高くて”受容”も高いとき
①の次にチャンスがある
③”受容”が低いとき
特性に応じたサポートが効果的
④”混乱”と”受容”の両方が低いとき
まだ現実に向き合えていない段階
 → 再登校を意識し始めると”混乱”が高まり、その過程で”受容”が少しずつ育つ
 → 最終的に”混乱”を乗り越えることで一歩踏み出す力につながる

不登校の5つの段階

海野和夫氏は、不登校の経過を次の5段階に整理しています。
前駆期:体調不良を訴えたり、「学校に行きたくない」と言ったりする。
開始・進行期:身体症状を訴えながら、実際に学校を休み始める段階。
混乱・ひきこもり期:登校刺激に強く反発し、部屋に引きこもるなど最も不安定な時期。
回復期:心理的に落ち着きを取り戻し、自分を見つめ直し、学校や友達への関心が戻り始める時期。
再登校期:再登校に向けた行動がみられる段階。

回復は直線ではない

不登校からの回復は、必ずしも”再登校=ゴール”ではありません。
子どもが精神的に安定し、少しずつ元気を取り戻していくこと自体が立派な回復です。

また、回復の道のりは決して一直線ではなく、前進と後退を繰り返しながら進んでいくもの。
フリースクールに一度だけ行ってやめてしまった子が、母親の「行こうとしただけですごい」という一言をきっかけに、後日また通い始めたケースもあります。
このように、不登校からの回復は“同じところをぐるぐる回っているように見えても、実は少しずつ前に上に進んでいっている螺旋階段”のようだと表現できます。

他の研究者の見解

  • 佐藤典子氏:不登校の深刻化を8段階に整理
  • 小野昇氏:回復過程を8段階に整理
  • 山本登氏:①前期(体調不良と不安/荒れと反抗)②中期(退避とどん底/窓から外を覗く)③後期(学校への再接近/乗り越えの過程)という6段階モデルを提示

どれも「不安定な段階」→「家庭で落ち着きを取り戻す段階」→「勉強や学校に関心を示す段階」というおおまかな流れで共通しています。(※それぞれ詳しい解説については、後日公開予定です)

回復の鍵となる”居場所”と”つながり”

文部科学省は、子どもの不登校の支援において、再登校という“結果”だけではなく、生徒が自分の進路を前向きに考え、社会的に自立していく“過程”を大切にすべきだとしています。そのためには、学校以外の”居場所”を見つけることが、大きなきっかけになることがあります。

フリースクールで笑顔を取り戻した

フリースクールは、学習や体験活動を通して子どもたちを支援する場です。
ここで大切にされるのは”子どもの主体性”や”子どもが安心して過ごせる場所”であること。まずは心が落ち着ける環境をつくり、学びや体験へとつなげていきます。

実際に、ある子どもはフリースクールに通うことで友達ができ、毎日笑顔で過ごせるようになりました。保護者も「家庭でこんなにリラックスした声で友達の話をするのは久しぶり」と感動したそうです。
このように、“ここなら自分らしくいられる”と思える環境に出会えたことで、子どもが「人と関わるのって楽しい」と感じられるようになり、再び挑戦しようという気持ちを育むことができたのです。

オンラインがつなぐあたらしい関係性

コロナ禍をきっかけに、不登校の子どもたちがオンライン授業やオンライン支援に参加するケースも増えました。画面越しでも、人と関わり”認めてもらえる”経験は、子どもたちを前向きに変える力があります。
これらの支援には、

  • 外出が苦手な子でも参加しやすい
  • 対人不安の強い子には、チャットでの交流が効果的
  • 発達特性のある子にとっても、単純化されたやりとりは安心感につながる

といったメリットもあります。もちろん、オンラインはすべての子どもに合うわけではないため、子どもの特性に合わせて”まず試してみる”ことが大切です。ただ、オンラインをきっかけに外に出られるようになった事例もあり、今後ますます可能性が広がる支援のしかたです。

回復のきっかけと支援のしかた

小さな成功体験からはじまる回復

子どもの不登校からの回復は、ほんのささいなきっかけから始まることが少なくありません。大切なのは、その変化を見逃さず、前向きに受け止めることです。

(例)

  • 朝、自分から布団を出てテレビを見て笑った
  • 「今日は外に出てみようかな」とつぶやいた
  • ゲームにすら手を出せなかったのに、再び夢中になれるようになった

こうした小さな行動は、回復のはじめの一歩です。

さらに、

  • 昼夜逆転から日中に野球に打ち込めるようになった
  • ゲーム漬けの毎日でも、自分でオン・オフを切り替えられるようになった
  • 漫画や絵に没頭しながら、少しずつ友達と遊んだり別室登校に挑戦できるようになった

といった事例もあります。趣味や好きなことに没頭する時間は、心を癒し、次へのエネルギーをつくる大切な力になります。

保護者にできること

この時期に重要なのは、保護者の“見守る姿勢”です。
子どもが好きなことに打ち込んでいるときは、口をはさまず、ただそっと見守る。それだけで「ありのままを受け入れているよ」というメッセージが伝わり、子どもの安心感と自己肯定感が生まれます。

