概要
本書『不登校の はじまりからおわりまで』は、児童精神科医として約45年にわたり多くの子どもや家族と向き合ってきた齊藤万比古氏が監修を務めています 。齊藤医師は、児童精神科の専門家として、子どもの心の病気の治療だけでなく、広く子どもと家族の健康と精神保健活動に携わってきた経験から、不登校克服への具体的な道筋と、家族や周囲の適切な支援のあり方について総合、かつ体系的に解説しています 。
不登校に直面したとき、親は「何が起きているのか」と驚き、困惑し、焦りや不安に駆られがちです 。子ども自身もまた、不安、焦燥感、罪悪感、そして怒りといった複雑な感情を抱え、心を閉ざしてしまいます 。
本書が伝える最も重要なメッセージは、大人が焦らず、学校復帰だけをゴールだと考えず、広い視野で子どもの心を支え、育むことを目指すべきだということです 。そのためには、まず不登校について正しく知ること 、子どもの心の状態に寄り添い支えること 、そして不登校克服までの道のり(時間やステップ)を冷静に理解することが大切であると説いています 。本書は、不登校というトンネルの先にある「ともしび」となることを目指して書かれています 。
総合的でわかりやすく、しかし非常に重要なポイントがまとまっているという印象。それでは読み開いていきましょう
不登校とは~学校に行けなくなるまで
不登校の問題に取り組むにあたり、まず現状と、その過程を客観的に理解することが、親の焦りを和らげる第一歩となります 。
「不登校」の定義と現状
「不登校」とは、学校もしくは登校することに対して、恐れ、拒否感、罪悪感、怒りなどの感情や葛藤を抱えながら欠席状態を続けることで、学校生活に参加できず、長期間、家庭内にとどまっている状態のことです 。文部科学省による定義では、病気や経済的な理由による者を除き、年間30日以上欠席した者が該当します 。
文部科学省の調査(令和4年度)によると、不登校の子どもの数は年々増え続けており、小学生では100人に約2人、中学校では100人に約6人という状況です 。小中学校を合わせた不登校児童生徒数は20万人を超え、過去最多を更新しています 。特に、不登校は小学校半ばまでではそれほど多くなく、小学4年生ごろから増加し始め、中学校入学後に爆発的に増える傾向にあります 。中学生になると1クラスに2人ほど不登校の子どもがいる計算になり、決して特別なことではないと言えます 。
不登校の子どもは一見、学校に関心がないような態度を見せることもありますが、その心のうちでは「学校へいかなくてはいけない。でも、いくのはつらい」という激しい葛藤に揺れています 。周囲が不登校に対して寛容になったことで、以前のように激しい感情を表面に出さずに家庭にいるケースも増えましたが、心の中のつらい気持ちに変わりはありません 。
不登校の始まりから乗り越えるまでの4つの段階
不登校は、特定の出来事だけでなく、本人の性格、家庭環境、学校や友人関係などが複雑に関わり合ってはじまります 。その始まりから社会生活への参加に至るまでの道のりを4つの段階に分けて解説しています 。
- 兆候段階:不登校が本格的に始まる前、本人の内面でつらい葛藤がある時期です 。頭痛、腹痛、だるいなどの身体症状を訴える 、不安や緊張が高まる 、気分が落ち込む といったサインがあらわれます。家族や周囲の人がこのサインに気づき、おだやかに声をかけ話を聞く姿勢を示せば、不登校に至らずに落ち着くこともあります 。
- 開始段階:連続して登校しなくなる時期です 。子どもの心には激しい葛藤が起こり、不安や焦り、イライラなどの情緒的な動揺や気分の落ち込みが目立ちます 。幼児のように親にしがみついて甘えたり、逆に暴力的な言動を示したりと、精神状態が不安定になりがちです 。学校を休んでいることへの罪悪感もあらわれます 。親にとっては「突然の出来事」と感じられることが多いですが、親が冷静さを保ち、担任教師やカウンセラー、夫婦で話し合うことが大切です 。
- 継続段階:精神的な不安定さがおさまり、不登校に腹をすえたように見える時期です 。家族も不登校の状態に慣れてきます 。外に出ることには強い恐れを抱いていますが 、夜のコンビニへの買い物や親の運転する車での外出など、少しずつ社会との接触を再開することもあります 。一日中ゲームやSNSと向き合う子どももおり、これらを社会とのつながりとして頭ごなしに否定しないことが大切です 。
- 社会との再会段階:少しずつ学校や社会との接点を求めるようになる時期です 。子どもが自信を取り戻し、社会へ参加する意思を持てるようになることが期待されます 。しかし、親や教師が「強い態度で登校を促す」「無理に社会とつなげようとする」といった動きをするのは逆効果です
乗り越えるまでの道のりは「年齢」により異なる
