ブックガイド|不登校問題と子ども・若者の「居場所」の現在

本書は「早稲田大学教育総合研究所」講演会(2024)の内容を元にした小冊子。構成は、3名の専門家によるご提案と、それに対する指定討論、そして座談会という対話形式。

目次

「不登校」をめぐる論点整理

関係論と権利論

「不登校」という現象を、教育社会学における「関係論」「権利論」から捉えみるという試みで、

・関係論:不登校が子ども個人の内面的な問題だけでなく、学校、ご家庭、地域社会といった生活環境における関係性の問題が複合的に絡み合って生じるという視点。このとき不登校は単なる「病理」ではなく、社会的な関係性の中で捉え直されるべき現象となる。

・権利論:子どもが学校に通うかどうかにかかわらず、個人の尊厳が尊重され、社会生活の基盤となる学習機会、いわゆる「学習権」が保障されるべきであるという考え方。これまでの不登校研究では、しばしば心理的な側面(「神経症型不登校」)に焦点が当てられがちだったが、関係論的な視点を導入することで、友人関係や教職員との関係、あるいは学校生活そのものに起因する「脱落型不登校」として、より構造的な側面を捉え直すことが可能になる。

この二つの視点を組み合わせることで、不登校を単一の原因に帰結させることなく、その複雑な背景を包括的に理解する道が開かれてくる。

不登校対策の特徴と課題

不登校の原因として、文部科学省の調査では「心理的な要因」が上位を占めるが、内訳を詳しく見ると
・教職員との関係
・友人関係
も無視できない数に上っている。これは不登校が子ども個人の”内面的”な問題だけでなく、学校という人間関係の場における相互作用(外発的)によっても引き起こされている可能性を示唆。

さらに「長期欠席者」には、不登校と一括りにできない多様な背景が存在。

・病気や経済的な理由による欠席
・虐待や居住所の不安定さ
・神経症型不登校

など、その要因は多岐にわたる

重要なのは、「学校側」が不登校の原因として捉える側面と「子どもやご家庭側」との間に”大きな認識ギャップ”が存在する点。学校は、個人の内面や家庭環境に原因を求める傾向がある一方で、子どもたちは学校生活における関係性やカリキュラムのあり方そのものに息苦しさを感じていたり。この認識のズレを埋め「子どもたちの声」に耳を傾けることが、真に効果的な不登校対策を講じるための第一歩となる…として一部完

フリースクールで出会う子どもの思いと学校

「NPO法人ネモネット」活動について、松島裕之氏が紹介
https://nponemo.net/
ネモネットのフリースクール運営は、子どもたちの「自発性」を最大限に尊重することを基盤とし、例えば厳密な時間割はなく、子どもたちが自ら参加したいご活動や学びたいことを、定期的なミーティングを通じて決めていく。子どもたちが受け身の学習者ではなく、ご自身の人生の主人公として主体的に選択し、行動する力を育むことを目的としたプロセス設計。またスタッフは子どもたちに「~しなさい」と指示するのではなく「対話」を通じて子ども自身のお考えを引き出し、”伴走者”の役割を果たします。このような運営方法は、子どもたちが安心して自己表現できる「居場所」の創出に繋がっている

子ども・若者の「居場所」と「学校」

次いで阿比留久美氏が、フリースクールやフリースペースが持つ3つの重要な特徴が指摘

・仲間の存在:学校のように他者と”競い合う”でなく、互いに助け合い、支え合う関係性が築く
・自己理解:明確な目標や「やりたいこと」がなくてもよく、自身のペースで時間を過ごすことが許される。これにより自身と向き合い、”ありのまま”を受け入れることができるようになる
・自発的な活動:与えられたカリキュラムに従うのではなく、自身の興味や関心から活動を作り上げいく

またフリースクールのような「居場所」は、社会的に不利な条件を背負い、多数派から「いないもの」とされてきた存在が自身の声や存在意義を主張するための「ノイズをあげる方法」を提供する重要な役割を担っているとも主張した

というわけで、ざっくりまとめると
・不登校問題は子ども個人の問題ではなく、社会全体、特に教育システムが抱える構造的な課題である
・フリースクールのような新たな「居場所」は、子どもたちの学習権と自己決定権を保障する社会の実現に向けた重要な場である

特にオルタナティブスクールに関する調査結果として紹介された

というわけで、ざっくりまとめると
・不登校問題は子ども個人の問題ではなく、社会全体、特に教育システムが抱える構造的な課題である
・フリースクールのような新たな「居場所」は、子どもたちの学習権と自己決定権を保障する社会の実現に向けた重要な場である

特にオルタナティブスクールに関する調査結果として紹介された

オルタナティブスクールと呼ばれる施設がありますが、その運営・設立者へのアンケート結果から、不登校問題をめぐる特徴が垣間見えます。それは、当該スクールにおいて、次の特徴のある利用者の数が「一人以上」と回答した割合が少なくない、という知見です。
その内訳は、①「一人親家庭」(84.7%、n=277)②「発達障害や学習障害があるかみなされる」(84.0%、n=277)、③「虐待を受けていた恐れのある」(40.0%、n=244)、④「日本以外の国や地域にルーツのある」(三38.1%、n=255)、⑤「身体的、社会的な性別に違和感を持つ」(15.5%、n=238)です。ここから、オルタナティブスクールには、一般的な学校(いわゆる、学校教育法上の「一条校」)では、個別的な十分に対応することが困難だと思われる、多様で複雑なニーズを抱えた利用者が在籍していることがわかります。
(P.8より引用)

部分は、改めてこの社会における息苦しさの在処や、(無意識的にせよ)「なかったこと」にしてしまおう空気に、やるせない思いがしたものでした

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