また、家庭内での小さな役割を任せるのも効果的です。

  • 「野菜を切ってくれる?」と料理をお願いする
  • 「ペットのご飯をお願いね」と世話を任せる

こうした経験を通じて、”自分は役に立っている”と実感できることが、自己肯定感の回復につながります。

日々の小さな”できた”を認め、言葉で伝えることも大切です。
「今日のご飯、とてもおいしかったよ」
「ペットが元気そうだね、ありがとう」
こんな一言が、子どもの自信をぐんとのばします。

信頼できる大人や仲間との出会い

回復のきっかけは家庭だけにとどまりません。信頼できる大人や仲間との出会いも大きな力になります。
(例)

  • 叔母や従姉妹に思いを打ち明けることで、数ヶ月後に復帰できた
  • ダンス仲間から「そのままでいい」と言われて救われた
  • 教育相談センターや子ども食堂に通い始め、地域とのつながりを得た
  • 塾の先生との対話で「変わりたい」と意思表示できるようになった

こうした外部との関わりが子どもの「また挑戦してみようかな」という気持ちを支えます。特に同年代の友達からの誘いは、親や先生の言葉よりも強く響くこともあります。また、フリースクールやオンラインでの習い事も効果的です。ここには不登校やひきこもりの経験を理解する仲間や支援者が集まりやすく、無理のない関係を築きやすいからです。

まとめ

この記事では、不登校から回復していく過程を①心の変化と②外部からの支えという2つの視点で考えました。

心の変化をとらえる

不登校の回復は、”学校に戻ること”がゴールではありません。大切なのは、子どもの心の中で少しずつ起きていく変化を見逃さないこと。

研究では、不登校の子どもの心理を、

  • 混乱:不安や後悔に押しつぶされそうな状態
  • 受容:現実を受け止めて前に進もうとする姿勢

という2つの観点から整理しています。
この2つのバランスによって、再登校への可能性やサポートのタイミングが見えてくるのです。

また、不登校の流れは”前駆期”から”再登校期”までの5つの段階で説明されることもあります。ただし道のりは決して一直線ではなく、少しずつ前へ上へと進んでいく”螺旋階段”のような歩みであることを理解しておきたいですね。

回復を後押しする外部支援

そして、子どもの回復には”学校以外の居場所”や”新しい関係性”も大きな意味を持ちます。

(例)

  • フリースクール:安心できる環境で、自分らしく学び直し、人との関わりを築きなおすことができる場所。
  • オンライン支援:外に出にくい子でも、自宅から社会との接点を持ちやすく、自己肯定感を育む場所。

そしてなによりも、保護者の関わり方が大切です。

  • 好きなことに夢中になっている姿を見守る
  • 家の中で小さな役割を任せる

といった日常のささやかな関わりが子どもの自信を回復させます。「よく頑張ったね」「助かったよ」という言葉で、次の一歩を踏み出す大きな力になるのです。

不登校からの回復は、子どもだけが背負うものではありません。周りの理解と支えの中で、子どもは「自分はここにいていいんだ」と実感し、少しずつ前に進んでいくのです。
子どものペースを大切にしながら、一歩ずつ共に歩んでいきましょう。

参考文献

  1. 山本 奨. (2024). 不登校児童生徒の再登校傾向に応じた教師による支援. 岩手大学大学院教育学研究科研究年報, 8, 159-173.
  2. 海野 和夫. (2016). 不登校を克服する. 文春新書.
  3. 佐藤 典子. (1994). 不登校児の回復過程. 金子書房.
  4. 佐藤 典子. (2005). 不登校児の回復過程―その発達と治療. 金子書房.
  5. 小野 昇. (1986). 不登校の心理と治療. 誠信書房.
  6. 小野 昇. (2003). 新不登校の心理と治療. 誠信書房.
  7. 山本 登. (2005). 不登校の心理と治療. 日本評論社.
  8. 吉井 潤. (1999). フリースクールはなぜ必要なのか. 講談社現代新書.
  9. 菊池 ほの香・相模 健人. (2024). 不登校児童生徒の類型と回復過程に着目したフリースクールスタッフの支援に関する研究. 愛媛大学教育学研究科研究年報, 71(123-132).
  10. 櫻井 裕子. (2022). オンライン居場所支援が不登校の子どもの行動や思考の変容に与える影響. 日本学校心理士会年報, 15, 90-98.
  11. 文部科学省. (2023). 不登校に関する実態調査.
  12. C. A. Kearney. (2007). School absenteeism and school refusal behavior in youth. Clinical Psychology Review.
  13. 日本小児保健協会. 中学生の生活リズムと健康.
  14. 国立成育医療研究センター. 不登校の理解と支援.
  15. 厚生労働省. 子どものSOSサイン.
  16. 三島 浩司ほか. 登校回避行動の予防的介入研究. 教育心理学研究.
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