はじめに
前回の記事でもふれたように、不登校の子どもたちにとって”学校以外にも安心できる居場所”があることはとても大切です。その一つがフリースクールであり、学校に通うことが難しい子どもたちに対して、それぞれの状況に合わせた学びや体験の場を提供する場所です。
フリースクールでは、学習だけでなく相談や体験活動を通して、“子どもたちが自分らしく過ごせる環境”を大切にしています。学校生活にうまくなじめなかったり、特別な支援が必要だったりする子どもにとって、安心して心を落ち着けることができる場所になることも少なくありません。
ただし、すべてが良いことばかりではなく、デメリットや運営上の課題も存在します。そのため、フリースクールの特性をよく理解し、子どもにとっていちばんの環境を見つけることが大切です。
フリースクールの評判
メリット
フリースクールは、不登校の子どもたちにとって安心できる居場所です。学校や家庭でのストレスから解放され、自分のペースで学び直したり休養したりすることができる環境があります。
- 少人数制や個別指導で集中しやすい
- 学習意欲や成果を認めてもらえ、自己肯定感が高まる
- 通学が難しい子どもは、オンラインで学習や交流ができる
- フリースクールをきっかけに、理系進学や海外留学に挑戦するなど将来の可能性を広げる例もある
デメリット
一方で課題もあります。
- 運営主体や理念がさまざまで、内容にばらつきが大きい
- 正式な学校ではないため、高校卒業資格がそのまま得られないことが多い
- 在籍校で”出席扱い”となるためには、学校や保護者との連携や校長判断が必要
- 費用が公立学校より高め(入学金5〜20万円、月額3〜10万円程度)
体験談
実際に通った子どもや保護者からは、こんな声が寄せられています。
- 「勉強しない日があっても受け入れてもらえたことで、罪悪感やプレッシャーから解放され、心が安定した」
- 「家庭内での暴言や暴力が減り、親子関係が改善した」
- 「将棋やプログラミングを通じて算数や英語を学びたいという意欲がめばえた」
- 「自分に合ったペースで自信をつけることができ、合宿の実行委員長などに挑戦できた」
- 「遠方だったが雰囲気の良さに惹かれて丸4年通った」
- 「オンラインで出会った友達と実際に会い、すぐに打ち解けられた」
こうした体験談からも、フリースクールが”子どもにとって安心できる第二の居場所”として機能していることがわかります。
フリースクールとは
ここで改めて、フリースクールについて見ていきましょう。
定義
フリースクールは、学校教育法で定められた正式な学校ではありません。その運営のかたちもさまざまで、NPO法人が約4割、会社組織が2割ほど、そのほか個人や任意団体によって運営されているところもあります。制度的な制約が少ない分、それぞれの施設が独自の方針を持ち、活動内容もバラエティ豊か。学習に力を入れているところもあれば、体験活動やコミュニケーションを重視するところもあります。
役割
フリースクールの大きな役割は、不登校の子どもたちに”安心できる居場所”と”学びの機会”を提供することです。
(例)
- 子ども一人ひとりの自主性や興味を尊重する
- 自己肯定感を育てる
- 心身の成長をサポートする
学習支援だけではなく、カウンセリングや個別のサポートでメンタル面のケアも行っています。さらに、保護者向けに相談会や交流会を開くなど、家庭への支援を大切にしている施設も多くあります。
フリースクールは、子どもたちが”学校に行けない=ダメなこと”と思い込んで自己否定に陥るのを防ぐための“シェルター的な役割”も果たしています。安心できる居場所があることで、子どもたちは「もう一度やってみよう」という気持ちを取り戻しやすくなるのです。
フリースクールの強みと弱み
子どもに寄り添う学びの場
フリースクールは、学校になじめない子どもにとって”もう一つの選択肢”となれる場所です。
一定の条件を満たせば、在籍している学校で出席扱いになることもあります。これは、将来の進路を考えるうえでも大きな意味を持ちます。
また、フリースクールの大きな強みは“一人ひとりに合わせた柔軟なサポート”です。
スタッフが子どもとじっくりと信頼関係を築きながら、その子のペースに合わせて学習や生活を支援します。さらに、フリースクールの存在は結果的に学校教育にも影響を与えており、サテライト教室の設置など、学校の新しい仕組みを生み出すきっかけにもなっています。カウンセラーが常駐している施設もあり、学校では対応が難しい複雑な事情を抱えた子どもにも寄り添える点は、フリースクールならではの強みです。
運営を続けるうえでの大きなカベ
一方で、運営面にはさまざまな課題があります。
(例)
- 多くがNPO法人や民間企業の運営で、財政基盤が不安定
- 行政からの公的支援が乏しく、授業料依存になりやすい
- 授業料は家庭の負担が大きく、利用を諦めるケースもある
スタッフ側の悩みとしては、
- 「財政が安定しない」
- 「待遇や給与が低い」
- 「やることが多すぎる」
といった声が多く聞かれます。
さらに進路指導では、
- 生徒自身の進路意識が低い
- 社会や職業に関する知識が不足している
- 発達障がいや精神的な課題を抱える子の進学・就職先が限られている
などの難しさも指摘されています。
フリースクールは、子どもたちにとって大切な回復の場である一方、運営を支える仕組みは十分とはいえません。運営の経済的な負担を軽減する制度づくりや、支援体制の拡充が、今後の大きな課題だといえます。
子どもに合ったフリースクールの選びかた
フリースクールのタイプ
フリースクールの活動目的や理念はさまざまですが、主に次のような5つのタイプに分けられます。
