
概要
本書『元・しくじりママが教える 不登校の子どもが本当にほしがっていること』は、一般社団法人家族心理サポート協会 代表理事である鈴木理子氏が、自身の経験と心理学に基づき、不登校の子どもを持つ親への具体的な関わり方とその心構えについて説いた一冊。
著者は娘が中学3年生の夏に突然不登校になったことをきっかけに、親子の関わり方を心理学をベースとして深く学び、見直しました。そして、同じように苦しむ親御さんたちをサポートするために日々活動しています。
これまでに600人を超える親御さんたちの相談に乗ってきた実績を持ち、著者の講座は学校への復帰よりも家族関係の修復に主眼を置いているのが特徴です。その結果、受講後1年で約93%が復学・就職を果たしているという驚くべき成果を出しています。
https://family-ties.jp/2025/05/27/delay-in-studying/
しかし著者が伝える不登校問題のゴールは、単に子どもを学校に戻すことではありません。本当に目指すべきは
・親子の関係が心地良いものとなり、子どもと親のそれぞれが自分の人生を大切にできるようになること
・不安と焦りの中で「子どもの人生が終わってしまう」と追い詰めず、受け止め寄り添うこと
なにより親として、仮に子が不登校でなくても「親子の関わり」の根本を問い直す良い機会となり、大変勉強になりました。以下、いわゆる「付箋立ちまくり」状態からの、いつもより少し長い感想文となります(ご容赦ください)
不登校になったらどうするか?
子どもが突然学校に行かなくなったとき、親は「何がいけないの?」「どうしてなの?」と原因を探ろうと躍起になりがちです。しかし、著者は「不登校は決して親個人のせいではない」と断言し、まずは自分を責めないでほしいと強く訴えかけます。そして、不登校には表面的な理由の裏に隠された本質的な3つの理由があることを解説しています。
- 潜在意識への「学校=イヤなところ」という刷り込み:学校生活における小さな「イヤなこと」が積み重なることで、「学校はイヤなところだ」というイメージが潜在意識に刷り込まれてしまう。これは「パブロフの犬」の現象と同様に条件反射のようなもので、学校について考えるだけで体が動かなくなってしまう状態です。
- 強い自己否定感への直面:不登校の子どもたちが共通して持っているのは、「自分はダメだ」「期待に応えられない」といった自己否定感です。まじめで優秀な子ほど「○○でなければならない」と自分を追い詰め、それができないことに絶望してしまいます。この危機に直面したとき、自律神経のブレーカーが働き、最悪の苦痛を避けるために仮死状態のようにフリーズする、という反応を示します。著者娘さんが訴えた「身体が鉛になったみたい」という感覚は、まさにこの「フリーズ」の状態であったと振り返っています。
- 学校というシステムが現代の子どもたちに合っていない:日本の教育制度は、生徒を兵隊にする「徴兵」を前提とした明治時代の「学制」がベースとなっており、「整列!」「右向け右!」など軍隊の教練そのものです。上の命令をスピーディに伝える「上意下達」が基本のこのシステムでは「個性」を発揮する余地がなく、個性の時代である現代の子どもたちのあり方と合っていません。
つまり子どもは「行かない」のではなく「行けない」状態にあり、本人に理由を問いただすことには意味がないと結論づけています。
やってはいけない”3つのNG行動(親の関わり)”について
不登校という事態に直面したとき、当時の著者を含む多くの親は、なんとか子どもを学校に行かせようと焦り、「しくじり」に繋がる行動を取ってしまいます。その**3つのNG行動(やってはいけない声かけ)は以下
- 説得する:まずは「みんな頑張っているから頑張ろう」「とりあえず行ってみよう」などと説得を試みます。
- 説得が受け容れられなかったことに怒る:説得が通じないと、「誰が学費を払っていると思うの?」「子どもの仕事は学校へ行って勉強することでしょ!」と怒ります。
- 脅す(叱る):怒っても効果がないと、「将来、まともな仕事に就けなくなるよ」「一生、家にいるつもり?」と脅すような言葉で迫ってしまいます。このとき親には脅している自覚がなく「取り返しのつかないことになる」と伝えたいだけなのですが、子どもは「心配してくれている」とは受け取らず、脅されていると感じてしまいます。
特に、親が日課のように問いかける「明日は学校に行くの?」という質問は、子どもにとって「行かない」という選択肢がないため苦痛であり、たとえ「行く」と答えても、翌朝起きられなければ親は「ウソをついた!」「行く行く詐欺だ!」と憤り、母娘関係は悪化の一途をたどります。
これらがなぜNG行動なのかというと、子どもは「行きたくても行けない」状態であり、これらの行動は子どもに「怒らせちゃった。やっぱり自分はダメなんだ」とますます自己否定感を強くさせてしまうからです。この悪循環は、不登校の解決を遠ざける最大のリスクとなります。
「発達障害グレーゾーン」とは?
