ブックガイド|不登校クエスト

「不登校クエスト」は、作曲家である内田拓海氏によって書かれた、自身の不登校経験を振り返る”ノンフィクション(!!!)”です。1997年生まれの内田氏は、東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業し、現在はフリーランスの作曲家として活躍しています。彼の経歴で特筆すべき点は、小中学9年間一度も通学せず、義務教育を一切受けていないというもの。

本書はその稀有な経験を語ることで、現在不登校の子どもたちや、そのことで悩む保護者に向けて、そんな体験ならではの「不登校でも意外と大丈夫」という力強いメッセージを伝えることを目的としています。

目次

不登校でも「本当になんとかなる」のか?!

「不登校クエスト」の根底には、「不登校でも、本当に大丈夫」という強い信念が流れています。内田氏自身、義務教育を受けていないにもかかわらず、現在フリーランスの作曲家として、多くの人と関わりながら仕事をし、普通に社会生活を送っています。

だからこそ不登校を悲観したり、将来を過度に心配したりする必要はないと伝えています。不登校には厳密な定義がないものの、内田氏の場合は「選択的登校」あるいは「非就学児童の不登校」に分類されると自己分析しています。自身の経験が「生きづらさを抱える誰かのヒント」になることを強く願いつつ、「特別な才能があったから今の自分があるわけではない」と繰り返し強調しています。

「不登校でも意外と大丈夫」なのか?

内田氏は、高校に入るまで授業やテストを一度も受けたことがありませんでした。にもかかわらず、社会に出てから大きな問題に直面したことは一度もない、と断言しています。この体験が、本書の「不登校でも意外と大丈夫です」というメッセージの説得力を高めています。内田氏は、子育てを「ハンバーグを焼くこと」に例え、子どもに過度に干渉せず、じっくりと見守ることの大切さを語っています。

ひき肉をパン粉や卵と一緒にしっかり捏ねて成形したら、熱いフライパンで焼いていきますが、美味しく焼くためのコツってご存じですか? ハンバーグを焼き始めたら、やたらに動かしたり触ったりしないことなのですよ。つつい気になって、ハンバーグの端を持ち上げてみたり動かしたりしてしまうとフライパンから伝わる熱が逃げてしまいます。 そうならないように、じっくりと火が通るまで触らないこと。触りたくなるのを、ぐっと我慢して、じっくり待っていれば、自然にちゃんと美味しく焼けますよね。 そう! 料理と子育ては同じ……というのは言い過ぎかもしれませんが、慌てずに見守ることが大事なのは一緒だと思います。
(P.5より)

小学校から中学時代

そんな内田氏のユニークな経験の一つに、「小学校時代、九九をすべて暗記していなかった(全部言えない)」という事実(!?)があります。彼は、九九の答えを導き出すために、足し算を繰り返すという独自の計算方法を編み出していました。

現代社会において、知識の丸暗記より自分の頭で考えて取捨選択したりする能力が重要であるという独自の考え方を象徴していて、「九九を暗記しなくても生活に支障はない」と断言しています。この決断を彼の母親は徹底的に尊重し、「いつかタイミングがくる時まで放っておこう」と見守る姿勢を貫きました(母もすごい…)。さらに内田氏、九九以外にもほとんどの「漢字」も「本を読んで」覚えたそうです

また小中学校時代に不登校だったことで、一般的な教育のレールから外れた内田氏は、自ら考えて「取捨選択」する力が何よりも重要だと気づき、中学時代は近所の個人経営の教室に自ら通い、自分にとって「面白い」と思える分野の勉強だけを重点的に行っていたと語っています。

彼は、学校の授業を「無味乾燥」と感じ、興味や面白さを見つけられないものは学ばなかった一方で、自ら積極的に興味を持つ題材を見つけて学習していたと述べています。この「面白さ」を軸にした学びのスタイルが、彼のその後の人生を形作っていきます。

高校から大学

15歳になった内田氏は、「自分の人生、いよいよ次のステップに進む時が来た」と感じ、突然「高校進学希望」を表明しました(?!)。彼が入学した「県立横浜修悠館高校」は、不登校経験者や40代、50代の社会人など様々な生徒が学んでおり、学習面でのルールの縛りが緩い環境、でも絶対にいじめはなかったそうです。その後はさらに「芸大」受験を決意し、これまた「絶対音感」や「英才教育」を持たずとも「情熱と正しい努力(テクニック)でレイトスターターにもチャンスがある」という強気な考え方で突破

…とはいかず受験では2年連続で不合格となり、人並みに苦労されたとのこと(特にセンター試験の「英語」)不合格後は無気力になってしまい、しかし「思い切ってしっかり休む」期間を設けたことで返って心身をリセットし、能力が向上するという「ブレイクスルー」を経験しました。この経験から、ただ休むことは決して無駄ではなく、むしろ大切な時間だと語っています。

…などなど、不登校の9年間で培われた「自分で考えて取捨選択し、道を切り開く」という経験が、現在の音楽家としてのキャリア形成において、何よりも役立っているという総括的なメッセージを伝えています。それを大好きだというゲームにたとえて「不登校クエスト」と題したようなのですが改めて人生とはその本人にしかない「攻略本のないゲーム」なのかもしれません。

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