- 居場所重視型:子どもたちが安心して過ごせる「居場所」となることを目的とする
- 学校復帰型:再登校をゴールに据え、学習や生活習慣を整える
- 専門サポート型:教育者や心理士など専門家が関わり、個別の課題に対応する
- 医療連携型:医療機関と協力し、心身のケアと学びの両立を支援する
- 訪問型:通学が難しい子どもに対し、自宅での学習や生活支援を行う
さらに大きく見ると、フリースクールは以下の3つの志向に分類されます。
- 不登校問題志向:不登校の子どもに居場所を提供し、安心を最優先にする
- 新しい教育志向:従来の学校にとらわれない新しい学び方を実践する
- 学習サポート志向:進学に向けた教科学習や通信制高校の支援を行う
近年では、これらを組み合わせた中間型のフリースクールや、発達障がい・学習障がいを持つ子どもを対象とした療育的サポートを取り入れるところも増えています。
タイプごとに異なる支援のかたち
フリースクールにはそれぞれ特徴があり、子どもの状況やニーズに合わせて役割が異なります。
- 居場所型
学習よりもまずは心の安定を優先します。子どもたちが安心して自由に過ごすことで、社会性や自分らしさを取り戻すことを支援します。 - 学校復帰型
個別指導や少人数制クラスを取り入れ、子どものペースに合わせた指導を行います。学校生活に戻るための準備を整える役割を担います。 - 学習サポート型
多くのフリースクールで行われている取り組みで、個別学習(91.6%)が中心です。特に15〜19歳では、通信制高校の学習サポート(77.9%)や教科の補習(58.4%)が大きな割合を占めています。 - 専門サポート・発達支援型
発達障がいや学習障がいを持つ子どもを対象に、心理士や教育者が関わり、一人ひとりの教育計画を立てます。 - 訪問型・オンライン型
通学が難しい子どもには、スタッフが家庭に訪問して支援するケースもあります。また最近では、オンラインフリースクールも選択肢の一つとなり、自宅から学習や交流に参加できるようになっています
エネルギーを回復するプロセス
不登校を経験した子どもがフリースクールで少しずつエネルギーを回復していく過程は、
①個人のステージ
②対人関係のステージ
③環境のステージ
という3つの段階に分けられます。
個人のステージ
学校で感じていた”強制感”や”窮屈さ”から解放され、フリースクールでは”強制されない安心感”を得ることができます。その中で自己決定ができるようになり、自分らしさを取り戻すことができるようになります。さらにフリースクールには”遅刻”の概念がなく、プレッシャーなく”規則正しい生活を整えるきっかけ”が得られます。
対人関係のステージ
“上下関係”や”いじめ”を取り除くといった方針のもとで、思ったことを素直に言える環境が整っています。これにより良好で素直な人間関係を築くことや、同じ経験を持つ仲間と違いを認め合い、尊重し合うことができるようになります。
環境のステージ
カフェでの就労体験など、フリースクールならではの”特別な体験”を通じて、自己成長の機会を得ることができます。これは社会に出るための準備となり、親子関係の改善(ほどよい距離感や適切なサポート)にもつながります。
再登校までのプロセス
子どもが不登校からフリースクールを経て、再登校や進学を決意するまでには、いくつかの心理的な段階があります。2022年のインタビュー調査をもとに、その流れをまとめます。
起点
はじめは“家庭に安心できる居場所がある”と感じることです。
(例)
- 否定されない安心感
- 家庭内での役割
- 責任に縛られない自由な時間
- 家族と過ごす心地よさ
こうした体験が、自己肯定感の回復につながります。
葛藤
安心感が戻る一方で、
- 退屈さ
- 同級生との差
- 将来への不安
といったことから、「このままではいけない」という気持ちが芽生えはじめます。
行動
家庭で自信を取り戻すと、新しい出会いや未来の自分への期待が、「フリースクールへ行ってみよう」という覚悟につながります。
成長
通いはじめは戸惑いや孤独を感じることもあります。
しかし、友達とのかかわりや小さな成功体験を重ねることで、
- 人とかかわる自信
- 一歩ずつ進んでいる実感
を得られるようになります。さらには家族との距離感も変化し、親子関係の再構築がはじまります。
終点
進級や学期の区切り、仲間との前向きな別れをきっかけに、「やはり学校に戻ろう」「次のステップへ進もう」という思いが強まります。不登校の時間を”無駄”と感じつつも、”自分に必要な時間だった”と意味づけることで、最終的に再登校を決めるのです。
まとめ
フリースクールは、不登校の子どもたちにとって、自己肯定感を育み、再登校や将来の自立に向かうための大切なきっかけとなる場所です。
フリースクールを選ぶときは、
- 子どもの興味や好きなことに合っているか
- 教育方針や家庭の価値観に合っているか
- 評判や実績を確認できるか
- そして何より子どもの意見を尊重できるか
これらを大切にしたいものです。
そして、支援のゴールは”学校に行くかどうか”ではなく、“子どもが安心して学べる環境を見つけること”です。そのためには、家族でよく話し合い、子どもにとっていちばんの選択肢を見つけることが大切です。
また、フリースクールだけではなく、
- 通信教育
- オンライン学習
- 家庭でのサポート
など、さまざまな学びのかたちがあります。大切なのは“その子らしい学び”を見つけることです。
参考文献
- [今日的な不登校支援にかかわる現状と課題.pdf]
- [フリースクール 体験談.txt]
- [フリースクールでパワーを回復するプロセス.pdf]
- [2024 不登校児童生徒の類型と回復過程.pdf]
- [フリースクールを経て再登校.pdf]