不登校が長期化したり、親子の対話がうまくいかなかったりすると、親は「子どもの身体か心のどこかに悪いところがあるんだ」と考えるようになり、病院巡りを始めます。その結果、「発達障がいグレーゾーン」と診断されるケースがとても多いのです。
「発達障がい」とは、脳機能の偏りによって社会生活が困難になっている状態で、自閉症や学習障がいなどを指します。その「グレーゾーン」とは、「発達障がいの特性が見られるものの、診断の基準をすべて満たしているわけではない」という意味です。
親としては、理由がはっきりせず苦しんできた分、診断されると「障がいなら仕方がない」と自分を納得させることができ、安心感を覚えます。しかし、著者は、診断をくだすのが医師に限らないほどあいまいな基準であること、そして多くの不登校の子どもは病気ではないと考えていることを指摘します。
発達脳科学者の成田奈緒子先生は、不登校の子どもたちに多く見られる症状は、発達障がいではなく「発達障がいもどき」の子どもたちだと提言しています。具体的には、注意の欠陥、多動、集中力がないといった発達障がいと同じような傾向が見られても、それは脳機能の偏りではなく、主に「睡眠が足りていない」症状。特に不登校の子どもは、夜中にスマホやゲームで心の苦しさを紛らわせるため、睡眠に大きな影響が出ています。
著者が都内の有名大学病院の精神科の先生から言われた「子どもの精神病は、ほとんどないと思っています」という言葉からも、病院巡りをして病名を付け、薬を処方してもらうことには意味がないと結論づけています。親が自分を安心させるために病名を付けてもらうのはやめようと強く訴えかけています。
結論!理由を聞かずに休ませる
子どもが不登校になったときの最も効果的な対処法は、シンプルに「理由を聞かずに休ませる」こと。親が「サボりではないか?」という疑念に駆られたとしても、それは一旦脇に置く必要があります。
学校に行きたがらない子どもにとって、まず何よりも必要なのは安心安全な場所、つまり「セキュアベース(安全基地)」です。セキュアベースとは、自分が自分らしくいられる場所であり、不登校の子どもにとっては、自分が否定されない家庭こそがセキュアベースになるべきです。
家庭をセキュアベースにするためには、親がゆったりと構え、子どもを否定せずに無条件で受け容れて、安心安全を体感させることが大切です。これにより子どもは「私はこのままでいいんだ」と思えるようになり、フリーズ状態が解かれて徐々に動けるようになっていきます。
「家の中があまりに居心地がいいと、かえって引きこもりになるのではないか」と心配する親もいますが、引きこもりは外だけでなく家の中も怖く、「親はお荷物だと思っているに違いない」と絶望している状態です。だからこそ、「この家があなたの居場所だよ、家にいれば安心だよ」ということを伝えるために、まずは学校に行かないということを受け容れて、何も言わずに休ませてあげることが必要です。
親は、子どもとの関わりの中で「あなたを尊重しているよ」「あなたが何を言っても何をしても、私たち親はあなたを無視しない」「大事に思っているよ」という無条件に受け容れる態度を絶対に欠かしてはいけません。また、「世界にはもっとつらい子がいる」「親に面倒を見てもらえないと生きていけない学生なんだから、せめて学校ぐらいはきちんと行くべきだよ」といった正論をぶつけることも、子どもを追い詰め、自己否定感を強くさせるので、絶対に避けるべきです。
5つの行動傾向との向き合い方
不登校の子どもたちは、強い自己否定感に直面した結果、親を悩ませるさまざまな行動を起こします。著者によれば5つの傾向があり…
傾向①自分の殻に閉じこもる
この傾向の子どもは、自分の部屋から出てこず、家族とのコミュニケーションを断ち、日常のごく当たり前の行動(食事、お風呂など)すら周囲との関係をシャットアウトするタイプです。部屋をのぞいたり刺激したりすると、攻撃的になることもあります。