不登校を乗り越える道のりは、子どもの年齢によって異なる特徴があります
- 小学生:比較的乗り越えるのが早い場合もあります 。年齢が低いと家族や教師からの思いやりのある言葉に反応しやすく 、クラス替えや進級などで人間関係に変化があると立ち直れることもあります。
- 中高生以降:学校や教師からの働きかけへの抵抗が強まり、家庭でも扱いが難しくなります 。特に中学生は人生で最もひきこもりやすい年代であり 、長期的な不登校かひきこもりになってしまうケースが多いです 。年長になるほど、長期化した不登校やひきこもりへの支援は難しくなります
乗り越えるには数年かかることも
不登校を完全に乗り越え、自分らしい生き方を見つけるまでには、数年間かかることもめずらしくありません 。親が早期の克服を期待し焦っていろいろな手を尽くすと、かえって遠回りとなることがあります 。親が焦れば焦るほど、親子ともども落ち込んだり深みにはまったりすることがあるため、無理な目標を立てず、子どもがゆっくりと自分のペースで乗り越えていく姿勢を見守ることが重要です 。
親や周囲の人は、腹をくくってじっくりと対応していれば、社会に出ていく意欲がいずれ子どもに生まれてくるはずです 。不登校の最終的なゴールは、学校復帰や将来の就労ではなく、「子どもが自分らしい生き方を見つけること」であることを忘れずに見守りましょう 。
学校に行けなくなる「理由」(心理的/身体/社会的要因)
子どもが学校に行けなくなる原因は単一ではなく、複数の要因が複雑に絡み合っています 。その要因を知り、子どものタイプを把握することは、適切な支援の手がかりとなります 。
5つの「不登校タイプ」
本著では子どもを理解し支援の方向性を予測する上で、行動傾向を5つ二分類しています。
- 過剰適応型:不登校のうち最も多いタイプ 。環境に合わせて背伸びをし、平気さを装って頑張り続ける子どもです 。失敗や傷つくことを過剰に恐れるため、不安が増大するとこれ以上傷つくまいと登校できなくなります 。教師や親の賞賛を得るために頑張る 、仲間に必要以上に気を使う 、孤立することを嫌う といった特徴があります。
- 受動型:まわりの人の迫力や強がりに圧倒され、耐えられなくなって不登校に 。むやみに盛り上がり騒々しい仲間に萎縮してしまい 、意見も言わず目立たないように行動します 。叱られたくない、攻撃されたくないという思いが強く 、何か指摘されたりすると萎縮してしまう 、とにかく注目されることを避ける のが特徴です。
- 受動攻撃型:大人の手助けや解決策の話し合いに反発はしないものの、表面上了解したように見せて、結局は解決に向けた努力をしないタイプ。目立った自己主張はしませんが 、「権威ある人には従わない」という形で主張しています 。人の指示は先延ばしにする 、頑として動かなくなる 、変化を望まない といった特徴があります。
- 衝動型:思春期特有の集団のバランスになじめず、仲間から排除されやすいタイプ 。なんでもやりすぎる 、おしゃべりで秘密が守れない 、自己中心的な言動を繰り返す ことがきっかけで孤立します 。仲間に入れてもらおうと必死に頑張るが、思うようにならないと怒りを爆発させる といった特徴があります。虐待を受けた経験のある子どもも含まれていると見られています 。
- 混合型:これまでの4つのタイプのうち、複数の特徴を併せ持っているタイプ 。衝動型と他の型の混合型が多く 、「衝動型+過剰適応型」「衝動型+受動型」などが見られます 。このタイプには発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症など)が見られることがあり 、情緒のコントロールや衝動的な行動が苦手なために仲間に受け入れられないケースも少なくありません 。
心理的要因
不登校の背景にある心理的要因は多岐にわたります 。
- 友人関係:思春期特有の仲間との葛藤や、SNS上のミスコミュニケーションなどが大きな苦悩となります 。
- 大人への反発:身近な大人(家族や教師)への不満、疑問、嫌悪などの反発の気持ちが増大します 。大人の高圧的な態度や理不尽な言動、狡猾さやみじめな姿を目の当たりにして、失望や落胆の気持ちを抱くようになります 。
- 自尊心の低下や自己否定感:失敗や挫折を経験し、親や教師から能力を否定されたと感じることで、自尊心を失い自己否定に陥りやすくなります
- 進路の悩み、成長への不安:進路が定まらないことへの不安や、ホルモンの影響による心身の変化、ジェンダー問題などへの違和感から成長への不安を抱えます 。
- コンプレックス:容姿や性格、理想の自分とのギャップなどへのコンプレックスから、過剰に他人の目を気にするようになります 。
- 相談できる相手がいない:悩みやトラブルを自分の言葉でうまく伝えられず、親や教師などに相談できないままひとりで苦しみ、孤独感をふくらませていきます 。
