前回までで私たちは、不登校の原因、回復への心の地図、そして具体的な居場所・学習・進路の確保の方法を学んできました。
しかしこれらの支援を成功させるため、最後にして”最大の難関”があります。
それが「保護者自身の心理的負担の解消」と、「学校や外部機関との連携」です。
保護者が一人で不登校の全てを抱え込むことは、長期的には親子双方の疲弊を招きます。「親(特に母親)の”笑顔”が子どもの回復を早める」という通説は実によく知られていて、筆者(スガヤ)自身もまずは保護者自身が心理的な安定を得ることがとても重要だと日頃から痛感しています。
この章では、保護者様の負担を軽減し、効果的に支援を進めるための具体的な戦略を解説します。
学校との連携: 支援を妨げる「3つの落とし穴」を避け、信頼関係を築くためのコミュニケーション術。 外部機関の活用: 臨床心理士、スクールカウンセラー、ペアレント・トレーニングなど、親の不安を解消するための専門的なリソース。 子どもの主体性を尊重する声かけ: 登校刺激にならない「共感と質問」の具体的なフレーズ。
この最終章を通じて、保護者が「孤独な闘い(あるいは長期の我慢)」から解放され、子どもの自立に向けた「チーム」として、周囲の社会と協力していく道筋を描きましょう。
1. 学校との連携:支援を妨げる「3つの落とし穴」を避ける
不登校支援において、「学校」は最も重要な連携先の一つです。しかし連携の仕方によってはかえって子どもの回復を妨げ、保護者の負担を増やすことがあります。以下の「3つの落とし穴」に注意しましょう。
落とし穴1: 過度な「再登校」への期待
保護者が学校側に対して「何とかして復帰させてほしい」という過度な期待を抱き、また伝えることで、学校は「登校刺激」を与えやすくなり、結果的に子どもはプレッシャーで心を閉ざします。保護者の体験談でも「先生の”熱心な”訪問のたび、子どもの元気が減り最終的には訪問を拒むようになった」との指摘がありました。
対応策: 連携の目標を「再登校」ではなく「子どもの心の安全と学習の継続」に設定し、学校と共有しましょう。学校がそれでも「再登校」を薦めてくる場合、意識的に一度、連絡を断つことも必要です(ある保護者は、わざわざ子どもに聞こえるように「行きたくなったらこちらから連絡します」と言い切り、電話を切ったそうです。個人的にもファインプレーだと思います。)
落とし穴2: 担任依存と情報不足
担任教師一人に全ての責任や情報共有を委ねることは、担任の負担を増やし、適切な支援を受けられなくなるリスクがあります。
対応策: 担任だけでなく、養護教諭、スクールカウンセラー(SC)、教頭など、複数の関係者と定期的に連携しましょう。子どもの変化(睡眠、食欲、機嫌など)を事実ベースで簡潔に伝える「交換日記」や「連絡メモ」の活用が有効です。特に「担任が独自の教育方針や、逆に”責任”のようなものを抱えている場合は要注意」という指摘をした保護者がいました。あくまで「チーム学校」として、バランスよく連携しましょう。
落とし穴3: 「なぜ行けないのか」という原因追及の対話
学校との面談では、どうしても「原因」についての話題が避けられず、受けてデリケートな責任を追及する議論に陥りがちです。こうなると学校はもちろん、保護者自身が余計に疲弊します。
対応策: 学校との対話は(過去は問わず)「現在から未来」に向け、「事実の確認」と「次の具体的なアクションの検討」に集中しましょう。「今日は何時に起きました」「宿題はどの程度進められそうですか」など、現在を踏まえて未来に向けた具体的な話に終始することで、面談の質が向上します。一方で「子どもの現在」を正しく伝えることは、学校関係者にとっても安心につながります。ここは省略せず、しっかりありのままを伝えてください。
2. 親の心理的負担軽減:外部機関の活用
「親の笑顔が子どもの回復を早める」と言われるのは、実は子どもは言語情報以外に”非言語情報(親の表情やしぐさ)”からより多くの情報を得るからです。なので親自身が”疲れ果てている”状況では、笑顔を見せることはできませんし子どもはより不安になり元気を失います。逆に親が元気でさえいれば、子どもは自ずと元気になっていくものです。不登校支援は「マラソン」の例えもありました。親のメンタルケアは必須ですが、「給水地点(魂の救済)」をくれぐれも欠かさないようにしましょう。
スクールカウンセラー(SC)とスクールソーシャルワーカー(SSW)
学校に配置されているSCは、子どもの心理的な相談だけでなく、保護者自身の心理的な負担やストレスケアについても専門的に相談に乗ってくれます。SSWは、経済的な問題や生活環境の調整など、社会資源の活用をサポートします。これらは無料で利用できる公的サービスです。「申し訳ない」と思うかもしれませんが、「正しい頼り方/寄りかかり方」を子どもに身を持って示すことも、特に不登校からの回復では重要なことです(スガヤ注:そもそもが「自己責任社会」すぎるのです、もっと図々しく生きていきましょう!現状が回復したなら、その”借り”を別の誰かに返せばよいのです)。
臨床心理士とペアレント・トレーニング