ただし、この行動傾向は不登校の子どもすべてに当てはまるわけではありません。著者娘さんのように、学校には行けないけれど推し活やアルバイトには参加できるという子も珍しくありません。これは子どもたちが拒否反応を覚えているのはあくまで”学校の授業やクラス単位の活動”であって、他人とのコミュニケーションではないからです。学校でも家でもない、安心安全なセキュアベースを自分なりに見つけていることもあるのです。
対処法は大きく分けて2つあります。
- 親の不安げな様子を見せない:非言語を読む天才である子どもは、親の不安を敏感に感じ取り、自己否定感を強めてしまいます。不安を伝えないためには、子どもの心配ばかりせず、親が自分自身のことに目を向け、いたわることが重要です。親が自分の人生を楽しんでいれば、その安心感が子どもに伝わり、「自分も人生を楽しんでいいんだ」と考えられるようになります。
- 子どもを受け容れていることを伝える声かけ:過干渉でも放置でもなく「見守る」ことが大切です。具体的には、朝・昼・晩、ドアの外からでも名前を呼んであいさつをしたり、「ご飯ができたわよ」と声をかけたりするなど「あなたを大切に思っているよ」という想いを伝えることです。部屋から出てきたら、「起きられたんだね」「ご飯を食べる気になったんだね」と事実だけを言葉にすることで、ほど良い距離感で向き合えるようになります。
傾向②暴言・暴力について
暴言や暴力は、子どもの強い自己否定感によって感情が乱れた結果、自分を保つために身近な相手(家族)に怒りをぶつけたり、攻撃したりしていると考えられます。本人はそれが「間違ったこと」だとわかっているため、罪悪感からさらに自己否定感に苛まれ、悪循環に陥ってしまいます。
暴言には、「勝手に生んだんだから責任取れ!」「お前のせいで学校に行けなくなったんだから、一生面倒を見ろ」といった、親を責めたり人格否定をしたりする言葉が含まれます。さらにエスカレートすると、壁に穴を開けたり、包丁を突きつけたり、殴る蹴るなどの暴力に発展することもあります。
対処法は次の通り
・暴言も最後まで聞き切る:親は自己防衛のために子どもの言葉を遮りがちですが、暴言の中に大切なメッセージや「親にわかってほしい」という気持ち、あるいは「理解するためのヒント」が隠されていることも多いからです。親が遮らずに聞くことで、子どもの自己否定感を和らげるチャンスになります。
・暴力は毅然とした態度で「受けない」:暴力は子どもの罪悪感を強め、さらなる自己否定感を募らせる悪循環を招くため、きっぱりと距離を取り、受け止めてはいけません。親は「あなたのつらい気持ちはわかるけれど、それと暴力をふるうことは違う。冷静に話ができないのなら、家を出るよ」と毅然とした態度で伝え、一旦外出して子どもが落ち着くのを待つのが良いでしょう。
・暴言・暴力のスイッチを探す:暴言や暴力が発動する**「スイッチ(地雷)」**を探ることで、親はその「地雷」を踏むことを避けられます。子どもが冷静なときに「あなたを理解したい」という誠実な態度で聞くことも有効です。
傾向③幼児返り
学校に行かなくなった子が、急に幼い子のような言動(過度なスキンシップ、べたべた甘える、無茶な要求、癇癪など)を繰り返すようになることを「幼児返り」と言います。この行動は、ほとんどの場合、母親に対して向けられます。また、親の愛情を試すための「試し行為」もよく見られます。この行動は、ストレスから心身のバランスを保つための「心の防衛機制」の一つである「退行」が働いた結果です。子どもは、受け容れがたい状況に直面したときに発達段階をさかのぼり、幼かった頃に満たされなかった愛情を取り戻そうとしています。
対処法としては、「小さい頃の子育てをやり直させてもらえる、貴重なチャンス」だと捉えてみましょう。
・幼児返りの理由を理解する:親が愛情をかけていたつもりでも、子どもの「愛情を受け取りたい」思いと異なっていれば意味がありません。幼児返りは、子どもが抱える満たされない気持ちを知り、将来「インナーチャイルド」に苦しむことを防ぐ機会と捉えるのです。
・子どもを安心感で満たす:急に甘えてきても拒否せず、戸惑わずに受け止めてあげることが大切です。単に要求に応えるだけでなく、「小さい頃にもっと甘えたかったんだね」と、子どもの気持ちをしっかり受け容れてあげることが何よりも重要です。