身体的要因
子どもが「頭が痛い」「だるい」「お腹が痛い」などの身体症状を訴える場合、親は真摯に向き合うことが大切です 。仮病を疑ったり、頭ごなしに「ストレスのせい」と決めつけたりするのは危険です 。身体症状は重大な病気の前兆である可能性もあるため、まずは医師の診察を受けることが推奨されます 。
重篤な病気がないにもかかわらず体調不良が続く場合は、心理的なストレスによる症状である可能性が高いです 。特に起立性調整(節)障害は、思春期前後の子どもによく見られる症状で、自律神経のバランスが崩れ、朝起き上がれない、めまい、頭痛、倦怠感などの複数の症状が現れます 。身体症状が続く場合は、心の病気や発達障害の関連も視野に入れ、専門医の受診を検討することが重要です 。
社会的要因
不登校の子どもが増えている背景には、社会の変化も考えられます 。
- 多様な価値観が認められない:現代は成功や幸せの形が多様化している一方で、「いい学校、いい会社」といった画一化された価値観も根強く残っています 。大人でも多様な価値観を認め合えていない中で、子どもは多様な価値観と溢れる情報に混乱し、精神の安定を崩してしまうことがあります 。
- 学校に行くことへの葛藤:「精神的に苦痛が強いならば学校にいかなくてもいい」という考えがある一方、「子どもは学校にいくべきだ」という考え方も根強くあります 。この葛藤の中で育っている子どもは多く、不登校になったことで挫折を感じ、深く傷ついています 。
不登校中の子どもの心と生活
不登校中の子どもは、学校に行けない、外に出られない状態にあり、心は傷つきやすく、不安や恐怖を感じています 。この時期の子どもへの接し方が、その後の回復に大きく影響します。
言ってはいけない~親の何気ない言葉が心の傷に
不登校の子どもに対して、親がつい発してしまう「怠けているのではないか」「甘えているからだ」といった何気ない言葉が、子どもには深い傷になることがあります 。親の焦りからくるこれらの言葉は、子どもに不信感や深い傷につながる危険性があります 。
- 親の焦り:不登校を「怠け」や「甘え」だとするのは親の焦りであり 、子どもにそのままいうのは百害あって一利なし
- 問い詰めや叱咤激励:「どうして学校に行かないの?」「あんたは頑張っていない」といった言葉は子どもを追いつめ、自己否定感を強める
なかで親がすべきことといえば、子どもを信じて待ち 、家庭が子どもにとって安心できる環境になると、子どもは心を開くようになります 。登校できない理由を問いただす姿勢は、子どもを追いつめることになると承知しましょう 。
不登校の状態
不登校中の子どもによく見られる具体的な様子を理解しましょう。
- 「外出するのが怖い」:外に出ると他人から非難されるような気がしたり、失敗するのではないかと感じたりし、不安や恐怖を感じます 。体調が悪くなったり、頭痛、腹痛などに襲われたりすることがあります 。電車に乗ると具合が悪くなるケースもあります 。なんらかの理由で外出が怖くなった子どもに対し、親は問いつめたり無理をさせたりせず、まずそのつらさを理解してあげることが大事です 。
- 「他人の目が気になる」:不登校の自分を批判しているようで、強いストレスを感じ、精神的に落ち着かず心身ともに疲れてしまいます 。心の病気のひとつに社交不安症があり、その症状に対人恐怖や視線恐怖などがあります 。
- 「生活リズムが乱れる」:昼夜逆転しやすい状態です 。昼間は親から登校を迫られないよう寝て過ごし 、夜中にゲームやインターネットに熱中することがあります 。昼夜逆転は体のリズムを調整する機能がうまく働かなくなることにつながります 。
- 「気分が沈みやる気が起こらない」:自信をなくし、自己否定的で悲観的になりがちです 。将来を悲観したり、まったく社会生活に参加しようとしなくなったりします 。むやみに励ましたり登校を無理強いしたりせず、その子の憂うつな気持ちを受け入れ、認めてあげることが大切です
生活リズムを整える具体的な方法
不登校が長期化すると、昼夜逆転の生活から抜け出すのが困難になりますが、この悪循環を断つためには、時間をかけて生活のリズムを直す必要があります 。親は登校してほしい気持ちを抑え、「すぐに登校や外出を強いられることはない」と子どもが安心できることが大前提です 。
子どもに少し余裕が出てきたら「体のために」と提案し、以下に取り組んでみましょう
- 朝、日の光を浴びる 。
- 何時に何をするか、子どもが自己決定する 。
- 一緒に家事をしてみる 。
- 近隣の散歩などの外出にチャレンジ 。
- スマホなどの電子機器を夜遅くまで使用しないようルールを決める 。
- 夜更かしをしないで早めに体を休める 。
インターネットやゲームに熱中してしまうときは?
