一度子どもが不登校になれば、学校との付き合いは断続的、または途切れてしまいます。この伸縮する関係性をストレスに感じたり、なかには不満や怒りを覚える保護者も多いようです。ここで改めて、不登校児の「学校との適切な関わり方」について俯瞰的に考えてみましょう。
保護者の心理的負担とストレス
慢性的な高ストレス状態
不登校の子どもを持つ保護者、特に母親が、多くの研究で心理的負担や過大なストレスを抱えていると指摘されています。全国の不登校の保護者534人を対象とした調査(伊藤, 2021)では、保護者が日常的に高い「抑うつ」状態にあり(全ての得点が中央値2.5を超過)、同時に「不機嫌である」「腹が立っている」といった「怒り」も抱えている状態にあることが明らかになりました。
またこの調査では、保護者が日常的に「活力」がない状態にあることも示されています(全ての項目が中央値を下回る)。この高ストレス状態が慢性的に続くことで、子どもへの対応はもとより、”学校との関係”にも影響を及ぼすことが指摘されています。
子育てへの自責の念
不登校の子どもを持つ母親は、子どもの将来への不安に加え、これまでの子育てに対する自責の念といった複雑な感情を抱えています。母親は心理的に余裕のない状態で我が子をサポートしようとし、不登校の長期化に伴い、「母親自身の葛藤サイクル」へと発展し、精神的に追い詰められていく様相が見られます(森下・伊藤, 2019)。保護者自身の精神的な状況が、子どもの心理的状態や、子どもへの対応にも影響することが指摘されています。
不登校の現実への悲しみ
不登校という現実に対する悲しみを抱える母親は、気持ちの余裕のなさから、家族や友人との軋轢(「周囲との葛藤サイクル」)が強まり、「学校をめぐる確執」を繰り返し経験する状況にあるとされています。この複雑な感情が、保護者をさらに孤立させ、学校との接点や支援を求めることをためらわせる要因となることもあります。
心身の不調
不登校の子どもを持つ保護者は、日常的に高ストレス状態にあり、体調も優れない状態であることが全国調査(伊藤, 2021)と参加者からの自由記述の両方で明らかになっています。
調査回答者(母親)の自由記述には、以下のような慢性的な心身の不調が確認されました。
- 「心身ともに疲れている」
- 「だるくて、首や肩がいたい」
- 「ストレスで体調不良。頭痛や肩コリが酷い。歯のかみしめが酷く歯も痛い」
- 「胃痛がある」
こどもとずっと一緒の辛さ
不登校の子どもを持つ母親は、子どもとの関係が緊密化しがちであり、子どもと一緒にいること自体をストレスに感じることが指摘されています。
体験談の具体例として、以下のような声があります。
- 「子どもとずっと一緒にいるので、ストレスに感じる」
- 「子どもと一緒に無言のなか時間がすぎるのを待っているのがとてもしんどい」
オンラインでの「親の会」に参加した保護者からは、自宅からの参加では子どもから「完全に離れることはできなかった」という意見があり、母親が常に子どもと一緒にいることによるストレスの高さや、一時的な「母子分離」効果が得られにくいというオンライン開催の限界が示唆されました(伊藤, 2021)。
支援ニーズ
保護者が求める支援ニーズとして、「子どもへのカウンセリング」「学習支援」「進路支援」といった子どもを対象とした具体的支援が高いことが調査で示されています。
同時に、「保護者へのカウンセリング」や「保護者が一人になれる時間や空間」、「くつろげる時間」といった、保護者自身のストレス軽減やセルフケアに関するニーズも同様に高いことが明らかになりました(伊藤, 2021)。
従来の学校現場での「話を聴く」といった受け身の支援の評価は「評価する」と「評価しない」がほぼ半々であり、保護者は同じ悩みを持つ者同士で交流できる「不登校の親の会」のような能動的に参加するタイプの支援も必要としていることがわかります(伊藤, 2021)。
このようにストレスを抱えた保護者に対して、学校側のスタンスはどのようなものなのか?以降は視点を「学校側」へと切り替えて、考えていきましょう。
学校/専門機関の視点と連携
文科省の姿勢と不登校の捉え方
文部科学省は2016年9月に、「不登校というだけで問題行動とみなしてはならない」との通達を出しました(文科省, 2016)。不登校の期間を「休養や自分を見つめ直すなど積極的な意味を持つこと」として捉え、支援においては「不登校児童生徒に寄り添い共感的理解と受容の姿勢」を持つことが重要という見解が示されています。