なお著者は「(自身の)仕事については慎重に」と述べ、子どもに応えようと母親が”仕方なく”仕事を辞めてしまうと、その思いが子どもに伝わってしまい、本当の意味で寄り添うことにはなりません。仕事を続けたい場合は本心を子どもに伝え、限られた時間でも真摯に子どもの気持ちを受け止めることが重要です。
傾向④強迫行動
強迫性障害とも呼ばれ、過度な不安やこだわりがあるために日常生活に支障が出る現象です。具体的には、
・不潔恐怖(不潔さを恐れてしつこいほど手洗いを繰り返すなど)
・儀式行為(自分の決めた手順にこだわる、同じ手順を繰り返すなど)
・運動強迫(食べ過ぎた分を痩せなければいけないと何時間も運動を続けるなど)
などがあります。これらの行動は、すべて自己否定感から引き起こされています。子どもは「自分はダメだ」「完璧にやらないと価値がない」といった思い込みに囚われているのです。
対処法
- 気が済むまでやらせる:強迫行動は、強い不安が原因で起きています。親がやめさせようとすると、かえって不安が増して**「やめたくてもやめられない」**という苦痛が増し、逆効果になってしまいます。そのためあえてやめさせようとしないで気が済むまでやらせることが大切です。
- 子どもの行動を否定しない:子どもは自分の感情を受け容れられず、自己否定感を抱いています。だからこそ行動を否定せずに安心感を与える言葉がけをしましょう。たとえば、手洗いを何度もしている子には「手、キレイになった?このクリームが手荒れに効くよ」など事実だけを承認する声かけをします。
- 使うものを家に置かない:強迫行動に使うもの(石鹸など)があれば、それを目の前から取り上げたり捨てたりするのではなく、新しいものを置かないことで、できない状況を作ることが有効です。
親を苦しめる「呪い」の真実
不登校の問題解決には、子どもの行動傾向への対処法だけでは不十分です。子どもの自己否定感を強めずに「見守る」ためには、親自身の心にこそ着目し、その心の平穏を取り戻す必要があります。
子どもより、”あなた(保護者)”の心は平穏か?
不登校になった子どもが出できた場合、それは子どもだけの問題ではなく、家族全体の問題と捉えてみましょう。家族が健全に機能するには、親/子ども世代など「世代間の境界線」が明確である必要があります。親子の境界線が曖昧な「親子友だち連合」状態では、子どもが親の非言語を読み取り感情と同化してしまい、自立が難しくなります。
問題解決のためには、まず親自身(特に母親)が自分の心と向き合い心の平穏を取り戻すことが不可欠です。学校は変えられませんが、家庭は変えられます。家庭を子どもにとってのセキュアベースにするためにも、まずは親が自分の心のあり方を振り返ることが大切です。
「すべき」「せねば」思考が心を乱すについて
親の心を乱し、苦しめている正体こそが、幼少期から刷り込まれてきた
・…すべき(べき)
・…せねば(ねば)
という口癖または思考のクセ、すなわち「呪い」であると著者は定義します。これは親が自分を縛り、悩みや苦しみを自ら生み出している状態です。
「呪い」の起源は、親が子どもだった頃に遡ります 。「とにかく頑張れ」「迷惑をかけるななど(割と昭和的な)教えが元で、子どものなか「つまりお母さんを笑顔にするには…」で変換され、その思考クセがそのまま子どもに刷り込まれ子どもも「自分はダメだ」という自己否定グセ(=呪い)に陥ってしまうのです。
リミッティング・ビリーフに気づこうについて
「呪い」は、自分にネガティブな制限をかける思考、すなわち「リミッティング・ビリーフ」として心の奥底に潜んでいます。社会が生み出した「呪い」として、たとえば以下の例があります。
- 頑張らないと価値がない
- 立派な学歴を手にいれなければならない
- 時間(ルール)を守らなくてはならない
- 自分より他人を優先するべき
- 人に迷惑をかけてはいけない
特に「頑張らないと価値がない」という呪いは、親が頑張りすぎることで子どもにも伝わり、子どもは「頑張らなくていい」という自分を否定することにつながります。