インターネットやゲームは、不登校の子どもにとって最も手軽な居場所や逃避手段となります 。熱中することで時間を潰すことができ、SNSやオンラインゲームを通じて社会との接点やつながりを持つこともできます 。親から見ると困った行動かもしれませんが、頭ごなしに否定しないことが大切です 。
しかし昼間の活動ができなくなるほど深夜までやめられないと、昼夜逆転の生活を招き、体のリズムを大きく崩してしまいます 。また、有害なサイトや犯罪に巻き込まれるリスクもあります 。親は時間と金銭のコントロールに工夫を凝らし、子どもと話し合って夜更かしをしないなどのルール作りが必要です 。家族以外の友人などとのコミュニケーションの機会を、できるだけ干渉せず見守りましょう 。
家族ができること
不登校を乗り越えるには、家族の関わり方と心構えが何よりも大切です 。親は過度な責任を感じず、子どもを信じて見守る姿勢を保つ必要があります 。
責任を感じて家族だけで解決しようとしない
不登校の解決を家族だけで行おうとせず、学校や周囲の人、専門家と協力し、子どもの自立と社会への接点を模索する必要があることについて書く 。親の力にも限界があるため、学校の教師、医師、カウンセラー、周囲の人といった多様な人たちとの協力を得て、子どもの自立と社会への接点を模索する必要があります 。
不登校は親の責任か?
不登校になったとき、多くの親は「自分の育て方が悪かったのでは」と責任を感じ、自分を責めてしまいがちですが 、不登校は親の責任だと断定することはできません 。親は子どもの気持ちと状態を全面的に受け入れる姿勢が大切であり、過剰な心配や過干渉は、子どもが心を閉ざす原因になる可能性があることについて書く 。親は、子どもが不登校になりやすい家族構成があることを知り 、子どもの気持ちを受け止め、認めてあげることが重要です 。
心と体のお休みが必要
子どもが登校拒否や罪悪感を抱いているとき 、彼らの心と体は限界に達しています。まず必要なのは、心と体のお休みです 。
- 「休むこと」を認め、期限をつけない:親は焦らず、子どもの「休むこと」を認めて期限をつけずに見守る
- 「心と体のお休み」を奨める:子どもが「学校へ行きたくてもいけない」という強い葛藤を抱えているときは 、「心と体のお休み」を奨め休むことの罪悪感がなくなるように手伝う
叱咤激励は逆効果
子どもに対して「頑張れ」などの叱咤激励は逆効果です 。子どもは既に頑張りたいのに頑張れないつらい気持ちでいるため 、励まされると、それをプレッシャーと感じ、不登校状態を強めてしまいます 。親は、子どもが既に頑張っていることを承認し 、共感をもって接することが大切です 。
親に依存的なのは自然なこと
不登校になって子どもが親に依存的になるのは自然なことです 。特に母親に対しては、幼児返りのように甘えた行動をとったり 、逆に攻撃的な態度を示したりすることがあります 。特に母親は、子どもが乳幼児のように甘えようとする行動を、きっちりと受け入れることが大切です 。依存的な状態を否定せず、「今はエネルギー充電期間だ」と捉えましょう 。父親は母親を支え、母親がリラックスできる時間を作ることに協力し、家族のバランスが崩れないように支え合うことも重要です 。
子どもに伝えたいこと
親は子どもを勇気づけ、自己肯定感を高めるメッセージを積極的に伝えましょう。
- 自己肯定感を高める言葉:子どもに自信を失わせないよう、自己肯定感を高める言葉をかける
- 安心感を伝える言葉:「今は学校にいかなくてもいい」こと 、「いずれ自分から動きたいと思えるようになったときには手伝える」ことを伝え続ける
家族に完全に心を閉じているとき
子どもが家族に完全に心を閉じているときは、家族がどんなに助言しても受け入れられないケースがあります 。子どもの心を尊重しつつ、親族や専門機関に相談し、家族の関係を見直す「家族療法」を検討すべきです 。家族療法は、家族のコミュニケーションや関係性を見直し、家族全体が問題解決能力を高めることを目指す治療法です 。
多様な夢を前向きに受け止める