2016年の「教育機会確保法」によって、不登校児童生徒の学習の権利の保障が重視され、多様な支援の場(フリースクールなど)の選択肢を奪ったり、否定したりすべきではないと示しました。すべての学校は、この前提を踏まえての生徒/保護者対応が基本となってきます。
保護者の要望を踏まえての対応
一方で保護者として学校に最も求めていることは、「”自身の子ども”のことを知って欲しい」ということです。
保護者は、学校に行けない子どもが劣等感から友達との連絡を絶つ状況を心配し、「せめて先生だけでもうちの子どもと繋がって欲しい」と願っています。
また保護者は「どこに相談すれば良いのか分からない」ため、とりあえず先生(担任)が最初の相談先になります。このとき保護者は、先生が忙しいことや「モンスターペアレント」と思われたくないという遠慮から、「学校にどこまで、どのように頼んで良いのか分からない」という迷いや戸惑いのスタンスで臨んでしまうという難しい現実があります。
教師による保護者/生徒への対応(連携)
定期的な連絡
まず先生は、保護者と”1~2週間程度”の間隔で定期的に連絡を心掛けます。これは保護者が”毎日”連絡を受けることを「負い目を感じる」ため辛く感じるためです。一方学校側としては連絡を待つ「待ちの状態」になってしまうと学校への不信感につながることがあり、現在はこのような間隔が主流のようです。
生徒と話したい気持ちを伝える
定期的な連絡をする際、「最近〇〇さんはどうですか?」と様子を聴くだけでは、保護者が「変わりありません」と答えることが続いてしまい無力感を感じやすいようです。
このとき先生は、様子を聴くだけでなく「〇〇さんとお話したいのですが、替われますか?」と生徒本人と話したい気持ちを伝え、生徒本人との接点を持つきっかけが生まれることがあります。ただ生徒と先生の関係、および不登校につながった原因によって、このときの反応は様々のようです。体験談では多く「拒絶」されてしまう一方
・「学校に行けない不安を全部取り除く」と先生が言ってくれた
・初めて”誰かが本気で寄り添ってくれている”と感じることができた
という”先生が真剣に向き合おうとする姿勢が転機になった”という体験談もあり、熱心な先生ほど様々なアプローチを心がけようとします。
あって話す機会を持つ(家庭訪問/学校面談)
先生側は「電話」連絡だけでなく、可能であれば「家庭訪問」として具体的な行動で保護者や生徒に安心感を伝えようとします。家庭訪問の場合は15分から30分程度の場合が多いようです。
生徒へメッセージを伝える
しかし保護者との連携ができても、肝心な生徒本人との接点が一歩足りないケースが多々あります。生徒との接点が中々持てない場合、電話や面談だけでなく「手紙」を用いて「あなたは学校の生徒である、心配している」というメッセージを伝えていくこともあります。
・担任がわざわざ家まで、提出物や行事の案内などを届けてくれた
・校長先生が「今は無理せず、部活だけでも十分だし、来られる時があればそれでいい」と手紙で伝えてくれた
学校には行けてはいないし今は直接会えないけれど、それでも“無視されていない”ということを生徒が感じられること。それが安心感や言動の変化につながることもあるようです。
「待つ姿勢」だけでなく「できることのフォロー」
保護者の気持ちに寄り添うことは大切ですが、「焦らず心のエネルギーが溜まるまで待ちましょう」といった「待つ姿勢」のみでは、逆に「学校は何もしてくれない」と受け止められてしまいます。
現状で「できる限りフォローします」という積極的な姿勢を示すことで、保護者や生徒に少しでも歩み寄りたいのが先生側の心情です。迎える保護者側も、できる限り対話・協調的な態度で望みたいところです。
参考文献
- 文部科学省. (2016). 不登校児童生徒への支援の在り方について(通知).
- 伊藤美奈子ほか. (2021). 不登校の保護者への心理教育的支援による親子関係改善の取り組み. 奈良女子大学心理臨床研究, 9, 5-16.
- 伊藤美奈子ほか. (2021). 不登校 その心もようと支援の実際. 金子書房.
- 森下文・伊藤美奈子. (2019). 不登校児の母親に対する支援過程についての検討. 日本教育心理学会第61回総会発表論文集, 388.
- 文部科学省. (2020). 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(令和元年度)