リミッティング・ビリーフを緩めるためのステップとして、まずは「自分がどんなリミッティング・ビリーフを持っているか?」に気づくことが大切です。次にその起源が、親や先生など大人の影響によるものであると踏まえ、改めてリミッティング・ビリーフを子どもにも押しつけないように気をつけます。
またセルフイメージを高めることも重要です。セルフイメージとは、自分が抱いている自己像のことで、「私は私のままでいい」と自分を受け容れることができると自己肯定感が高まり、子どもにも良い影響を与えます。
「呪い」からの開放で世界が変わる
「呪い」からの解放は、自分の「べき/ねば」思考に気づくだけでは終わりません。長年の思考のクセから解放されるためには、時間と努力が必要ですが、まずはシンプルなこと(自分の人生を充実させる)を試す努力が必要です。
著作内では、親が自分の人生を充実させる行動を起こし子どもの心の問題を自分のせいにしない(「子どもには何も問題がなかった」と認識する)ことで、親子関係が改善した事例を紹介されています(※詳しくは本著で)。
不登校を解決する親子の関わり
「呪い」から解放され、親自身が心の平穏を取り戻せたなら、次に必要なのは子どもとの関わり方を見直すことです。子どもが生きるエネルギーを取り戻すために、親がどのように関わるべきか、具体的な方法が解説されています。
「親が導くべき」をやめて自分の人生を充実させるについて
多くの親は、子どもを「導くべき」存在だと思いがちですが、それは違います。親は子どもを教え導くのではなく手出し・口出しをせずにただ見守る」関わり方が正しいのです。子どもには、自分で人生を切り拓く力があります。親が自分の人生を充実させることは、「子どもを放置」することではありません。むしろ、親が自分の人生を大切にし、楽しんでいる姿を子どもに見せることで、子どもは「自分も人生を楽しんでいいんだ」と感じ、「自分らしい選択」をして自分の人生を切り拓くエネルギーを得るのです。
不登校は、親が変わる最大のチャンスです。親が人生を謳歌している姿を見て、「あんな人間になりたい」と子どもが心底思えたとき、親子関係は劇的に改善します。
自分の機嫌は自分で取るについて
親が自分の機嫌を自分で取り、心の状態を平穏に保つ努力をすることは、子どもの感情との「同化」を防ぐために不可欠です。親の感情が揺れ動くと、子どももその影響を受けてしまい、自己否定感を強めてしまいます。
親は自分のネガティブな感情を「頑張って忘れる」のではなく、「しっかり味わい」「言葉にして」整理すること(感情の客観視)が必要です。具体的には、ネガティブな感情をありのまま認め、味わい尽くしたうえでそれを”紙に書き出してみる”などが有効です。
また親は子どもから、ネガティブな感情を取り上げないことも大切です。子どもが「つらい」と訴えてきたら、「自分もつらいけど、子どもはもっとつらい」と押し殺すのではなく、「そうか、つらいんだね」と受け止め「自分でなんとかしようと頑張っている」子どもを認め、見守ることが重要です。
子どもの話を最後まで聞ききる
著者は、多くの親が子どもの話を「聞けていない」と指摘します。親子の対話は「誰でもできそうで、できていない親がほとんど」な、シンプルながらも最も重要な関わり方です。
子どもに安心感を与えるためには、子どもの話を最後まで遮らずに聞き切ることが大切です。これは、それまでの「良くない聞き方」の逆をすればいいとされています。
子どもに安心感を与えない「良くない聞き方」6つ:
- 無反応
- 頻繁な相槌
- 否定的相槌を返す(「そうは言ってもね」など)
- 後ろ向きで聞く
- ながら聞き(スマホを見ながらなど)
- 相手の話を奪う
子どもに安心感を与える「良い聞き方」はこれらの逆、つまり
・手をとめてしっかり目を見て
・適切な頻度の相槌で
・否定的な言葉を返さず
・ちゃんと相手を向いて
・ながら聞きせず
・相手の話を奪わない
となります。
また雑談や親が興味を持てない話でも、真剣に聞いてもらうことが子どもにとっての「承認」につながります。
承認シャワーで子どものエネルギーを満たすについて
子どもが生きるエネルギーを取り戻すために親ができる最上位の関わり方は、「承認シャワー」で子どもの承認欲求を満たすこと。