親は子どもの多様な夢を前向きに受け止め 、「良い大学」や「良い会社」といった固定観念にとらわれず 、柔軟に支援することが大切です 。不登校を機に、会社設立 、ボランティア活動 、研究職 、副業 、旅行 など、多様なキャリアの選択肢を支援しましょう 。親自身が既存の進路以外の可能性に目を向け、子どものやりたいことを尊重し、子どもが自分の意見で進路を決められるようにサポートすることが、子どもの自立を促します。
学校や社会とのつながりと適切な支援
不登校の克服には、家族の努力に加え、外部の専門的な支援を適切に利用し、学校や社会とのつながりを保つことが不可欠です 。
適切な支援が必要なわけ
不登校が長期化すると、子どもは社会生活から遠ざかるほど再開が難しくなり、不登校の状態に応じて適切な支援が段階的に必要となります 。特に義務教育が終わると支援が途切れやすいため 、早めに適切な支援システムを組み立てることが重要です 。
段階に応じた支援~支援の準備と注意点
不登校の状況に応じた段階的支援が必要です 。
・開始段階:不登校のはじまりや心の病気が疑われる場合 、親は焦らず自分の気持ちを冷静に保ち、子どもの状態に寄り添う 。次に担任教師やスクールカウンセラーと話しあったり、身体症状がある場合は医師の診察を受ける 。
・継続段階(個人・家族支援中心の段階):個人心理療法や家族療法を中心に、子どもの不安や自己否定感、家族のコミュニケーションの問題に取り組む 。フリースクールや居場所の確保を検討し、社会との接点を絶やさない 。
・社会との再会段階(集団や社会参加の試行段階):回復期に入り、子どもが外の世界に目を向け始めた時期 には集団療法 、特にフリースクールや適応指導教室などへの参加を通じて段階的に集団生活や社会参加を試みる 。
適切な支援のための機関
適切な支援のための機関には、それぞれの役割と支援内容があります 。
- 医療機関:精神科、心療内科、児童精神科など 。心の病気や発達障害の診断と治療(薬物療法、心理療法など)を行います 。不登校の背景に精神疾患がある場合は、まず医学的治療を優先します 。
- 教育機関:教育センター、学校のスクールカウンセラー、適応指導教室、学びの多様化学校など 。カウンセリングや学習支援、居場所の提供を行います 。学校との連携の中心となります 。
- 福祉機関:児童相談所、ひきこもり支援センターなど。より深刻な問題への対応や、生活支援を行います 。
- 特定非営利組織(NPO)や民間団体:フリースクール、親の会、自助グループなど。多様な居場所の提供、学習サポート、親同士の交流と情報提供、社会との接点作りを行います 。
学校から来てもらえること
不登校が長期化している場合、学校の担任教師による家庭訪問は、子どもと学校の接点を保つための大切なパイプとなる可能性があります 。
まとめ
本書は、不登校という困難な状況にある子どもと家族に対し、真の理解と支援のあり方を示した一冊です。本書で一貫して強調されているのは、不登校の子どもを理解し、寄り添い、支えるという姿勢です 。親は焦りや不安からくる「叱咤激励」や「問い詰め」を避け 、子どもの心と体を休ませることを優先し 、無条件の肯定と信頼を伝え続けることが大切です 。また、不登校の原因は家族だけで解決できる問題ではないため 、外部の専門家の力を借りて連携体制を築くことの重要性が総括されています 。
不登校を乗り越えることの最終的な目標は、学校復帰や社会復帰といった外形的なゴールではなく、子ども自身が自分らしい生き方を見つけることです 。子どもが自分らしい生き方を見つけ、それを精一杯送れるようになることこそが、最も大切な子どもの人生だと本書は伝えています 。
子どもが不登校を乗り越える過程で、時に前段階に「逆戻り」してしまうことがあっても、それは子どもが葛藤し、頑張っていることの証であり、決して後退ではありません 。親は、その「逆戻り」を自然なこととして受け止め、焦らず見守る姿勢を保つことが大切です 。子どもが持つ回復力を信じ、家族全体で一歩ずつ進んでいきましょう 。