家庭外の臨床心理士や専門機関を利用することで、学校や家庭の人間関係から切り離された中立的な立場からのアドバイスを得られます。
ペアレント・トレーニング: 子どもへの接し方や、課題行動への対応方法を具体的に学ぶプログラムです。親自身が行動を変えることで、子どもの行動が良い方向に変化する「支援の技術」を習得できます。これは様々な書籍からでも得られる方法ですが、こと”表情”や”しぐさ”にまで言及するのならば、できるだけ「対面(オフライン)」を利用してみましょう。ある保護者は「これを期に、演劇に目覚めた」などさらに活躍の場を広げています。
3. 子どもの主体性を尊重する声かけ:共感と質問
「見守る」ことが重要だと理解していても、つい「いつになったら学校に行くの?」と言いたくなり…実際に声に出してしまうのが保護者の常(もはや「業」)です。子どもの主体性を引き出し、登校刺激にならないための具体的な声かけの原則を学びましょう。
NGワード:「なぜ」と「いつ」
子どもが最もプレッシャーを感じるのは、「なぜ(原因)」と「いつ(期限)」を問われることです。これらは、子どもが自分を責めたり、親に対して嘘をついたりするきっかけになります(先の回でもふれましたが、「”詰問”のなぜ」と心得ましょう)。
- NG例:「なぜ学校に行かないの?」「いつまで休むつもりなの?」
魔法の質問術:「共感」と「提案」
大切なのは、子どもの感情を否定せず受け止める「共感」と、次の一歩を考える手助けをする「提案」です。
- 共感: 「しんどいんだね」「朝起きるの、すごく大変だよね」
- 事実の確認: 「昨日は夜中まで起きていたみたいだけど、何か面白いものを見ていたの?」
- 提案(選択肢の提示): 「今のしんどさを少しでも楽にするために、何か手伝えることはある?」「午前中に外の空気を吸いに行くのと、午後に少し本を読むの、どちらがいい?」
子どもに「自分で選ぶ」機会を与えることで、失われた主体性を少しずつ取り戻すことができます。特に自信と体力を失っているうちは、できるだけ「Yes/No」で答えられる問いに言い換えることも大切で、「そのため親もトレーニングが必要と思い、「イエス」「ノー」の立て札を作った」というユニークなご家庭もあったほどです。
まとめ:不登校を「孤独な闘い」で終わらせない~緩やかな連携の必要性
この最終章を通じて、不登校からの回復には、子どもの主体的な回復と保護者の積極的な環境調整が必要であることをご理解いただけたかと思います。
そもそも不登校は、決して「家庭」内だけで解決できる問題ではありません(そもそも学校という「社会」との接点や関係での不適合なので)。保護者様が抱える「抑うつ」や「慢性的な高ストレス」といった心理的負担は、子どもに非常にネガティブな情報として伝わり、回復を妨げる要因となります。だからこそ、「親がまず元気になること、そして元気であり続けること」は、何よりも優先されるべき支援策なのです。
学校との連携においても、「待つ」姿勢だけでなく、「できることのフォロー」を積極的に示す学校側の心情を理解しつつ、保護者側からも積極的に情報を提供し、チームの一員となる姿勢が求められます。親子の間の適切な距離感を保ち、周囲の専門家(SC、臨床心理士、ピアサポート)を「頼る」という勇気を持つことが、保護者様自身を「孤独な闘い」から解放します。
だからといって学校の「言いなり」にはならず、「子どもの代弁者(弁護人)」として、しっかり&はっきり意見を伝えることも大切です。保護者の体験として「子どもからの要求を余さずメモに取り、学校に伝えてチェックして、子どもに見せた」ら喜ばれたという方もいました。
不登校は、子どもが自分自身の心に正直になり、真の自立へと向かうための貴重なプロセスです。そして、その道のりを共に歩む保護者自身も、この経験を通じて、強さと柔軟性を獲得することができます。この”強さと柔軟性”は「レジリエンス」とも呼ばれ、今後も続く過酷な「自己責任社会」を靭やかに生き抜く知恵、そして武器にもなります(実際多くの社会人が、「レジリエンス」を身に着けようと勉強し努力しています)。不登校はたしかに大変な期間ではありますが、一方で「人生を生き抜く方法を”先取り”して親子で学んでいるのだ」と考えれば、きっと実りのある期間に変わります。
最後に「不登校を経験して、子どもが親にも他者にも”優しく”接せられるようになった」との体験談を共有します。この保護者は不登校を「辛かったが、良かった」と総括されていました。
次回(「最終回」とは言いましたが…)予告:専門家も活用する「最強の質問術」
全章を通じて、私たちは「なぜ行かないの?」という問い詰める質問(空中戦)が、親子関係をこじらせる最大の原因であることを学んできました。
しかし、では具体的に子どもに「どう声をかければいいのか?」という新たな疑問が生まれます。
次回の特別コラムでは、長年の対話のプロが編み出した「なぜ」と聞かない質問術に焦点を当てます。子どもの「言い訳」を引き出さず、本音と事実を淡々と引き出すための具体的な質問技法を学ぶことで、保護者様のコミュニケーションの質を根本から変えるヒントをお届けします。

