ブックガイド|箱庭療法こころが見えてくる方法:小さな世界に現れる「私」と深層心理の変容

講談社「おもしろくて、ためになる...
『箱庭療法 こころが見えてくる方法』(田中 信市) 製品詳細 講談社 数多くの実証例。自分で自分のこころを開く治療法!! なぜ箱庭をつくることで、こころの深層が動きだすのか?病んだこころが癒されるのか?実例を通して、こころの変わり...
目次

掲載情報

・書籍タイトル: 箱庭療法こころが見えてくる方法 不登校・情緒不安定・人間関係の悩み
・著者: 田中 信市
・出版社: 講談社
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言語の届かない深層へ

「どうして学校に行きたくないのか」 「自分の悩みはどこから来るのか」

この問いに”言葉”で明確な答えが出せないとき、私たちの心は深い場所での援助を求めています。不登校の苦しさや違和感を、子どもがうまく言語化できないとき、親や支援者はどうすればその「非言語の叫び」を聴けるでしょうか?

この本は、砂とミニチュアを使って自分だけの「世界」を創り出す心理療法、「箱庭療法」について解説した一冊です。

箱庭療法は、言葉の限界を超えて、「日常的な私」とは異なる「私」との出会いを促し、内的な変容を生み出すことを目指します。これは、不登校、情緒不安定、いじめといった子どもの問題だけでなく、対人恐怖症、抑うつといった大人の心の問題にまで有効であることがわかっています。

この「つくる」という行為が、言語による介入や行動変容を主とする他の支援方法とは一線を画す、独自の可能性を提示します。


ポイント:「制作」による非言語の表現と心の変容

箱庭療法の最大の特長は、砂遊びの感覚で楽しみながら自発的に、自分の心を表現できる点です。砂箱という枠の中で表現された世界は、その人の「無意識」が深く作用しています。

言語化できない気持ちを「物質化」する価値

非言語の叫びの表現: 不登校の苦しさや違和感は、論理的な言葉では説明できません。箱庭療法における「砂とミニチュア」という「つくる」行為は、子どもにとって、言語を介さない「表現の代替手段」として機能します。不安や葛藤といった抽象的な「違和感」を、ミニチュアの配置や砂の深さといった物質的な形として目の前に出現させます。

多層的な自己の共存と受容: 箱庭の制作を通じて、日常の「私」だけでなく、抑圧された「私」、深層の「私」など、さまざまな自己がゆるやかに共存し、揺らぐことが許されます。この表現の自由と、それを否定しない受容の空間こそが、心の変容の原動力となります。

独自の視点:つくる行為による自立の起動

砂箱の中の世界は、言語では表現しきれない「違和感」や「抑圧された側面」を、物質として目の前に「出現」させます。

二つの立場の体験: クライエントは、自分の問題の当事者であると同時に、自分が創った世界を見渡す創造主という二つの立場を体験します。これは、内的な問題解決において、子どもの人生の「運転手」は自分であるという自立の感覚を、非言語的な形で起動させるプロセスです。

セラピストの「器」: 単に道具を揃えれば良いのではありません。ミニチュアに「たましい」が吹き込まれるのは、制作者と心理療法家との関係性が枠組みとなって初めて起こります。セラピストは、心の動きをただ受け止めるだけでなく、時には攻撃性や破壊の必要性をも理解し、見守れる「器」を持つことが求められます。


この本について

相対評価

・ 理論(抽象) ⇔ 方法(具体): やや抽象寄り。具体的な「作り方」よりも、「心の動きのプロセス」と「セラピストの心構え」の解説が中心です。
・ ドライ(客観) ⇔ ウェット(感情): ウェット寄り。人間の生と死、深い悲しみといった「たましいに触れる」体験を重視します。
・ 今すぐ(短期) ⇔ じっくり(長期): じっくりに特化。無意識の動きを見守り、一連の箱庭を流れとして見ていく長期的な変容を扱います。
・ 当事者目線 ⇔ 支援者目線: 支援者目線と当事者目線を融合。セラピストの役割を詳述しつつ、制作者自身の言葉を多く取り上げることで、体験を伝えようとしています。
・ ポジティブ(肯定的) ⇔ ニュートラル(客観的): ニュートラル。心の傷や「死の世界」の出現といった暗い側面も否定せず、それを受け入れることで再生に繋がると捉えます。
・ 発達特性との関連度: ★★★☆☆ 3(不登校や情緒不安定など一般的な症状への適用は多いが、発達特性そのものの詳細なアプローチは主軸ではない)。

独自の観点:制作を通じた自己変革

・ 構造的な強み: これまでの「言語や行動による介入」の限界を感じている親や支援者に対し、「非言語・象徴による心の変容」という新しい視点を提供します。

・ 方法論の対極性: ・ 「コンプリメント」が親の言葉かけで”外側”から子どもを自信の水で満たすとすれば、箱庭療法は、子ども自身が「制作」という媒体を通じて”内側”から自身の「自己(セルフ)」に触れ、心の深層から自らを満たし始めるプロセスをサポートします。
・ 対自立: 箱庭の中で世界を「つくる(制作)」ことが、「人生がつくる(選択し、行動する)」ことに意識的につながっていきます。どちらも、自らの手で主体的な世界や人生を編み出すという「自己決定の感覚」を核としています。

この本は、親が自身の心労や焦りをコントロールし、子どもの「自ら回復する力」を深く信頼するための、最も哲学的で詩的なアプローチであると言えます。


まとめ:心の深層に触れ、再生の物語を紡ぎなおす

この本は、不登校問題の根源に、言葉にできない心の傷や葛藤があると感じている親や支援者にとって、かけがえのない道標となります。

親がこの本から学べるのは、子どもの表現を「解釈」することではなく、「ただ見守り続ける姿勢」です。そんな心理的安全性のなかで子どもが砂の中に表現する世界は、そのまま、その子の生の…そして「再生」の物語です。

このプロセスは、親が子どもの「違和感」の力を信じ、その力の表現を妨げない「静かなる受容」の姿勢を身につけることを意味します。


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スガヤのふせん ~個人的ブックマーク

以前から個人的に、なにかを「つくる」「語る」肯定で、人生はもっと個人的にしかし創造的に、再生されるのではないか?という仮説を持ち、これまでの多くの中高生とオリジナルソングを作ってきました。こうした工程で、子どもたちの多くは「勇気」と「自主性」を回復していきました。

このときボクは、完全に個人的勘所(ややもすれば「ただ楽しいから」?!)として活動していたのですが…改めて「なぜこうなる(できる)のだろう?」という思いを抱くにいたり。様々な精神分析の本…こと中井久夫先生の著書経由でこの療法を知り、その”元祖”を知りたく手に取ったのでした。

子どもの心の問題に取り組んだマーガレット・ローエンフェルトが、1920年代の終わりにロンドンに開いたクリニックで、箱庭療法は産声を上げた。(はじめにー箱庭療法とは何か)

こと「言語化」がもてはやされ言語優位な社会になりがちななか、もっと感性や無意識、こと「非言語的」なものから自分を見つめ直す方法がもっと、見直されてもいいのかもしれません。

制作者の「私」を超えた力が箱庭制作には働き、制作者が気づかないことや、後になってようやくわかることも含まれている。心理療法家にもわからないことがたくさんあるし、むしろわからないことのほうが多いのかも知れない。

改めて心の奥深さ(そして未知の領域)が学べた良著でした。

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