マズローの5段階欲求説に基づくと、不登校の子どもは「安全の欲求」すら満たされていない状態です。親が直接手当てできる最上位の欲求こそが「承認欲求」であり、これを満たすことで、子どもは「自己実現の欲求」に向かうエネルギーを得られます。
「承認」の3つの種類は次の通り
・結果・成果の承認:「できたね」「やったね」と結果を評価を交えずに伝える。
・過程・変化の承認:「ここまで頑張ってきたね」「諦めずに粘ったね」と、相手の努力や変化に目を向ける。
・存在の承認:「名前を呼んであいさつをする」、「そのままのあなたでいい」と、子どもがそこにいること自体を認める。これが最も大切で、日々の実践が欠かせません。
表面的な共感は逆効果
子どもの話を聞く際、気をつけたいのが「共感」と「同調」の違い。「同調」は、会話の中で「うん、わかるわかる」と相手に合わせることです。これは表面的な共感であり、本心からの共感ではない場合、安易な同調はかえって信頼を失う可能性があります。特に、子どもにとって親は「自分の気持ちをわかってくれない」存在だと思われがちなので、「わかる」と言うとイライラさせてしまいます。
「本当の共感」とは、「相手のバックグラウンドや感情を想像し、本気でわかろうと努力する姿勢」です。これは「相手の世界に入り込み、時代背景や性別、その人の経験した感情や苦悩を想像し、本気で相手のことをわかろうと努力する」という行為です。
負の感情への対応に特に注意が必要です。子どもが怒りなどの感情を訴えてきたときは、単純な「そうだよ、つらかったね」といった同調ではなく、怒りの根源となった感情(「バカにされて悔しかった」「傷ついた」など)に焦点を当てて聞くことが、本当の共感につながります。
親子ともども、自分らしい人生を歩む
不登校問題の解決のゴールは、親子の関係が心地良いものとなり、親も子もそれぞれが自分らしい人生を大切に歩むことです。そのための最終的な関わり方が、本書の最終章で示されています。
子どもの思いを尊重し受け止めるについて
子どもが、親の愛情や支援を試すような行動(高価な要求やわがまま)に出た際、親は感情的にならず、子どもの要求の「本気度」を測ることが重要です。
子どもの思いを尊重し受け止めるためには「アサーティブ・コミュニケーション」が有効です。これは、相手の立場を尊重しつつ、自分の言いたいことを率直に伝えるコミュニケーション方法です。親が自分の感情を明確に伝え、子どもがそれを学びの機会とするように促します。
親子の境界線を引くことを忘れない
不登校の問題の背景には、親子の境界線が曖昧な状態だと、家族の機能不全を引き起こす原因となります。子どもが自分の人生を生きるためには、親が子どもの人生に過度に介入せず、適切な境界線を引くことが不可欠です。
親子の境界線を保つための3つのコツは以下の通りです。
- 「ご機嫌でいてほしい」という気持ちを捨てる:子どもに「ご機嫌」であることを求めず、子どもが自分の機嫌を自分でとる機会を奪わないようにします
- 心配ビームを信頼ビームに変える:「大丈夫?」「心配よ」といった心配ビームを、「あなたは大丈夫」「あなたの力を信頼している」という信頼ビームに変えます。
- 気持ちが入らなくても形から入る:頭では理解できていなくても、まずは子どもの話を聞く姿勢や肯定的な言葉かけを形から実践することで、次第に気持ちも伴ってきます。
親子の境界線を引くことは、「子どもから学びの機会を奪うことが一番怖い」という認識を持つことにつながります。子どもが自分の失敗から立ち上がり、学びを得るように促します。
親は子どもの「生涯サポーター」
親の最終的な役割は、子どもの人生に介入する「ヘルパー」や「ルーラー(導く人)」ではなく「生涯サポーター」になることです。サポーターとは、自分の生活や人生を充実させながら、子どもの人生を応援する存在です。親自身が「今、幸せです」と言える充実した人生を歩み、その姿を子どもに見せることが、子どもが自分らしい人生を切り拓くための最大のサポートとなります。困っているときは、親も子どもに「助けて!」と言える対等で心地よい親子関係こそ、不登校問題の真の解決であり、親も子も自分らしい人生を歩むための道なのです